CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/5/21]鬼業仏心の経営

5月21日(火)

鬼業仏心の経営― 事例A

 

(1) 鬼業仏心の経営

そして「鬼業仏心」という経営スローガンを打ち出した。鬼の心と仏の心を持ってやり抜こうというわけである。

①鬼の心

・計画必達の鬼

・コストダウンの鬼

・生産性アップの鬼

・新規開拓の鬼

・事故絶滅の鬼

②仏の心

・信頼と満足を与える顧客づくり

・働きがいのある意欲に満ちた職場づくり

・知恵とアイデアを引き出す人材づくり

・素直に話し合える人間関係づくり

・日々新たに将来へ夢のある会社づくり

「鬼業仏心」の具体化として、それぞれ幹部が具体的行動目標を設定した。一例を挙げる。

・計画必達の鬼――日々の売り上げチェックをして、実績と目標との差異の原因を分析し、すぐさま対策を取る

・コストダウンの鬼――経費予算を作成する。発注書の作成を行い、チェックし、1万円以上は社長決裁とする。

・生産性アップの鬼――訪問荷主リストを作成する。荷主のニーズの把握に基づく物流提案能力の強化

・事故絶滅の鬼――事故発生者の適性診断、事故多発者の下車勤務処分の実施

トップは具体的行動目標に基づいてアクションを起こした。気迫がみなぎる。トップの気迫によって、幹部のやる気に火がついた。――必死の日々。鬼となって進む。仏心を暖めていく。トップは幹部と腹を割って話し合った。「どうしたらこの苦境から脱出できるか。どんなことがあっても乗り越えてみせる。命を掛けてやり抜く。どうかわが社に力を吹き込んでください」。決死のトップの思いで、幹部1人ひとりの目の色が変わってくる。まさに土壇場、首切りの刑場ともいうべき局面から底力を発揮してくる。

トップの気迫とは、言い換えれば、経営に対する情熱、熱意の発露である。情熱、熱意の根源は何か。それは使命感ではなかろうか。そのために尽すという使命感をバックとして発露するのではあるまいか。

A社のトップは妻の一声からそれに気付き、自己の経営姿勢を変革して″ナニクソ″精神で苦境に挑んでいった。わが身の栄達とか私欲ではなく、世のため人のため――という使命感に揺さぶられ続けて、経営に対する真摯な熱意を発揮した。それは「鬼業仏心」の経営スローガンによく表現されている。A社の再建プロセスはトップの気迫のすさまじさを教えてくれるものとなった。

以上

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| 投稿日: 2019年05月22日 | 投稿者: unityadmin

[2019/5/20]5Sの呼びかけ

5月20日(月)

鬼業仏心の経営― 事例A

 

(1) 5Sの呼びかけ

①整理:要、不要を明確に分けて不要を捨てる(事務所の書類、車両内の整理)

②整頓:必要なものを選別し、だれにでも分かるよう明示する(書類、部品、工具などを整頓し、区分する)

③清潔:職場の環境、身だしなみを清潔にする(制服、安全靴を着用し、髪、ひげなども清潔にして印象をよくする)

④清掃:きれいに清掃をする(車両、事務所、トイレ、車庫内、工場内などをきれいにし、だれもがいつも清掃を心掛ける)

⑤しつけ:ルール、マナーの遵守(規則、規律を正し、顧客、上司、先輩、同僚に対するいたわりの心、あいさつ、礼節を重んじ、報告、連絡を確実に行うことを習慣とする)

5Sの呼びかけである。1ヵ年に及ぶ毎朝の掃除実践を踏まえての呼びかけである。朝礼、職場ミーティングを通じて、繰り返し繰り返し徹底していった。このプロセスで組織改革を断行した。幹部10人を、それぞれワンランクずつ降格したのである。今までの部長が課長に、課長が係長になったのである。

やむにやまれぬ処置である。幹部全員が襟を正すことで、従業員に経営理念確立へ向けてのアピールを行った。この降格処置はトップの一存で決めたわけではない。もちろん、トップの提起を受けてのことであるが、幹部会議で決定したものだ。

つづく

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| 投稿日: 2019年05月21日 | 投稿者: unityadmin

[2019/5/19]トップの気迫

5月19日(日)

鬼業仏心の経営― 事例A

 

(1) トップの気迫

A社(車両50台)はこの不況期、1年ごとに経営悪化の坂道を転げ落ちている。ついには、社会保険料の滞納という事態にまで、追い詰められている。滞納分は手形で決済しているが、決済日がきても落とせず、ジャンプを依頼するほどである。トップの報酬を月額180万円から90万円へと半減させたものの、その報酬は未払いのままである。いつつぶれてもおかしくない経営状況が続いている。

ここまでの事態は、なぜもたらされたのか。さしずめ難破船のごとく死の淵をさまようA社。1つは売り上げの不振である。ピーク時と比べて30%の売り上げダウン。この現象の真因は、実は内部にある。トップと働く社員の心がバラバラになっている。不信が根付いている。どうして不信の嵐に巻き込まれることになったのか。それはトップの姿勢からだ。

トップは文字通り裸一貫からスタートした。初めのトラック1台すら借金で購入し、ゼロからというよりマイナスからのスタート。このマイナスから徐々に浮上してきた。このプロセスで、トップは「自分より偉いものはない」と自己過信してしまった。経営に対する自信と自己過信は紙一重。自信は経営に対するビジョンを裏付けとするが、自己過信は「オレは偉い」との我欲を支えとする。

このように、マイナスを跳ね返して車両台数を増やしてきたプロセスで、トップは人の言うことに耳を傾けない超ワンマン社長となってしまった。極め付きは本社社屋の建設である。土地、建物を全額借金で手配した。バブルのころである。「なに、これぐらい大丈夫だ。創業のころから借金漬けだ。オレの力をもってすれば大丈夫だ」と胸をたたく。個人で購入して、それを会社に貸す形を取り、会社からの家賃収入で個人の借金を返済することとした。

社内の世論はざわめく。「どうしてこんな無茶をするのか。今のままのほうが経費が少なくて済むのになあ。社長の自己満足に付き合わされてはかなわないなあ」。しかし、面と向かってはだれも何も言わない。超ワンマン社長への応対はイエスのみ。ノーと言えば、すなわちクビ――だからだ。

バブルが崩壊して、会社は家賃が負担となっている。ニッチもサッチもいかない。安いところへ移転しようとしても、それでは社長個人の借金の返済が滞ってしまう。売ろうとしても、購入時の50%ではどうしようもない。社長の借金返済ができないのである。「自己過信が招いた分不相応の行動」――としか言いようがない。

分不相応といえば、このトップは何かにつけて派手なのである。交際費もぱっと使って「ええかっこ」してしまうたちである。とくに荷主は大企業なので、担当者もそれなりに飲み食いする。1杯飲み屋、焼鳥屋などの水準ではない。荷主の担当者に分不相応に無理して付き合う。「オレは偉い。すごい」と見えを張るのである。さらにその上、公私の混同がひどくなっている。自分の楽しみでゴルフに行っても、会社の経費で落とす。トップはゴルフにのめり込む。平日でも平気でゴルフ場通いをする。そのため、社内の管理がルーズになる。超ワンマンのトップが不在がちなので、社内の空気のタガが緩む。部下の働きぶりのチェックもおろそかになる。勤怠がはっきりしなくなる。朝の出勤でも、ひどいのになるとタイムカードの打刻を他人に任せてしまい、遅刻を隠蔽する。休日に出勤もしていないのに、さも出勤したかのように装って、休日出勤手当を不当に受け取る。

これらは、すべてトップの管理能力の欠如が原因である。その上、超ワンマンにもかかわらず、このトップは大事な決断で、グズグズしたりコロコロ変わってしまう。給与の決定がそうだ。なかなか昇給方針を決めないで引き伸ばす。しかも、いったん決めてもすぐにひっくり返す。一晩たつと、判断にぐらつきが出てくるのだ。

自己過信、分不相応、公私の混同、管理能力の欠如、決断力の欠如――といったトップの姿勢で、社内不信の根が深くなっている。これが経営悪化の真因である。

反省のきっかけはどこから来たか。トップは毎日、資金繰りに追われて、ヘトヘトになって家に帰る。ある日、妻いわく、「お父さん、どうしたの。元気ないね。意欲をもってスタートした事業でしょう。もう一度原点に帰って下さい。トコトンやったらどうですか」。妻の励ましではっとするトップ。「そうか、原点とは何だろうか――」。不信の根を解きほぐし、信頼へと転換する原点とは何か。

トップは自らの姿勢を正すこととした。朝一番に出社して、自ら社内を掃除することを日課とした。社内の掃除とは、トイレ、机の上、乗務員休憩所などのことである。「いよいよ、うちの社長も危ない。経営が苦しくなってちょっと変だ」との乗務員の陰口を背にしても、トップは続けた。「石にかじり付いてもやる」との執念を発揮して、とにかく掃除を続けた。

トップは省みる。今までは、何と愚かであったことか。妻の想いも置き去りにして、深夜に帰宅。よくも飲み歩いたものだ。「オレの会社だ。煮て食おうが焼いて食おうが、オレの勝手だ」と居直り、このために従業員との間に不信のミゾが深くなっていった――。

毎朝5時に起きて、ひたすら社内の掃除に打ち込む日々。トップは変わろうとし、変わっていった。毎朝の掃除を、雨の日も風の日も続けて1年。トップは経営再建計画を発表して協力を呼びかけた。経営理念確立の呼びかけである。

つづく

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| 投稿日: 2019年05月20日 | 投稿者: unityadmin

[2019/5/18]心の底からのやる気

5月18日(土)

初心忘るな盆踊り― 事例A

 

(1) 心の底からのやる気

厳しい仕事の日々の中で、心を1つにして困難に立ち向かっていく勇気の源泉が″祭り″というわけである。夜店の手配から始まって、何から何までA社で行う。このプロセスが貴重である。超ハードな日々の中で準備していくのである。みんなの喜ぶ顔を見たい一心で行う。この姿勢が、経営活性化につながっている。

「うちの幹部に勇気の力を教えてやって下さい。うちの幹部には、業務知識はあります。しかし、頭で分かっているだけで、行動に結びつかないのです。覇気がないのです」。ある物流会社のトップが、筆者に教育研修を依頼した。勇気を教える研修とは何か。A社のケースには次の学ぶべき点がある。

「会社の姿勢をはっきりさせて、心を1つにすること」

A社では、地域社会への貢献、従業員の福利を目的として、夏の盆踊りを企画、実施している。このプロセスで心が1つになる。これが企画、実施する幹部に勇気、やる気、覇気を呼び覚ましていく。会社の姿勢や生き方とも深く連動するものである。従って、勇気を教える研修とは、「会社の姿勢=理念」の明確化、共有化をケーススタディ中心に行うことである。

祭りは楽しい。心からリラックスできる。そして、生きることに対して励ます力がある。祭りとは祭礼のことで、神に対するものが語源である。むかしから人びとは、豊作、健康、天候と生きていることそのものに感謝してきた。

A社の祭りの1つが盆踊り。感謝と愛情がある。荷主、地域社会、従業員とその家族に対する感謝と愛情がある。「その日がくるのが楽しみだ」とワクワクする思いは、1人ひとりに力を与える。「もう少しで盆踊りが来るぞ。その日まで無事故で頑張ろう」と、A社では励ましながら、その日を迎えている。「さあ、今年の祭りは終わった。来年もみんな元気で迎えよう」と、明日からの健闘を誓う。

難しい理屈では、こうはいかない。単純明快に、祭りそのものが力を与えている。力とは、経営活性化へ向けての心の底からのやる気のことである。こうした祭りに価値観を見いだしていく「会社の姿勢=経営理念」の存在こそ、経営活性化原則のポイントの1つである。

以上

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| 投稿日: 2019年05月19日 | 投稿者: unityadmin

[2019/5/17]他人の幸せの実現

5月17日(金)

初心忘るな盆踊り― 事例A

 

(1) 他人の幸せの実現

盆踊りは、A社長の″やる気の源泉″になっている。苦しかった日々、もちろん今でも苦しいが、それ以上に何もなくて「ないないづくし」の日々を励まされてきたのである。楽しい音楽、タイコに合わせて踊る風景、涼しげな浴衣、子供のキャーキャーはしゃぐ声。これらが、A社長の生きる喜びをかき立ててきた。

A社長いわく、「わたしは中学卒で、集団就職列車に揺られて都会に出てきました。職は転々、いろんなことをやりました。「故郷は遠くにありて思うもの」ですね。いつも、夏の盆踊りの季節になると故郷を思い出しました。村祭りのこと、年老いた両親のこと……。それに引き換え、自分のダラシないこと。いまだに独身で定職にもつかず、都会をフンワリ、フンワリと漂っている自分。縁あってトラック1台を持ち、ガムシャラに頑張った日々。結婚したこと。子供が生まれたこと。今までのいろんな人生の歩みが、夏の一夜によみがえってくるのです」。

A社長は、ただ今50歳。

盆踊りの開催費用をA社長が負担するのは、地域社会への貢献である。自分と自分の企業を育ててもらっているという、感謝の念の表れである。そして、A社長にとっては、自殺まで考えて追い詰められた苦しさから立ち直った原点の確認でもある。

今では、従業員も心待ちにしている。「今年はどんな浴衣かしら」とか、「だれと一緒に行こうかしら」とかワクワクしている。荷主や地元の人に、こまめに声を掛ける。「必ず来てね」。取り引きのある銀行の支店長にも声を掛けるほどである。ここ最近は、お笑い系の芸能人も呼んでいる。それほど有名ではない。テレビにもあまり出ていない。それでも芸能人は芸能人。「やっぱりプロはすごいね。本当におもしろかったよ」と、みんな一様に喜んでいる。小さい子供たちには、お土産として花火を渡している。「ワァー、花火や」と、どの子も顔を輝かせて喜ぶ。

盆踊りの日、A社長は店の従業員から突然、恋人を紹介されて仲人を頼まれたりする。「社長、この人が、僕のフィアンセです。どうか仲人をしてください」。心なしか顔を赤くしての頼みである。フィアンセの彼女も、うつむいて頼む。1杯入っている社長は、ホンノリしている。「いいよ」と思わずうなずく。「社長、この子がことし高校に入った○○です」。「社長、うちの娘もようやく片付きました」。「うちの息子も就職できました」。

従業員からの報告が続く。ホームパーティのような感じでさえある。A社長は、つくづく喜びをかみしめる。一瞬、今までの苦労がどこかへ飛んで行く。これからの苦労も、どこかへ行くような気がする。「よし、やるぞ」と明日からの活力がわいてくる。

経営者のやる気を支えるものは、何であろうか。あくなき事業欲か。もちろんそうだ。見方を変えて言うと、「他人の喜び」が経営者のやる気をかき立てる。他人とは、荷主であり、従業員であり、企業を取り巻く人たちのことである。

他人の幸せは励みになる。身近な他人は家族、従業員、荷主、そして地元の人びとである。喜ぶ姿が経営者にとって活力の源泉となるのだ。自分のためだけに働いて、成功し続けた経営者はいない。「自分さえよければ」の精神では、成功しない。人がついてこない。やはり、「他人の幸せ」を実現するために働くのが、経営者の役目である。

その意味では、経営者は宗教家のようなものである。宗教家は、「神や仏を信じることで救われる」として、信者を獲得していく。経営者は、経済的充足を通じて生きる喜び、働きがいを提供する。違いは紙一重である。共通項は「他に尽くす」ということである。

A社長は、今年も盆踊りの日を迎えた。「雨よ降るな」と念じて、晴れとなった。真新しい浴衣を着て、盆踊りの輪の中に入っていく。お祭りは、本当に不思議である。どうして、こんなに1人ひとりを生き生きとさせるのだろうか。フエの音、タイコの鳴る音、心が躍る。心が和む。心に力が入ってくる。「企業経営も、かくありたい。人に喜びを、人をワクワクさせたい」。

イベントには、経営を活性化させる力がある。A社長の盆踊りの企画、実施のプロセスはまさに、そのことを痛感させる。

夏の日よ 初心わするな 盆踊り(A社長の一句)

A社は荷主の関係で1年365日、車が稼働しない日は1日もない。正月でも何台かは、必ず動くのである。したがって、A社長の幹部(配車係)は、ほとんど休まない。「休めない」と言うべきか。月に2日か3日休めばいいほうである。超ハードである。

この超ハードワークに耐えさせている力の1つが、夏祭りの企画である。「うちの社長は、よく働きます。タフですよ。ほとんど休みません。社長についていっている理由ですか。それは″暖かさ″ですよ。社長の心です。厳しいけれど暖かい。夏の盆踊りで実感しています」(幹部の話)。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年05月18日 | 投稿者: unityadmin