「人を活かす、経営に活かす」第44回
~職場改善への取組み事例~

A社の営業所(車両台数20台)は、最悪の営業所であった。営業所長(A所長)の涙ぐましい努力によって職場改善を果たし、優良営業所へとよみがえっていった。今回はA所長の奮闘ぶりを紹介する。

(1)職場の現状

ドライバーの定着が悪い。ドライバーの勤続年数は、5年未満が全ドライバーの80%を占めている。とりわけ1年未満のドライバーが50%もいる。荷主から いつ首を宣告されてもいいぐらいの物流品質レベルである。カラスの鳴かない日があっても、クレーム・トラブルのない日はないほどである。欠品、誤配、破損 のラッシュである。1日1件ペースでなんらかのクレーム・トラブルが発生している。A所長の日々の仕事は、クレーム・トラブルに振り回されている。「どう してこんな職場になっているのか?」

(2)職場の問題点

  1. 挨拶ができていない ― 配車担当者はドライバーに元気よく挨拶をしていない。声が小さい、たまに挨拶することすら忘れている。ドライバー仲間でも仲の良い人と悪い人があって、お互いシラーッとしている。
  2. 掃除ができていない ― 休憩室は読みかけの雑誌や飲み物の缶が散乱している。誰も片付けようとしない。トイレも汚いままである。
  3. コ ミュニケーションが悪い ― 言った言わないで、よく配車担当者とドライバーがもめている。報連相が悪い。必要な情報がドライバーに伝わっていない。燃費効率すらドライバーは知らな い。職場ミーティングの時間も、なかなかとれない。仕事が比較的ヒマな土曜日に職場ミーティングをしても、いつも出席率が悪く50%くらいしか出席しな い。A営業所は暗い。ギスギスしている。所長は自問自答する。「どこから手をつけていくべきか?」

(3)職場改善のスタート

  1. 日々の記録から充実する ― 所長は毎月必ずドライバーの運転日報をチェックする。車のスピードや時間の使い方、さらに記入方法までチェックし、必ず一言コメントをつける。所長自らも 業務日誌を作成する。日々を大切にするポイントとして、日々収支を把握して配車担当者に説明することとしている。毎日5分間のミーティングである。「継続 は力なり」で5分間ミーティングを続けている。
  2. 5Sへの取組み強化 ― 5Sとは整理、整頓、清潔、清掃、しつけのことである。職場の問題点であるところの挨拶ができていない、掃除ができていない、コミュニケーションが悪い― これらを解決していくキメ手は5Sの実践にある。具体的には5Sチェックリストを作成して小集団活動(職場ミーティング)の中で実践している。職場ミー ティングの出席率を高める工夫をすることで、5Sチェックの職場ミーティングを充実させている。参加をうながす工夫として、職場ミーティングの出席者には 1回2,000円を支給している。
  3. 職場改善提案書の活用 ― 職場改善提案書(表1:PDF37KB)をA所長は活用する。考働するドライバー育成が目的である。導入当初はブーイングの嵐である。「字を書きたくない、書くことが好きではないよ」「ハンドルを握ることが仕事なのに、色んなことを考えられないよ」
    ブーイング、反発に対してA所長は立ち向かっていった。いい提案で効果が上がれば、社長とかけあって社長賞を出すことにした。粘り強く職場改善提案書の提 出を働きかける。職場の中で、どのようなことでもいいから問題点を見つけ出す。どうしたらいいか提案する。こうしたプロセスによって考働するドライバーを 育成していく。例えばトイレが汚いという問題点がある。トイレの掃除に対してチームを作り、ローテーションで掃除する。効果はどうか。有形効果としては、 今まで外部業者に頼んでいた掃除を自分達ですることによって、その分のコストを削減する。無形効果としては、チームワークで取組むことによって職場の空気 が明るくなってくる。
  4. 損害賠償規定の活用 ― 職場改善提案書の中で採用されたもので、損害賠償規定(表2:PDF50KB) がある。事故、クレームをなくす為に歯止め策として提案された。上からの押しつけではなく、ドライバーからの提案という所に味がある。A営業所では従来ど のような事故、クレームでも1件3,000円というルールがあるのみであった。ドライバーにしてみれば、どんな金額の事故、クレームでも1件3,000円 なのでありがたい反面、内心不満でもあった。「やはり事故、クレームの程度によって差をつけるべきだ」そこで損害賠償規定である。損害負担の上限は20万 円とし、損害金の査定は状況をよく調査して会社が決定することとしている。

A所長の職場改善の努力は続く。「これでいいということはありません」。一歩一歩である。「やり抜くぞ」との執念を持って逃げずに立ち向かっている。

以上