CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/3/20]中小企業の取り柄

3月20日(水)

情と非情のバランスシート― 事例A

 

(1) 中小企業の取り柄

30周年の記念パーティーで社員に感謝の涙を見せている社長を見ると、本当は情のある人だと思ってしまう。しかし、ここまでの歩みは非情にならざるを得ない局面もあった。情と非情のバランスである。中堅中小企業の経営者にとってはこのバランスが肝要である。A社長を見ていて、つくづく悟らされる。情だけが先行すると、会社は甘くなり、なあなあになり、だらけてくる。非情オンリーでいくと、ぎすぎすし、ピリピリし、金の切れ目が縁の切れ目となる。さらに言えば、中堅中小企業にとっては、情のウエイトが非情より大きい。

「厳しくやかましく言っているけど、おやじは助けてくれる。何とかしてくれる」。この温かさが、中堅中小企業の取り柄である。極論すれば、学歴がなくても親がいようといまいと、少々能力が落ちても“あいさつ”と“うそを言わない”(誠実) ―これさえ、しっかり肝に命じていれば、おやじから捨てられることはない。いわば、深いところでの安心感、信頼感こそ、情と非情のバランスの要と言えよう。

A社長はそっと、お金を社員に握らせる。「死んだらいつでも眠られる」と言って働きにいかせた運転手が、やっとのことで、仕事を終えて会社に戻ってくる。ふらふらである。A社長は彼の帰りをじっと待っていた。A社長も必死である。

「ご苦労さん。よくやった」と一言褒めて肩を抱く。そして「取っとけ」と言って、お金を1万円握らせる。絶妙の間合いである。ドラマを見ているようだ。

運転手の顔が輝く。情と非情のバランスの輝きである。目に見えないバランスシートの真骨頂。バランスシートは、右側と左側がバランスしている。A社長を見てみると、どうも深いところでは情が重い。目に見えないバランスシートを支えるものは安心感、信頼感ということになる。含み益とでも言えよう。

A社長のバランスシートは、やはり情が重い。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年03月21日 | 投稿者: unityadmin

[2019/3/19]社員を活かす道

3月19日(火)

情と非情のバランスシート― 事例A

 

(1) 社員を活かす道

ある運転手が社長のところに来た。

「社長、すいませんが、給料を前借りさせて下さい。年老いた母が病気で入院しました。入院代がかさんでいるののです」

「ダメだ。もっと働け。サラ金には行くな」

A社長は見抜いている。「彼はギャンブルで首が回らなくなっている。ここで前借りさせても、ますます深みにはまる一方である。ここは突き放すことで、立ち直りに賭けてみよう」。

A社長の心が分からない彼は、「前借りもさせてくれない鬼」と恨む。「こんな会社、辞めてやる」。しかし、辞めても行くところがない。「ギャンブルを控えるしかないか…」。

A社の配車係が不正を働いた。傭車先の業者からの金をポケットに入れた。傭車先の業者を使う見返りとして1台について、1,000円のコミッションを懐に入れていた。総額が50万円になったところで、発覚した。この配車係は、よく働く男である。日曜日も祭日もなく働く。筆者はA社長から、どうするべきか相談を受けた。「配車係が50万円ポケットに入れました。わたしに泣いて謝るんです。社長の言う通りにします。思い切り処分して下さい。クビにして下さい」と言っています。ポケットに入れた50万円の使い道は白状しません。“すいません”と言うだけです。どうしたらよいでしょうか」。

「言うまでもなく即刻、クビです」。A社長は心の底ではクビにしたくないのである。一般的にはクビが当然である。でもA社長はクビにしたくないのである。

「彼には3歳の子供がいる。わしのところで育った人間だ」。結局、A社長はクビにしなかった。彼に反省文と50万円の借用書を書かせて、運転手に戻した。

「1ヵ年しっかり運転手をやれ。そしたら、また配車係に戻してやるよ」。既に1ヵ年たって、彼は配車係に復活している。

筆者は、A社長に尋ねた。「どうして、クビが当たり前なのに、残したのですか」

「彼にもよいところがある。何しろ、よく働く。辞めると言って聞かない者は、引きとめても無駄だが、彼はまな板に載ったコイ。“どうぞ処分して下さい”と言っている。こうなれば、活かす道を見付けていくのがよい。なかなか、よく働く人を見付けたり、育てたりするのは大変だよ。確かに50万円は個人では大金だが、会社にとっては大したことはない。活かす道が大切だよ」

A社長は情のある人か、それとも非情の人か、どちらとも言える。「配車係に3歳の子供がいる」と言って情をかけたのは、ポーズではない。実は、A社長は車1台でスタートしたころ、乳飲み子を抱えていた。女房と乳飲み子を助手席に乗せて、1日24時間、文字通り働き抜いた。子供を見ると弱い。こうした背景があるのである。まな板に載ったコイにとどめを刺すことはしないというか、できない。

では情のある人か。A社長はお金にシビアなのである。「金のないのは首のないのと同じや」といつも言っている。無駄なお金は一銭たりとも支出しない。その意味では非情。配車係が傭車を頼む。そして、傭車先に車のナンバーと運転手名を確認する。この確認電話について、A社長は言う。

「向こうから掛けさせ。電話代が無駄や」

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年03月20日 | 投稿者: unityadmin

[2019/3/18] 褒めない社長

3月18日(月)

情と非情のバランスシート― 事例A

 

(1) 褒めない社長

企業経営の現実に踏まえてみると、「情と非情のバランスシート」という言葉が浮かんでくる。

情とは思いやりとか愛情、非情とは経営数学、シビアさ。このバランスが一方に偏ると、企業経営はうまくいかない。情と非情のバランスシートは、企業経営者にとって、核心的な経営原則である。

A社は、創業者である現社長が車1台からスタートして、いまは100台の陣容となっている中堅物流企業である。A社長の生き様を見ると、情と非情のバランスについて、考えさせられる。創業30周年の記念パーティの時、あいさつに立った社長。創業時の苦労を思い、社員に対して感謝の言葉を述べる。「いろいろな風雪に耐えて、よく今まで力を合わせて頑張ってくれた。心から感謝する…」。ここまで言って、言葉に詰まっている。一瞬、何事かと固ずを飲む。

よく見ると、A社長は泣いている。感極まっている。この光景を見ると、人情家というか、涙もろい社長ということになる。ところが、日ごろの社長は厳しい。

社内で伝説となっているエピソードがある。ある乗務員が連日のハードワークに音を上げて、配車係に「もうしんどい。休ませてくれ」とアピールした。確かに早朝から16、17時間働き詰めである。配車係も「これ以上走らせると危ない。休んでもらおう」。

すると横にいたA社長いわく、「この荷物は、どうしてもあすの朝一番に届けてくれ―との荷主の願いだ。もうお前しかいない」と、しっかと運転手を見据える。そして一言、「いつでも休めるやないか。棺おけに入ったらぐっすり眠れる」。

ひとしきり社内で話題になる。「なるほど、死んでしまえばいつでも休めるか」。それにA社長は、運転手を常日ごろ厳しく注意している。労務管理の原則の1つとして、〝褒めて使え″と言うことがある。A社長はなかなか褒めない。むしろ、日常はビシッとしかることが多い。あいさつをせよ。うそを言うな。この2つに反すると、ビシッとしかる。だから、運転手はピリピリとしている。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年03月19日 | 投稿者: unityadmin

[2019/3/17]苦あれば楽あり実践

3月17日(日)

トップのコミュニケーション― 事例A

 

(1) 苦あれば楽あり実践

A社のトップはEQが高いのである。倉庫作業で深夜に及ぶ日々が続くと、現場を巡回して倉庫のリーダーに一声掛ける。「ご苦労さん。これで、暖かいものでもみんなに振る舞ってほしい」と、ポケットマネーで、2、3万円手渡す。受け取ったリーダーは一瞬、ポカンとするが、「ありがとうございます」と奮い立つ。大きな荷主開拓に成功した社員にも、ポンと現金を渡す。「よくやったね」――お金の渡し方が絶妙である。人情の機微に深く通じているのである。

A社の新年会は盛大である。ホテルで行う。参加者全員にお土産がある。芸能人もくる。ここぞと、日ごろの働きに対して報いるのである。家族も招待される。参加者はみんなうれしく、楽しそうである。満面に笑みをたたえるトップ。〝苦あれば楽あり″といったコトバが自然に出てくる。

カリスマ性とは、メンバーにとっては信服するシンボルである。頼りになる存在である。心で結びつく。金の切れ目が縁の切れ目とはならないところがある。

A社のトップは、会社行事の節目、節目では社員と溶け合うが、日常は一歩距離を置いている。公平であるためである。創業期は毎日のように酒を飲んだりしてたが、今は公平を保つために、距離を置いている。全メンバーと等しく付き合い、酒を飲んだりすることは、今となっては不可能だからだ。どうしても偏ってしまうからだ。この姿勢がカリスマ性にも磨きを掛けている。

共感性とは相手の立場、心が読みとれるということだ。乗務員が1年間事故ゼロを達成すれば、報奨金を渡しながら、目に涙すらうっすり浮かべて、ともに喜ぶ。事故を起こしてガックリしている乗務員を、励ます。そのためにも、日ごろはやかましく注意し続けている。励ますとは、失敗してしょげ返っている時に、もう一度チャレンジしていく気持ちを起こさせることだ。

自制力とは、目標のためには、我慢する力のことだ。衝動や激情に身を任せることなく、グッと耐えていく力のことだ。

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年03月18日 | 投稿者: unityadmin

[2019/3/16] 耐え抜く粘りと辛抱

3月16日(土)

トップのコミュニケーション― 事例A

 

(1) 耐え抜く粘りと辛抱

◎自制力

自制力とは、セルフコントロールのことである。自分で自分を律し切ることである。A社のトップに自制力がある。目標実現へ向けて、ただ今の厳しさから逃げずに真正面から立ち向かい、じっと耐えていく力がある。粘りと辛抱がある。

例えば、荷主の担当者の中には、業者だということでA社長を二束三文に扱う人もいたという。トップの胸ぐらをつかまえて、「この野郎、顔を洗って出直してこい」。クレーム対応で頭を下げに行ったトップに対して、この担当者はボロクソにトップを面罵したという。「ちょっとここで待っておけ」と言い捨てて、この担当者はどこかへ立ち去り、やむを得ずトップはじっと、1時間も立ちっ放しで待ったという。1時間ほどしてこの担当者は現れて、「君、そこで何してる」と言い放った。それでもトップは怒った顔、そぶりをこれっぽっちも見せなかったという。

トップの心は荷主第一で、決してケンカをしないで尽くし抜くのが自己の役割―――との認識があったのである。一時の激情に襲われてしまってはいけない。ここは、自らの会社と社員のために我慢する時、と思い定めていたわけである。トップのすごさはカリスマ性、共感性、自制力ということになる。

A社のトップは特別な存在であろうか。活力のある物流企業にとっては、こうしたトップの存在が珍しいことではない。むしろ発展、成長する物流企業にとっては、こうしたトップの存在は不可欠と言ってもいいのではあるまいか。「こころの知能指数」が高いのである。「こころの知能指数」とは、「自分自身を動機づけ、挫折してもしぶとく頑張れる能力のことだ。自分の気分をうまく整えて、感情の乱れに思考力を阻害されない能力のことだ。他人に共感でき希望を維持できる能力」のことだ(「EQ―こころの知能指数」ダニエル・ゴールドマン著、講談社刊)。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年03月17日 | 投稿者: unityadmin