CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/5/1] 光明はあるか

5月1日(水)

捨て身の話し合い― 事例A

 

(1) 光明はあるか

経営会議の議題は荷主からの10%値引きについてである。メンバーは社長、経理(社長の奥さん)と配車係、そして筆者。荷主との付きあいは、かれこれ20年になる。A社長(40歳)は2代目である。配車係は55歳で先代からの古参幹部である。

社長「10%の値引きをOKすると会社は赤字になります。この荷主の配送業務に車両台数30台、正社員15人、契約社員15人で対応しています。別の仕事をしている車もありますが、この荷主の運送収入が全体の60%を占めています。1回目の6%の値引きは他の部門の仕事でカバーできましたが、続いて10%となるとお手上げです」

経理「資金繰りは苦しくなっています。社長の月額報酬150万円を100万に下げています。車30台の購入資金として借り入れをしましたが、およそ5,000万円残っています。今までもできるだけ正社員を採用せずに契約社員で対応してきましたが、もうギリギリのところまで追い詰められています。わたしの給料も40万円から20万円へと、半分にして何とかしのいでいます」

配車係「今回の10%の値引きもOKするとなると、もはや正社員の給料ではやっていけません。月額25万円~30万円の水準を維持することはできません」

この荷主からの仕事を撤退するとなると、5,000万円(車両購入にかかわる借入金)をどうするか。15人の正社員はどうするか。15人のうち5人は勤続20年のベテランドライバーで、A社長としては学生の頃からの知り合いである。

情がからんでくる。不採算だからといって簡単に切って捨てるわけにはいかない。苦しまぎれに10%の賃金カットを1人ひとりに申し入れても、その場限りである。

展望が見えてこない。大きな壁にぶつかっているようなものだ。それにこの荷主の仕事をしている同業の運送業者も、じっと出方をうかがっている。パイの取り合いである。誰かが投げ出せば「待ってました」と食いついていく態勢をとっている。我慢比べに入っている。

その上、A社には労働組合がある。簡単に人員整理をできる状況にはない。不採算だからといってクビということにすれば、労働争議となる。それこそ会社はパーとなる。労働争議からストライキにでもなると、荷主との信頼関係もなくなる。会社がパーとなるとは、つぶれるということである。

A社長「わたしは2代目としてオヤジから引き継いだこの会社をつぶすわけにはいかないのです。労働組合もそれなりに今まで協力してきてくれています。6%の値引きの時は定期昇給ゼロで妥結し、一時金(賞与)も前年比30%減で妥結しました」

筆者いわく「事業の目的は利益を上げて企業を継続させていくことにあります。不採算の事業は、改善の見込みがなければ、やるべきではないのです。この荷主の仕事で採算を確保しようとすると、契約社員の体制を強化しなければなりません。人件費の負担が重いのです。率直にこの状況を労働組合に公開して企業を存続させるかどうか、存続させるためにはどうすればいいか、トコトン話し合うことです」

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年05月02日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/30]待ったなしの現状

4月30日(火)

捨て身の話し合い― 事例A

 

(1) 待ったなしの現状

A社は普通車(2トン、4トン)で荷主の配送業務を行っている。車両台数は30台。1年365日の配送体制である。深夜や早朝にスタートし、運行コースを決めて、1便、2便、3便といった体制である。乗務員の編成は、正社員と契約社員である。

A社は、このまま運送業を続けていくかどうかの岐路に立たされている。

正社員の勤務実態は、1日平均10時間で年間稼働日数は285日(年間休日80日、月間平均稼働日数23~24日)で、年間総労働時間は2,850時間である。乗務員の中には年間3,000時間を超えているものもいる。月間の平均給与は25万~30万円で、賞与は月間の平均給与の2カ月であるので、年収は350万~420万円。1時間当たりに換算すると1,200円~1,500円となる。

人件費の会社負担は、法定福利費(社会保険料の会社負担分)と福利厚生費(制服代など)で、退職金の負担も入れると年収平均に対しておよそ1.3倍となる。年収レベルで計算すると、会社の負担する人件費は、350万×1.3=455万円~420万円×1.3=546万円となり、1時間当たりでは1,600円~2,000円となる。乗務員の50%が正社員で、それに対して契約社員とは時間制の社員である。1時間当たりの人件費は1,000円~1,200円で、正社員と比しておよそ50%から60%の水準である。

A社は人件費負担を軽減するために必死になって契約社員を活用しているわけである。しかし、荷主からみれば、正社員も契約社員も同じくA社の乗務員である。

荷主は2年連続値引き通告してきている。1回目は6%、今回は10%で、合計16%である。その上、ペナルティとしての罰金を重くしてきている。ペナルティは商品の破損、遅配、誤配といったミスに対するものである。

「本当に苦しくなってきています。2年連続の値引きの上に、ペナルティの重圧です。今回の10%の値引きを受け入れてしまうと赤字になります」

A社長の苦悶である。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年05月01日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/29]投げたらあかん

4月29日(月)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 投げたらあかん

A社の倒産プロセスをみると、1番の問題は経営者が姿を消したことにある。労働組合結成の一報を受けて、立ち向かうどころか弁護士に任せて、自らは逃げたことである。なぜ逃げるのであろうか。

運送業の経営者の中には、組合が結成されたことを理由として行方不明になったり、時には自殺する者さえいる。確かに組合の要求にはすぐさま応えられるものではない。もともと労働基準法を意識して経営してきたわけではない。経営者のハラとしては「労働基準法をすべて守るということになると、運送業は成り立たない」と確信している。それが組合ということになると、そうもいかない。だから「お手上げ」となって逃げるわけである。さらに絶望するということがある。

「うちの乗務員が赤旗立ててオレに刃向かってくるとは、何たることか」と意気消沈し、お先真っ暗の心持ちになる。経営へのやる気がヘナヘナと崩れていく。絶望するわけである。立ち向かうより消えてなくなる道を歩んでしまう。ここのところが問題である。A社の教訓の第1は“逃げない”ことである。逃げてしまえば経営を捨てることになるからだ。

第2の教訓としては、コミュニケーションの不足である。A社長はワンマンタイプを全面に出して今までやってきた。乗務員の言うことに耳を傾ける余裕がなかった。

「オレの言うことが聞けなければいつでもヤメロ」、でやってきた。「社長の口癖は“ヤメロ”だ」と乗務員は言い合ってきた。圧倒的にコミュニケーションの不足である。1人ひとりとひざを交えて話し合うことがなかった。心が通い合っていなかった。

第3の教訓としては、中小運送業の置かれている経営の厳しさである。楽ではない。払いたくても払えないのである。この経営の厳しさを受け止めていく勇気がいるということである。勇気とは何か。それは自社の直面している現実を働く1人ひとりにしっかりと伝えること。そして、経営の方向性をどうするか ―示すことである。

お先真っ暗ではない。努力する方向を示すことである。それが経営者の仕事というものである。経営の苦しさを外部に求めて、環境のせいにするだけでは問題は解決しない。自力の経営であることだ。

単なる賃金カットはその場限りの対処である。根本的な解決とはならない。賃金カットではなく、賃金の支払方法、いわゆる賃金制度の根本的改革こそが本筋である。

A社の倒産プロセスは、中小運送業者にとっては、他人事ではない。自らの問題であり、いつ自社に振りかかってきても不思議ではない。これに対する根本的な備えは何か。

それは経営者のハラである。逃げない経営である。方向性、生き抜く道を指し示していく勇気である。そして何よりも、コミュニケーションを大切にすることである。A社長の逃げ回った姿から、深く学ぶことである。逃げていては問題は解決しない。勇気をもって立ち向かうことである。

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月30日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/28]社長にも限界が…

4月28日(日)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 社長にも限界が…

組合が結成されて2ヶ月経過した秋には、A社長は入院してしまった。心労が重なったからだ。経営者が出てこない団体交渉で、A社長の代わりに妻が出席する。それに代理人の弁護士である。組合も振り上げたこぶしの収まりがつかない。

組合いわく「貴社においては○○支部○○分会を公然化し、一方的な賃金ダウン、一時金のカットの撤回を求めてきました。貴社は団体交渉には応じるものの、○○弁護士を代理人とするなど、責任ある対応を回避しています」。

A社長は経営者たることを捨てた。入院である。全く出社してこない。結局、組合を結成して1年余りでA社は倒産した。経営者不在なので当然である。A社長からすれば、労働組合が結成された時点で経営意欲を喪失したわけである。

トラック20台の運送業者として、荷主の運賃値引きに耐えて今まで頑張ってきた。乗務員も年間3,000時間に及ぶ長時間労働によく踏ん張ってくれた。時間外手当は払わない。歩合給中心である。これで今まで何ら問題がなかった。それなのに賃金カットが原因で会社は立ち行かなくなってしまった。もともとやっていけないから賃金カットをしたのに、元に戻してやっていけるはずはない。「万事休す」である。A社はつぶれるべくしてつぶれた。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月29日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/27]押し寄せる要求

4月27日(土)

逃げずに立ち向かえ― 事例A

 

(1) 押し寄せる要求

A社長はうろたえるばかりである。だれに相談したらいいか、とっさに思い浮かばない。とりあえず経理を担当していた妻に相談するが、案は浮かばない。今までひたすら働いてきた。経営者とは名ばかりで、人がいなければ車にも乗る。「団体交渉」を開いてもどうしていいか分からない。賃金をカットしたのはそうするしかなかったからだ。

自らの役員報酬も月100万円から50万円に減額している。それなのにいきなり「労働組合結成」とは何たることだ。胸元にあいくちを突き付けられているようなものだ。組合に入った乗務員10人はいずれも10年以上の勤務経験がある。分会長になった者は、入社した時は住む家もなかった。そこで、アパートを借りて会社の寮として住み込ませ、支度金として30万円を渡したこともあった。その男が分会長である。「分会要求書」にはずらっと要求が並んでいる。

「要求書いわく」

(1)会社は労働基準法をはじめ諸法律を遵守すること

(2)会社は就業規則を明示し、就業規則の周知義務を果たすこと

(3)会社は賃金カットおよび夏季一時期カットを白紙撤回すること

(4)会社は現行賃金制度を見直し、賃金体系を改善すること

(5)会社は法律に基づき年次有給休暇を付与すること

(6)会社は法律に基づき週40時間制を遵守すること

(7)会社は時間外未払賃金を直ちに支払うこと

(8)会社は要求に基づき夏季1時金を支給すること

(9)会社は労働安全衛生法に基づき健康診断を実施すること

(10)その他

ありとあらゆる要求が並んでいる。考えてみれば今までできていないことばかりだ。この要求をすべて呑めば、間違いなくつぶれる。やりたくてもできなかったのだ。毎日生きていくのに精一杯で、労働基準法どころではなかった。しかも「夏季一時金要求書」は組合員1人当たり25万円の要求である。今までは1人平均10万円の支給であり、今回はさらに5万円へとダウンしている。もともと恵まれた労働条件ではなかった。事務のスタッフは妻と娘で担当してきた。家族経営である。それがあいくちを突き付けられた。

「自分は団体交渉に出たくない」 ―A社長は、妻に訴える。しかし、矢のように組合は迫ってくる。「法律を守れ」と要求しているので、妻は弁護士に相談することにした。つてをたどって若い弁護士に会うことができた。この若い弁護士を代理人として団体交渉に出てもらうことにした。A社長の報酬50万円をさらにダウンさせてゼロとし、その分、代理人に支払うことになった。このケースは珍しい。裁判になってもいないのに、いきなり弁護士の登場である。しかも、団体交渉における経営者の代理人である。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月28日 | 投稿者: unityadmin