CONSULTANT DIARY川﨑依邦の日々

[2019/4/11]どうする赤字業務

4月11日(木)

二代目の決断― 事例A

 

(1) どうする赤字業務

勤続30年のドライバーがいる。年齢は50歳。まじめにコツコツ働いてきて、1ヶ月の運送収入は40万円。2トン車の配送ドライバーである。荷主からの運賃値上げの圧力によって40万円の運送収入しか得ることができない。

配送の仕事が終わると、倉庫作業の応援をする。1ヶ月で50時間の倉庫作業応援である。1時間当たり1,000円として5万円。運送収入40万円と作業応援料5万円で45万円が1ヶ月の売り上げである。それに対して人件費が賞与、法定福利を入れて40万円である。売り上げに占める人件費の割合は約90%。この仕事は赤字である。

どうするか。2つの問題がある。1つは、この仕事が赤字だからといって簡単にやめることができない事情である。この仕事の荷主には別の倉庫の仕事もあって、全体でみるとギリギリ、トントンの損益になっている。ギリギリ、トントンであるから、経営数字の面からみると撤退ということも考えられる。

しかし、創業以来の荷主であり、もうけさせてもらった歴史もある。現在、赤字スレスレということで、簡単にやめることができるだろうか。その上、この荷主の売り上げは全体で20%のウエイトを占めている。20%の売り上げをダウンさせることはきつい。資金繰りに響いてくる。

もう1つの問題は、対売上高に占める人件費のウエイトが高いことである。それは90%の人件費率の配送ドライバーに象徴されている。創業以来の荷主であるので、勤続年数の長い者が仕事に従事している。「あなたの仕事は赤字です」と通告して、配置転換はできない。この仕事しかできない者ばかりである。いまさら長距離のトラックドライバーになれるものではない。

それでは賃金カットはどうか。50歳の配送ドライバーで月収40万円の水準をどうとらえるか。勤続30年のドライバーである。世間相場からいって決して高いとはいえないだろう。なにしろまじめで1日も休むことなくコツコツ働いてきたのである。しかし、運送業界の相場からいうと高い。2トンの配送ドライバーであればせいぜい25万円。しかし、15万円の賃金カットを言い渡すことができるであろうか。

「あなたの給料は高い。40万円から25万円に賃金カットします。カット率は約40%です」 ―こんなことが言えるであろうか。それではクビを言い渡すことはできるか。50という年齢でクビになれば、再就職は難しい。30年間ドライバー一筋でやってきた。ほかの仕事はできない。荒波に放り投げるようなものである。ニッチもサッチもいかないとはこのことだ。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月12日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/10]自分を超えろ

4月10日(水)

心のバトンタッチ― 事例A

 

(1) 自分を超えろ

「息子に任せていくにはまだまだ」と思う反面、心が揺れる。3ヶ月のハードワークに耐え抜いて、燃えて張り切っている息子。実践で鍛えていく教育方針に誤りはない。苦労が人を育てていくのも本当だ。2ヵ年の経験できっとたくましく育っていくことだろう。それまではじっと待つ。失敗してもそれがクスリとなる。

思うようにやらせてみよう。それで息子のハラを読み切り、「よし、いける、2ヵ年よくがんばった」と評価できれば、後継のレールを明確にしていこう。

財産は税金を納めれば相続できるが、経営者魂はどうしたら伝えることができるのか。それは自らの生き方という無言の姿勢と深い願いである。自らの生き方は5つのキーワード=経営理念に込められている。

息子への願いは「全力を尽くせ。自分を超える経営者になってほしい」ということである。A社長の思い、息子に対する思いは深い。以心伝心で息子にも伝わっている。

バトンタッチということは、心と心の結び付きのことでもある。決して金ではない。金のバトンタッチだけでなく、心のバトンタッチが後継体制の真髄である。

 

以上

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月11日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/9]経営理念の明文化

4月9日(火)

心のバトンタッチ― 事例A

 

(1) 経営理念の明文化

A社長は遺言のつもりで経営理念を文章化することにした。肉体は灰になることがあっても言葉は残る。経営理念の明文化である。40年の経営者人生の中で大事にしてきたことは何か。息子に伝えたいことは何か。じっくりと考えを詰めていった。

「永続」「成長」「挑戦」「決断」「責任」と、5つの言葉に集約していった。「永続」の条件とは絶対に赤字にならないことである。「成長」するには向上心がいる。目標をしっかり持つことである。「挑戦」は変革の志を貫くことで発揮される。「決断」とは決める時はスパッと決めること。「責任」とは、経営の全責任は自分にあると思い定めることである。

A社長は70歳を目前にしてさらなる闘志をかき立てた。生きている限りは前へ向かって進むことだ。“前へ”、“前へ”と歩を進める。「それがオレの経営人生だ」 ―後継体制づくりの闘いが本格化してくる。正念場である。

税務調査が入って弱気の虫がうごめいていたが、目が覚めた。本格的な事業承継への意欲が経営者魂を揺り動かした訳である。

2代目である息子は30歳にして独立の道に入る。期間は2ヵ年である。とにかく現場に入って汗をかいて、働く人の気持ちを分かることだ。朝4時に出社して夜11時、12時に帰宅する日々が続く。

赤字の運送会社は新しく物流センターの運営を手掛けていた。赤字からの脱出をかけての新規業務である。フロに入るよりもすぐ眠りたいというほどのハードな日が続いた。新規業務の物流センターが軌道に乗るまでは3ヶ月かかった。死に物狂いの日々であった。この激務をやり切って息子は自信をもった。

「やればできる」 ―思えば異常な日々であった。新婚間もない妻とクリスマスイブに、朝からケーキを食べたことが忘れられない。夜早く帰宅することができないので、朝のケーキとなったわけである。

息子は事業を後継するということについて甘かったことを悟った。お客との会食で、父親の背広を脱がす行為は、単なるゴマスリではなかったか。父親に逆らわなければ、自然とバトンタッチされると思っていなかったか。

いわゆる「社長」業でぜいたくできると思っていなかったか。この3ヶ月のハードワークは息子に事業の厳しさを教えた。とにかくやるしかないのである。「自分はまだ若い。率先垂範で、引っ張っていくしかない」。A社長の経営理念の重さを、実感することができた。

「永続」するには自分がしっかりすることだ。「成長」こそ人生の真髄である。毎日が成長と念じ続けていくことだ。「挑戦」はぶつかっていくことだ。「決断」は後継者としてのハラを決めることだ。「責任」とは動いている一人ひとりの期待に応え抜くことだ。5つのキーワードをかみしめる。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月10日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/8]“2代目”の甘さ

4月8日(月)

心のバトンタッチ― 事例A

 

(1) “2代目”の甘さ

周りからチヤホヤされて、それが当たり前になると人間は甘くなる。今まで会社を倒産させた2代目のタイプには共通性がある。みえっぱりタイプである。ええかっこしいのところがある。悪く思われたくない。社員に甘い。仕事は他人任せでドロをかぶらない。悪いことは部下のせいにする。

ここ一番の経営の正念場にからきし弱い。一言で言えば、性格の問題である。この性格は本当の苦労を経験していないことにより、形づくられてきた面がある。自分の力で現在の地位をつかみ取ったものではない。天からの授かりものである。

そこで妙なコンプレックスの裏返しとして、独特の「2代目性格タイプ」が登場してくる。それが“ええかっこしい”で“自分で責任を取らない甘いタイプ”である。こうなっては大変である。A社長は息子に苦労させることにした。

A社のグループ会社の中の赤字会社を「なんとかせい」と任せることにした。「好きなようにやってみろ。期間2ヵ年、煮て食うなり、焼いて食うなり好きにしてみろ」。本社からの資金援助はない。自力で行くこと ―厳命である。息子は大海に放り込まれた訳である。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月09日 | 投稿者: unityadmin

[2019/4/7]魂の伝授

4月7日(日)

心のバトンタッチ― 事例A

 

(1) 魂の伝授

A社長のギリギリまで経営にかける執念が、いつかは息子に伝わる時が来る。平たくいうと、生きている間は伝わりにくいものだ。

オヤジの存在感は、いなくなってしみじみ伝わるものだ。その意味では、オヤジと息子の関係は、寂しいものだ。面と向かっている時は、オヤジの生き様は伝わらない。後姿で子は育つ。オヤジの不在で子は育つのだ。

70歳で事業承継体制は完了しても、生きている限りは経営者であり続けることだ。その生き様は必ず息子に伝わる。完全引退は棺桶に入る時である。

A社長が経営者としてスタートを切ったのは26歳。その時、A社長のオヤジは亡くなっていた。60歳になる前の死去である。職人であった。現役の職人として仕事場でバッタリ倒れて急死した。A社長にはオヤジの「生き様」より「死に様」が深く刻まれた。

「オヤジの人生は働きづめの人生であった。仕事が終わっての一杯の酒を楽しみにしていたなあ。自分も死ぬまで働こう」と心に決めて、サラリーマンを辞めて独立自営の道に入った。

つづく

カテゴリー: 経営コンサルティング活動の実話
| 投稿日: 2019年04月08日 | 投稿者: unityadmin