CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/4/16] A社労働組合の決起

4月16日(火)

大切な心の経営― 事例A

 

(1) A社労働組合の決起

A社労働組合の上部団体は、物流業界では経営者からすれば手強い相手である。名前を聞くだけで、「そんな組合ができたら、オレは会社をつぶす」と息まく経営者もいるほどである。そんな労働組合がA社にできたのである。

59歳の分会委員長いわく「そりゃわたしも、この年で組合なんかにかかわりたくありません。でも、今の社長はひどすぎます。働く者の心を踏みにじっています。先代の社長はいい人でしたよ。先代社長が生きていたら、組合なんかつくりませんよ。わたしが交通事故で入院した時、よく見舞いにきてくれたのが先代ですよ。今のぼんぼん社長は、社員がケガしても振り向いてもくれません。ここはひとつ労働組合をつくるしかありません」。

A社労働組合は、結成の通知と団体交渉の申し入れをする。ここは柔らかくいくことにしている。「組合の掲示板を作って欲しい。組合事務所を設置して欲しい」である。これには上部団体の指導もある。

上部団体のオルグいわく「おたくの社長は超ワンマンですね。今ごろは血気にはやって“組合なんかつぶしてやる ―”と煮えたぎっているはずです。そこで、最初からケンカを売るよりも労働組合を認めさせることが先決です。労働組合は国が定めている適法な団体です。ところが、二代目社長は絶対認めないでしょう。そこで柔らかくいくのです。団体交渉を積み重ねていって、本丸に迫っていくのです。本丸とは本当の意味での労働条件の向上・獲得です。いずれにしても、われわれに任せてください。」

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月17日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/15]二代目社長の経営姿勢

4月15日(月)

大切な心の経営― 事例A

 

(1) 二代目社長の経営姿勢

二代目社長は国立大学を卒業後、荷主先に就職、5年経って父親の会社に入ってきた。若くして父親を補佐してきた。10年前に社長に就任し、父親は会長となった。周りは父親の代からの古参幹部で、社長といえど幹部の中では1番若い。しかし、頭はよく切れるうえ、経営数字のつかみ方も鋭い。

ところが、人望がいまだ身に付いていない。社内経営会議で古参幹部をボロクソになじる。「このくたばりぞこない」 ―などとわめき、経営成績が上がらないことを責める。カンシャクのうえ、父親である会長ともよくケンカする。経営会議の席上で親子ゲンカが始まる。社内では社長のことを陰で「暴君」とささやきあっていた。

「あの若社長は本当にわがままだ。父親のいうことを聞きもしない。1人で偉くなったように錯覚している。自分の思い通りにならないとカンシャクを起こす。まるで暴君だ」

その上、社長は若手経営者団体の活動にも熱心である。本業に割く時間よりも多いくらいである。昼間からそのことでよく電話が掛かり、ときには出かけていく。夜のつきあいも派手である。飲み歩くのである。しかもイベント好きである。口実をつくってはよくパーティを催す。芸能人を呼んで派手にやることが好きだ。その席で夢のようなことを語る。

「自分の会社を今に地域でナンバーワンにしてみせる」 ―などと大言壮語する。大言壮語たるゆえんは、行動が伴っていないからだ。

古参幹部は若社長が中学生のころからよく知っている。内心「この若僧が何言ってるんだ」と思っても口に出せない。諫言できないのである。二代目社長は人のいうことを聞かないのである。批判厳禁である。逆らうそぶりを示すと、「文句あるならすぐ会社をやめろ」と通告する。心ある社員は嘆いている。

「飲み歩いたりするのもいいが、もっと現場をみて欲しい。現場の苦労を分かって欲しい。これではまるで聞き分けのない二代目のぼんぼんではないか」

そうこうするうちに会長が他界した。社長にブレーキを掛けられる唯一の人がこの世からいなくなった。まさに社長のワンマンぶりが際立ってくる。周りの幹部をイエスマンで固めていく。ライオンは自分だけで、あとはみんな小羊の集団である。

二代目社長は頭がよく、社内の最高権力者である。ところが、現場の実態を肌で把握していない。交流というものがない。一方的な関係である。分かりやすくいえば、指示命令の関係でしか現場とはかかわってこなかった。ここに大きな落とし穴があった。

目立たないけれど、チョコチョコした遅刻や急な休みが増えてきた。不満がくすぶり、高まってくる。そして、ついにその日がきた。

その日とは労働組合の結成である。上部団体に加盟し、分会として名乗りを挙げる。分会の委員長は59歳。定年まであと1年、勤続40年の超ベテラン社員である。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月16日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/14]攻撃的リストラ

4月14日(日)

二代目の決断― 事例A

 

(1) 攻撃的リストラ

生まれ変わった気持ちでこの不況を乗り切っていくことだ。生まれ変わるためには思い切った決断がいる。A社では10人の配送ドライバーのうち、6人が去らざるを得なかった。あのままじっとしていても道は開けたであろうか。答えはノーである。

死に至る病が深まるばかりであった。確かに勤続30年のドライバーに引導を渡すのは心苦しい。まして、5歳のころから遊んでもらっていたのである。しかし、捨てることは一方では始まりを意味する。新たなスタートの合図である。

中小運送業は、今までのやり方では追い詰められていく一方である。思い切った社長の決断によって、生まれ変わることだ。

「確かに、はたしてこれで良かったのかと、ふと頭をよぎります。こうまでして生き延びていくことが大切なのか。わたしの決断が正しかったかどうか、はっきりするのはこれからです。わたしと会社のこれからの生き方です。真剣に生きるだけです。やはり、会社がつぶれるということは、社員、荷主、周りの取引先に大きな迷惑をかけることです。それだけは避けたい。そのためには、捨てるものは捨てて、生まれ変わっていきたい」

A社長の言である。まさに攻撃的リストラの勧めである。今のままでは中小運送業の経営はピンチである。社長よ、決断せよ!

 

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月15日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/13]開拓への挑戦

4月13日(土)

二代目の決断― 事例A

 

(1) 開拓への挑戦

中小運送業の直面している経営危機は根が深い。ここ3~4年、昇給ストップどころか、賃金カットを余儀なくされた会社もめずらしくない。賃金カットをしないとやっていけないのである。

A社のケースにもある通り、ニッチもサッチもいかない泥沼にはまり込んでいる会社も多くみられる。共通していえるのは、先行きの展望が見えないことである。暗いのである。

「荷主のいじめがきつい。登校拒否に陥る子どもの心理がよく分かるよ」

中小運送業の生き残る道は、社長の決断にある。現実から逃げることなく、立ち向かうことである。A社長は全面撤退という方針を出して必死になった。この“必死さ”が生き残るキーワードである。

「荷主のいじめに愚痴をこぼしてみたり、嘆いていてもどうにもなりません。荷主に向かって仕事を断りに行った時の、胸が締め付けられるような緊張感、その無念さ、“ナニクソ”という思いが突破口になりました。新規荷主開拓の執念につながりましたよ」 ―A社長は荷主開拓に全力を傾けた。ターゲットを自家配送している食品分野のメーカーに絞って、一定のエリアの積み合わせ業務=共同配送システムを構築していった。

今まで慣れ親しんできた運賃体系、チャーター料金をかなぐり捨てて、出来高運賃(1ケース単位)に改めていった。中小食品メーカーの1社、1社に足を運んだ。荷姿の検討、車種の選定、運行コース、時間指定 ―などの課題を整理し、1つずつ乗り越えていった。一時保管できる配送センターとして自社の倉庫機能を改革した。保管方法、在庫管理、ピッキングシステムなどについても、共同配送に適合させてきた。徐々に成果が出てくる。

全面撤退してから1年後のことである。共同配送の仕組みとならんで、中小の食品メーカーの物流業務の全面受託をすることもできた。中小の食品メーカーの物流業務とは、保管、ピッキング、流通加工、配送のことである。物流センターの運営を任されたわけである。こうした必死の荷主開拓行動によって、売り上げ減少分を埋め合わせ、収益性を強化し向上させてきた。まさに中小運送業の生き残る道を示している。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月14日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/12] 勇気ある撤退

4月12日(金)

二代目の決断― 事例A

 

(1) 勇気ある撤退

A社長は2代目で、35歳の青年経営者である。90%の人件費率の配送ドライバーとは、それこそ5歳からの付き合いである。人情として、世間でいうところのリストラはしたくない。リストラとは大幅な賃金カットやクビのことである。

その上、創業以来の荷主と縁を切るのにも情が絡む。A社長の父親である先代の知恵と汗で守り抜いてきた荷主を捨ててもいいだろうか。毎朝、先代を祭っている仏壇に手を合わせて自問自答する。A社長は決断した。全面撤退である。20%の売り上げダウンという事態からの再起をかけることにした。決断理由は次の通りである。

①荷主としての魅力がない

この荷主はこのところ、3年連続して物流費をカットしてきている。3回目はえげつなかった。物流費のカット通告日から遡って6ヶ月前からカットするというのだ。6ヶ月前からというと既に資金繰りに使っている。

「今さら、なんだ」。その上、この荷主はカットした物流費の一部を自社の社員に報償金として配分とした。「業者を泣かしたその涙で自らが果実をむさぼるというのか」、「先代の血と汗の苦労を思うと、簡単に荷主を切り捨てていいものではない。しかしあんまりだ。親父、分かってくれ」とA社長は言うのである。

共存共栄という言葉がある。荷主だけいい目をして、業者を泣かすだけでいいのか。共存共栄どころか弱肉強食の世界である。A社長は決断に至るプロセスで眠れぬ日々を送った。夢の中で先代と話した。

「オヤジ、企業とは何だ。企業とは利益を上げていくことだ。このままだと社員にしわ寄せするばかりだ。企業の存続も難しい」

「オヤジは耐えろとよく言っていたが、耐えていいことと悪いことがあるのではないか。この荷主のやっていることには耐えられない。意地をみせてやりたい」

「会社はつぶしたくない。オヤジの苦労はよく分かっている。しかし、20%の売り上げダウンということになればギリギリだ。このままこの荷主にしがみついていてもロクなことはない。たとえ麦飯を食っても生き延びてやる。もしそれでもつぶれたら、オヤジ許してくれるか」

夢の中での自問自答、オヤジとの会話である。

②運送の自社収支が赤字である

対売上高比率90%のドライバーがいる。全体でも人件費率は70%を超えている。回復の見込みもない。全面撤退ということになれば、配送ドライバーの処遇をどうするか。配置転換、賃金カット、クビ切りもしにくい。人情が絡む。この荷主の仕事をしている配送ドライバー10人集めて職場ミーティングを行うことにした。平均年齢50歳のドライバーの集団である。職場ミーティングの内容は次の通りである。

【1】経営数字の説明 ―自車収支の構造的赤字

【2】全面撤退の方針について

【3】処遇について

10人の配送ドライバーは真剣にA社長の説明に聞き入った。口々に反論する。

「赤字と言われたって、オレたちまじめに働いてきた。オレたちの責任ではないよ」

「ここまで悪くなる前に、何とか営業努力ということはしなかったのか」

「家のローンが払えなくなるよ ―」

それぞれ悲痛の訴えである。しかし、このままだと会社がもたない。A社長は全力で1人ひとりに語り掛けていく。企業経営者の決断は重い。10人の配送ドライバーは、無念の思いでA社長の決断を受け入れざるを得ない。これからの身の振り方の相談に入る。倉庫内作業の配置転換を受け入れた者が4人。後の6人は退職の道を選んだ。A社長は会社の許容できる目一杯の退職金を支払った。苦しい決断である。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月13日 | 投稿者: unityadmin