「人を活かす、経営に活かす」第25回
― ドライバー人材育成取組み事例13 ―

「物流現場を生き生きとし、働く一人一人がやる気を発揮していくには、どうすればいいか。」物流現場で経営者が直面している難問である。

◆A物流業の取組み事例

(1)実績検討会議の活性化

A社では10部門の部門長を集めて、月1回幹部会議を行っている。内容は物流現場での状況報告を各部門長が3~5分程度発表する。その上で社長がコメントをする。ところが社長のコメントは叱責、説教の類いである。参加者は元気がなく、顔色も悪く、なかには下をうつむいている者もいる。部門長といっても日々の仕事に忙殺されて、ドライバーが不足しているからと、車に乗ったりしている。あるいは倉庫の現場に埋没してフォークリフト作業をしたりしている者が大半である。マネジメント力を発揮しているとはとても言えない。マネジメント力とは計画→実行→チェックのマネジメントサイクルに基づいて物流現場の活性化を図っていくことである。A社長の悩みは深い。「うちは幹部のレベルが低い」。そもそも幹部会議といっても単なる連絡場所になっているにすぎない。これでは幹部が育たない。そこで幹部会議の進め方を実績検討会議として行うこととする(実績検討会議のフォームは表1参照: PDFファイル139KB )。今までは単なる連絡会議であるので、経営数字に基づいて行っていない。そもそも月次の経営実績を部門長が把握していなかった。「社長、これからは社長のワンマンでは会社の成長も幹部の力量もアップしません。経営数字を公開すること、その上で実績を分析する力をつけていくこと、更に目標と実績の差異分析に基づいて次月の取組み課題を明確にしていくことですよ。」筆者の経営アドバイスである。A社長の要請によって筆者が実績検討会議の司会役として取組むこととなる。幹部研修の場として取組むこととする。月1回定刻に始める。開催時間は3時間とする。今までは現場の仕事が忙しいと言って遅刻したり、不参加を決めこむ部門長もいた。これからは許されない。真剣勝負の場として実績検討会議はある。特別のやむを得ない事情は別として、不参加するものは部門長を降格すること、これは筆者が司会を担当する上でA社長と約束したことである。繁忙期に突入して、どうしても平日に開催できないときは月曜日に行う。一般的に言って大企業は別として、物流業は中味のある会議を行う時間もない。せいぜい朝礼、職場ミーティングのレベルである。その上、肝心の経営数字を把握していない。あるいは経営数字がまとまるのが遅い。少なくとも1ヵ月分を締めてから10日、もしくは15日程度で集計できる管理体制ではない。そこでA社では締めて5日以内に集計し、その上で各部門長に公開する。各部門長は経営数字をしっかり分析して、実績検討会議月次報告書( 表1参照: PDFファイル139KB )を作成して、実績検討会議に望むこととする。部門長は発表にあたっては、言い訳は許されないこととする。なかには「すみません。今月も赤字になりました」。と謝ってばかりの者もいる。「ここは謝る場所でも言い訳をする所でもない」。しっかり分析して、どうするかを話合って決めていくのだ」。幹部研修として司会者は、数字の分析のやり方を教育する。その上で目標を達成するための実行施策について参加者メンバーの意見を引きずり出していく。従って、会議において下をうつむいて一言も発言できない者は、参加する資格がない。一方的な社長の叱責、説教の場ではなく、部門長が一体となってアイデアを出していく。切磋琢磨していく。このプロセスがマネジメント力を鍛えていく。例えばドライバー教育表( 表2参照: PDFファイル16KB )についても実績検討会議のなかでまとめていった。

(2)ドライバー教育表の活用

ドライバー教育表( 表2参照: PDFファイル16KB )は教育項目を10項目としている。10項目に対して班長と管理者が毎月チェックする。班長はドライバーのなかから選任する。職場小集団活動のテーマが、10項目である。職場小集団活動のリーダーが班長である。ドライバー教育表は各人ごとである。各人ごとにチェックして、できていないところについて管理者が個人面談して、マンツーマンで指導していく。10項目は【1】業務ミス 【2】業務姿勢  【3】無事故運転 【4】コスト管理 【5】安全運転 【6】勤務態度 【7】協調性 【8】服装 【9】車両管理 【10】事故である。物流現場の活性化は班長、管理者のレベルで決まってくる。チェックによって、できていない原因を分析する。そして個人面談での指導を行う。諦めず、粘り強く、しつこく、できるまで行うこと。これがドライバー教育表の活用にあたっての班長、管理職の決意である。「うちの会社の意識変革は、真剣勝負というキーワードからです。なあなあで済ますとか、仕方ないと諦めるのではなく、真剣にやっているかどうかにかかっています。」A社長の言である。生き生きとし、やる気を一人一人が持って働く物流現場の実現にあたって、A社の取組み事例は大いに示唆に富んでいる。

以上