「人を活かす、経営に活かす」第45回
~事故ゼロへの取組み事例~

重大交通事故が発生した。早朝5時頃、物流センターを出発した4tトラックの乗務員が人身事故を発生させた。「どうするか」。A社では当面の対応に追われる。すぐさま代わりの車とドライバーを派遣する。ケガした人(重体)が入院している病院に、あたふたとA社の社長、配車担当者が駆け込む。保険(損保)の代理店にもすぐさま連絡する。 運送会社では重大事故が発生すると、あたふたと社長以下、大変な目に合う。A社長はつくづく思う。「何とか事故をなくすことはできないか」。

A社の事故ゼロへの取組み事例

(1)事故原因分析チェック表の活用

A社では交通事故を発生させると、事故報告書を社長宛に提出することとなっている。ところが、現場の各営業所の責任者はすぐに提出しない。事故が起こると、処理に忙殺されて報告書の提出が遅れがちになる。ひどいケースだと、事故を起こして1週間位経ってようやく、社長の元に届く始末もある。内容についても、事故を起こしたドライバーとろくに面接もせず、詳しい記入ができていないケースもある。そこで「事故原因分析チェック表」(表1参照:PDF32KB)を活用することとする。

作成にあたっては、個人面談する。所要時間は30分~60分程度かけて、じっくり行う。事故発生までの運転内容を確認する。出発点より事故発生までの走行距離、運転時間や運転内容を確認する。事故を起こすにいたる状況把握のひとつとして行う。過労状態ではなかったか、仕事内容はどうであったかを確認するわけである。その上で更に詳しく突っ込んで、事故発生の状況をヒアリングする。ヒアリングして浮かび上がった問題点について対策をとる。対策と連動して、事故を起こしたドライバーに対し「無事故の誓い」と題するレポートの作成を義務付けている。

事故発生時の状況ヒアリングの項目は次の通りである(詳しくは事故原因分析チェック表参照)。

  1. 身体の調子 ― 具体的に確認する。
  2. 職場環境 ― 上司(配車係)への不満はないか。同僚との人間関係はどうか。
  3. 生活環境 ― 借金はないか。家庭上での心配事はないか。
  4. 車の状態 ― 運行前点検はきちんと行ったか。
  5. 心の状態 ― 心に悩み、焦りはなかったか。
  6. 道路の状態 ― 地理はよく理解していたのか。

1~6 の項目についてヒアリングして、どこに問題があるのか、浮かび上がらせていく。事故を起こしたドライバーが自ら気付くようにする。その上でこれから事故を起こさない為にどうするか、「無事故の誓い」にまとめていく。処分としては、1年間に3回目の事故を起こした者は、特段の事情がない限り退職勧告することとしている。「事故原因分析チェック表」を活用して個人面談し、「無事故の誓い」と処分内容について、事故を起こした日から3日以内に社長に報告することとしている。重大事故の場合は、社長自らが報告のあった日から7日以内に行うこととしている。

(2)愛車チェックリスト表の活用

「事故原因分析チェック表」を1ヶ年集計して、様々な傾向が浮かび上がった。身体の調子、職場環境、生活環境、心の状態の乱れが車の状態に表れてくることが判明した。愛車の取組みが不十分となることが分かった。そこで「愛車チェックリスト表」(表2参照:PDF36KB)を活用することとする。項目は以下の通りである。

  1. 車両の4S―4Sとは洗車、清掃、清潔、整頓のことである。車両の美化に徹底して取組むことである。洗車をこまめに行うこと、運転室内を綺麗にすること、作業都度、荷台を清掃する等である。
  2. 車両管理―日常点検を点検表に基づいて、毎日15分行うこととする。例えば、タイヤの空気圧について点検ハンマーにて「コンコン」と叩く。オイルやエレメントの具合をチェックする。かつて日常点検は形式にとどまり、実際には行っていなかった。すぐ出発というのが慣行であった。そこで出発前の15分前を日常点検にあてることとする。ドライバー任せにすることなく、配車担当者が交代で立会うこととしている。朝が早いことや、ときには深夜の出発もあり、立会いの配車担当者も大変である。しかし社長の「何としても事故を減らしたい」との熱意に支えられて実行している。
  3. 車両の備品管理―修理工具、荷固め工具、シートやタイヤチェーンの備品管理を行っている。

「愛車チェックリスト表」は100点満点とし、80点以上で合格、60点以下は不合格としている。60点以下については個人指導を行うこととしている。

無事故実現への取組みは強く思うことから始まる。「何としても事故を減らしたい、ゼロにしたい」との強い思いをトップ、幹部、ドライバーが持つことである。その上で毎日、毎日の実績を積み重ねていく。「愛車チェックリスト表」の活用もそうした無事故実現へ向けての取組みのひとつである。車を大事にして、心を込めてハンドルを握れば事故はなくなるからである。

以上