「人を活かす、経営に活かす」第06回

(1)「職場小集団活動」の導入のきっかけ

A社は物流品質向上を目的として職場小集団活動に取組んでいる。きっかけは荷主からのクレーム、しかも「これ以上トラブルが続くと取引を中止する」との強いプレッシャーにある。クレームが発生する根本原因は現場に潜んでいる。そこで現場の物流品質向上が命題となる。

(2)「職場小集団活動」の進め方

班編成とする。メンバーは10人までとし、リーダー・サブリーダーを任命する。コーチ役は管理職が担う。リーダーの主な任務は職場ミーティングの開催、運営である。コーチ役は補佐として職場ミーティングの進行を助ける。月1回定例化する。会議の準備として事前に日時、場所をメンバーに連絡する。全員出席を原則とする。どうしても出席できないメンバーは、後日必ず個人面談して周知する。記録係はサブリーダーが務める。会議の進行にあたっては時間配分を適切にする。通常60分とする。全員発言を心掛ける。話しやすい雰囲気を作る。会議の終わりでは次回のスケジュール、テーマを確認する。議事録をまとめる。議事録のまとめ方としてはすぐ書くことである。遅れれば遅れるほど書くのが億劫になる。プロセスと結論を簡潔にまとめる。かつ進まなくて困っていること、どう解決してよいか分からないことについても記入しておく。管理職(コーチ役)からのアドバイスを求める為である。

(3)「職場小集団活動」の実践事例

大テーマとして物流品質向上、その為に現場教育マニュアルの作成に取組んだ。とりわけ現場教育としてドライバー育成マニュアルとした。表1(PDFファイル10KB )の通りドライバー育成計画書をまとめていった。ドライバーの育成ステップは1~5までとする。採用当日のオリエンテーションは次の通りである。

1.心構え
プロドライバー5訓を唱和し暗記させる。

プロドライバー5訓
  1. やる気があるだけでは務まらない職業である。
    (厳しさから喜びまでプロドライバーとして成長させる)
  2. モノは運んで初めて商品となり活かされる。
    (人の役に立つ、使命感を担っている職業である)
  3. 車はリヤカーではない。
    (車1台は数百万~数千万であることを知る。運ぶ荷物はお金で換算できない)
  4. 一人一人が運送店の経営者である。
    (荷物にセールスを載せてこそプロドライバーである)
  5. 顧客の夢を載せて走っている。
    (お客様の喜びこそプロドライバーの誇りである)
2.会社の概要・規則・給与の説明
3.賞罰制度の説明
4.実務教育
  1. 社是の唱和
  2. 挨拶訓練・身だしなみチェック
  3. 集荷配送・発送の基本作業(ビデオ)・伝票・日報作成
  4. 車両の点検(実習)
  5. 車両事故防止(事故事例)
5.報告書・チェックリストの活用方法

3ヵ月後にドライバー評価項目による合否判定をする( 表2の事例参照:PDFファイル28KB )。表2の事例では70点以上で正式任命となる。評価項目は(1)業務ミス (2)業務姿勢 (3)無事故運転 (4)コスト管理 (5)デジタコ管理 (6)車両管理である。本人のコメントに基づいてリーダーが評価し、総合評価は管理者(コーチ役)が決定する。
職場小集団活動では以上のことを6ヶ月かけてコーチ役のアドバイスを活用し、ドライバー育成マニュアルとしてまとめあげた。

(4)「職場小集団活動」の成果

A社では、職場ミーティングの時間が取れないとか全員集まるのは無理だとか、あるいはドライバーに難しいことを考えさせても続かないとか・・・。いろいろと導入にあたっては、悩みが深いものがあった。しかし荷主の取引中止のプレッシャーに直面してトップが大決断して、それこそ不退転の決意によって職場小集団活動がスタートした。先述の事例は現場から作り出したドライバー育成取組みの成果である。全体の成果としては次の通りである。(1)コミュニケーションシステムが機能する。報連相の仕組みが確立する。(2)実践的、具体的な人材育成の仕組みとして定着する。その中で現場のリーダーが鍛えられてくる。(3)物流品質向上という共通認識が深まり、望ましい社風、職場風土が形成されてくる。

職場小集団活動は車のように目に見える投資ではない。金額でもにわかには測定できないものである。しかし効果は大きい。物流業は角度を変えれば、コミュニケーション業である。物流業は労働集約産業である。ヒトのウエイトが大きいサービス業である。それだけに一人一人のやる気の向上が業績、安全、品質に直結する。だからコミュニケーション業である。ドライバーの仕事は会社を出て帰ってくるまでは一人である。一人で仕事をする。それだけに会社内でのチームワークの良さは、ドライバー一人一人の働きの質を高めていく。「よし、頑張ろう!」と勇気を奮い起こしていく。

以上