CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/4/29]投げたらあかん

4月29日(月)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 投げたらあかん

A社の倒産プロセスをみると、1番の問題は経営者が姿を消したことにある。労働組合結成の一報を受けて、立ち向かうどころか弁護士に任せて、自らは逃げたことである。なぜ逃げるのであろうか。

運送業の経営者の中には、組合が結成されたことを理由として行方不明になったり、時には自殺する者さえいる。確かに組合の要求にはすぐさま応えられるものではない。もともと労働基準法を意識して経営してきたわけではない。経営者のハラとしては「労働基準法をすべて守るということになると、運送業は成り立たない」と確信している。それが組合ということになると、そうもいかない。だから「お手上げ」となって逃げるわけである。さらに絶望するということがある。

「うちの乗務員が赤旗立ててオレに刃向かってくるとは、何たることか」と意気消沈し、お先真っ暗の心持ちになる。経営へのやる気がヘナヘナと崩れていく。絶望するわけである。立ち向かうより消えてなくなる道を歩んでしまう。ここのところが問題である。A社の教訓の第1は“逃げない”ことである。逃げてしまえば経営を捨てることになるからだ。

第2の教訓としては、コミュニケーションの不足である。A社長はワンマンタイプを全面に出して今までやってきた。乗務員の言うことに耳を傾ける余裕がなかった。

「オレの言うことが聞けなければいつでもヤメロ」、でやってきた。「社長の口癖は“ヤメロ”だ」と乗務員は言い合ってきた。圧倒的にコミュニケーションの不足である。1人ひとりとひざを交えて話し合うことがなかった。心が通い合っていなかった。

第3の教訓としては、中小運送業の置かれている経営の厳しさである。楽ではない。払いたくても払えないのである。この経営の厳しさを受け止めていく勇気がいるということである。勇気とは何か。それは自社の直面している現実を働く1人ひとりにしっかりと伝えること。そして、経営の方向性をどうするか ―示すことである。

お先真っ暗ではない。努力する方向を示すことである。それが経営者の仕事というものである。経営の苦しさを外部に求めて、環境のせいにするだけでは問題は解決しない。自力の経営であることだ。

単なる賃金カットはその場限りの対処である。根本的な解決とはならない。賃金カットではなく、賃金の支払方法、いわゆる賃金制度の根本的改革こそが本筋である。

A社の倒産プロセスは、中小運送業者にとっては、他人事ではない。自らの問題であり、いつ自社に振りかかってきても不思議ではない。これに対する根本的な備えは何か。

それは経営者のハラである。逃げない経営である。方向性、生き抜く道を指し示していく勇気である。そして何よりも、コミュニケーションを大切にすることである。A社長の逃げ回った姿から、深く学ぶことである。逃げていては問題は解決しない。勇気をもって立ち向かうことである。

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月30日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/28]社長にも限界が…

4月28日(日)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 社長にも限界が…

組合が結成されて2ヶ月経過した秋には、A社長は入院してしまった。心労が重なったからだ。経営者が出てこない団体交渉で、A社長の代わりに妻が出席する。それに代理人の弁護士である。組合も振り上げたこぶしの収まりがつかない。

組合いわく「貴社においては○○支部○○分会を公然化し、一方的な賃金ダウン、一時金のカットの撤回を求めてきました。貴社は団体交渉には応じるものの、○○弁護士を代理人とするなど、責任ある対応を回避しています」。

A社長は経営者たることを捨てた。入院である。全く出社してこない。結局、組合を結成して1年余りでA社は倒産した。経営者不在なので当然である。A社長からすれば、労働組合が結成された時点で経営意欲を喪失したわけである。

トラック20台の運送業者として、荷主の運賃値引きに耐えて今まで頑張ってきた。乗務員も年間3,000時間に及ぶ長時間労働によく踏ん張ってくれた。時間外手当は払わない。歩合給中心である。これで今まで何ら問題がなかった。それなのに賃金カットが原因で会社は立ち行かなくなってしまった。もともとやっていけないから賃金カットをしたのに、元に戻してやっていけるはずはない。「万事休す」である。A社はつぶれるべくしてつぶれた。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月29日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/27]押し寄せる要求

4月27日(土)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 押し寄せる要求

A社長はうろたえるばかりである。だれに相談したらいいか、とっさに思い浮かばない。とりあえず経理を担当していた妻に相談するが、案は浮かばない。今までひたすら働いてきた。経営者とは名ばかりで、人がいなければ車にも乗る。「団体交渉」を開いてもどうしていいか分からない。賃金をカットしたのはそうするしかなかったからだ。

自らの役員報酬も月100万円から50万円に減額している。それなのにいきなり「労働組合結成」とは何たることだ。胸元にあいくちを突き付けられているようなものだ。組合に入った乗務員10人はいずれも10年以上の勤務経験がある。分会長になった者は、入社した時は住む家もなかった。そこで、アパートを借りて会社の寮として住み込ませ、支度金として30万円を渡したこともあった。その男が分会長である。「分会要求書」にはずらっと要求が並んでいる。

「要求書いわく」

(1)会社は労働基準法をはじめ諸法律を遵守すること

(2)会社は就業規則を明示し、就業規則の周知義務を果たすこと

(3)会社は賃金カットおよび夏季一時期カットを白紙撤回すること

(4)会社は現行賃金制度を見直し、賃金体系を改善すること

(5)会社は法律に基づき年次有給休暇を付与すること

(6)会社は法律に基づき週40時間制を遵守すること

(7)会社は時間外未払賃金を直ちに支払うこと

(8)会社は要求に基づき夏季1時金を支給すること

(9)会社は労働安全衛生法に基づき健康診断を実施すること

(10)その他

ありとあらゆる要求が並んでいる。考えてみれば今までできていないことばかりだ。この要求をすべて呑めば、間違いなくつぶれる。やりたくてもできなかったのだ。毎日生きていくのに精一杯で、労働基準法どころではなかった。しかも「夏季一時金要求書」は組合員1人当たり25万円の要求である。今までは1人平均10万円の支給であり、今回はさらに5万円へとダウンしている。もともと恵まれた労働条件ではなかった。事務のスタッフは妻と娘で担当してきた。家族経営である。それがあいくちを突き付けられた。

「自分は団体交渉に出たくない」 ―A社長は、妻に訴える。しかし、矢のように組合は迫ってくる。「法律を守れ」と要求しているので、妻は弁護士に相談することにした。つてをたどって若い弁護士に会うことができた。この若い弁護士を代理人として団体交渉に出てもらうことにした。A社長の報酬50万円をさらにダウンさせてゼロとし、その分、代理人に支払うことになった。このケースは珍しい。裁判になってもいないのに、いきなり弁護士の登場である。しかも、団体交渉における経営者の代理人である。

つづく

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| 投稿日: 2019年04月28日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/26]不満の爆発

4月26日(金)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 不満の爆発

A社は車両台数20台の運送業者である。ここ2年間、昇給なしで頑張ってきた。それでもついに4月の給与改定での賃金カットに踏み切った。一律10%のカットである。すると労働組合が上部団体の分会として公然化した。賃金カットに対する反発である。分会員には乗務員20人の50%、10人が含まれていた。労働組合加入通知書が突き付けられたわけである。

「今般、貴社の従業員が○○支部に加入し、当組合に所属されましたのでここにご通知申し上げます。労働者が労働組合に加入することは法律によって保護されています。すなわち、憲法28条では、“勤労者の団結する権利および団体交渉、その他の団体行動をする権利はこれを保護する”さらに、労働組合法の第7条では“(1)労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入もしくはこれを結成しようとしたこと、もしくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもってその労働者を排除し、その他これに対して不利益な扱いをすること、または労働者が労働組合に加入せず、もしくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。(2)使用者が雇用する労働者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと。(3)労働者が労働組合を結成しもしくは運営することを支配し、もしくはこれに介入すること” ―を不当労働行為として禁止しています」

A社長はガクゼンとする。血の気が引く。「これがうわさに聞いていた組合か。乗務員の50%も分会に入るとは、何たることか」。さらに、労働組合加入通知書と一緒に、「夏季一時金要求書」と「分会要求書」および「団体交渉申入書」を渡された。

「団体交渉申入書」は5日後に団体交渉を開く旨、申し入れている。場所は○○支部の上部団体の組合事務所である。要求事項は「①分会に分会事務所と掲示板を貸与すること、②組合員に影響を与える問題(身分、賃金、労働条件などの変更)については、会社は事前に組合と協議すること、③会社は組合活動については就業時間内であってもこれを認め、平均賃金を保証すること」 ―とある。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月27日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/25] 引き継がれると信じて

4月25日(木)

生きつづける精神― 事例A

 

(1) 引き継がれると信じて

人材育成と営業開拓への取り組み強化を行動計画の柱に据えて、A社はチャレンジ行動を開始した。

A社の永続化へ向けてのチャレンジである。奇手妙手はない。人材育成と営業開拓の王道を行くのみ。

企業再生のプロセスは、経営理念をベースとする変革行動にある。その際、ないない尽くしを絶望することはない。むしろ、ないない尽くし、いわば、人もいない、金もない、夢もないほうが、紙一重のところで逆転する。ないからこそある。知恵がある。闘志がある。前向きの力がある。

失うことと獲得することは紙一重、生と死が隣合わせみたいなものである。「倒木更新」の自然のリズムは、企業生命のリズムにも相通じる。深い深い思いを伝えていくことだ。

言い換えれば、経営理念、A社では荷主第一、家庭平和、社会貢献ということになる。このコトバは生き続ける。日々を精一杯生きていく中で、必ず引き継がれていく。信ずることである。永続する志を、強く持つことである。

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月26日 | 投稿者: unityadmin