「人を活かす、経営に活かす」第43回
~5Sの実践によるドライバー人材育成事例~

「我社の現場のモットーは5Sの実践です。5Sの実践の積み重ねによって職場風土は明るくなり、コミュニケーションも格段によくなりましたね。」A物流会社社長の言葉である。A社の5S実践について紹介する。

【1】A社の5S実践事例

5Sとは整理、整頓、清潔、清掃、しつけのことである。A社長が5Sに取組むきっかけは荷主の評価にある。A社は運送と倉庫の仕事をしていてアルバイト、 パートを含めると300人、車両台数200台の中堅物流会社である。A社長は創業者である。創業当初はA社長もハンドルを握っていた。仕事の隙間があると 荷主のトイレ掃除をおよそ3年間位コツコツ行っていた。そうしたA社長の働く姿勢が荷主トップの目に止まり「うちの倉庫を運営してみないか。」と打診され た。信頼されたわけである。「うちの荷物を預けるにたる男」として評価されたわけである。この倉庫運営に挑戦して成功したことが、A社の基礎を作ったわけ である。

(1)5S誓約書シートの活用
A社長は入社にあたってアルバイト、パートから社員に至るまで5S誓約書シート
(表1:PDF37KB)を活用することとしている。入社時の教育は5Sから始まる。初めは社長自ら講師をしていたが、現在は職場の小集団活動のリーダーが担当している。導入教育の終了にあたって締めくくりとして5S誓約書シートを活用する。
導入教育の項目は次の通りである。

  1. 挨拶―リーダーが挨拶のお手本を示し、大きな声で挨拶訓練を行う。
  2. 服装―正しい服装の着用について解説する。
  3. トイレ掃除―週1回はトイレ掃除当番が回ってくる。トイレ掃除の手順について実践研修をする。
  4. 車の掃除―車外、車内の掃除の手順について説明する。
  5. 運転日報の記入―正しい運転日報の記入の仕方について実例を示す。
  6. 燃費効率の把握―燃費は自ら集計して把握する。
  7. 職場ミーティングへの参加―職場ミーティングの目的について説明する。
  8. 生活改善―貯金をしているかチェックする。
  9. 健康管理―体調管理に心掛けているかチェックする。
  10. タイヤ管理―タイヤ管理をしているかチェックする。

5S 誓約書シートは「はい」と回答することで一人一人の決意を確認する。社長の前で本人が大きな声で項目ごとに読んでいく。項目は誰にでもできそうなものばか りである。しかし日々実践するとなるとなかなか大変である。実践状況のチェックは5S個人面談としてリーダーと本人が3ヶ月ごとに行っている。5S実践状 況を評価して優秀な者については5S表彰手当として、最優秀50,000円、優秀30,000円、良好10,000円として支給している。いわば年4回の 特別ボーナスである。

(2)5S評価表の活用
5S誓約書シートによる3ヶ月ごとの個人面談の評価をベースとして、6ヶ月単位で
5S評価表(表2:PDF62KB)を活用している。5S評価表の目的は、6ヶ月ごとに行うことで夏と冬の賞与の査定資料となる。合わせて1ヶ年単位で評価して、優良な者を5Sリーダーとして任命する。任期は1ヶ年とし、リーダー手当として10,000円支給する。
5Sリーダーの役割は、5S誓約書シートの個人面談の実施にある。当初は個人面談は社長が行っていたが、現在では5Sリーダーが行うようにしている。5S リーダーだけでなく管理者も一緒になって行っている。管理者だけでは実際の現場のことは分からないこともある。従って同じ仕事をしている5Sリーダーが行 うわけである。「うちの会社は年6回のボーナスがあるよ。」と社長は胸を張っている。夏と冬の賞与と3ヶ月ごとの特別賞与のことである。5Sを基本項目と して頑張っている者については、しっかりと報いていきたいとする社長の考えである。「いくら口で言ってもなかなか実行してくれません。」社長の言である。 そこで5S誓約書シートと5S評価表を活用する。3ヶ月単位で個人面談する。月1回は職場ミーティングをする。こうしたコミュニケーション活動を活発化さ せる。5Sリーダーとして現場からの行動見本者を育成していく。毎月の給与とは別に年6回の「ボーナス」を支給する。あの手この手とはこのことである。 「それでも、とてもついていけないと辞めていくドライバーもいます。ドライバーの教育とは根気と継続ですね。」A社長の5S実践の挑戦は続く。5S評価表 を正しく活用する上で業務日誌がある。業務日誌は拠点ごとの部門長が作成し、社長のチェックを受けている。中味としては、日々の5S実践状況について各人 ごとに把握している。
例えば職場ミーティングを欠席した者については、直ちに理由を問いただし内容を記入しておく。こうした記入の積み重ねがないと正しく5S評価表を活用することにはならない。

 現場人材(ドライバー)の育成は本気で取組むことである。本気で取組む内容は5Sの実践である。

以上