「人を活かす、経営に活かす」第38回
~ドライバー人材育成の取組み事例~

物流現場で日夜奮闘しているドライバーの人材育成をどのようにして進めていくか。A社では、ドライバーの人材育成の進め方について頭を抱えている。

(1)A社の現状

A社は主として、小口貨物の集配業務を行っている。営業所に所属するセールスドライバーは、15人程度である。A社の職場実態はどのようなものか。筆者は社長から、ドライバーの人材育成の進め方について相談を受けている。そこでまず、現場で働く1人1人の状況把握をすることにした。そのヒアリング結果は次の通りである。

(1)給料の不満が渦巻いている
「給料が安い。」「こんなに働いているのに、やってもやらなくても一緒だ。」「うちの給料の支払い方が分からない。」・・・・A社のセールスドライバーの1日は長い。朝6時から7時には出社して朝礼、それから積み込みの段取りをして配達に出発。営業所にいったん帰庫して、今度は集荷の段取りをして出発。帰ってきてからは、伝票の整理や作業の手伝いをする。長い1日は夜8時頃に終わる。繁忙期になると夜8時のところが23時、時には日付変更線24時を回ることもある。「寝る間もなく、家に帰る間もなく働いているよ。」こうした状況で口をついて出てくるのは、給料への不満である。

(2)配車係、上司への不満が渦巻いている。
「こんなに仕事をしているのに、自分達の言い分を聞いてくれない。」「早くドライバーの人員を補充してほしいと言っても、なかなか進まない。」「自分だけつらい損な仕事ばかりしている。○○君はどうしてあんなに楽な仕事ばかりなのか。自分は上司に嫌われている。」・・・・中には月末をもって退職したいと、こぼすドライバーもいる。

A社の職場の現状は一口に言って、コミニュケーションが悪いということに突き当たる。上司とドライバーの間の信頼感が薄い。

(2)A社のドライバー人材育成への取組み

(1)個人面談シートの活用
上司(所長、配車担当者)とドライバーで個人面談を実施することとする。(個人面談シートは表1参照)セールスドライバーとして、自分の仕事内容をどのようにとらえているか。第一線ドライバーとして、どのように売上に貢献しているか。じっくりと心を開いて、確認する。その上で、現在の担当職務状況についてヒアリングする。仕事の質、量、意欲等々である。問題点が浮かび上がってくる。中には住所不定のドライバーがいることも判明する。住む所もなく車の中で寝たり、インターネットカフェで一夜を過ごす者もいる。あるいは、サラ金苦で離婚しているドライバーもいる。省みて、いかにドライバーのことを把握していなかったか。営業所長や配車担当者は反省する。給料の不満の背景にあるのは、心の繋がりがないということに気付かされる。心の繋がりとは、信頼感、1人1人のドライバーのことをよく知っている、働くことそのものの中に喜びを見出していくようにすることの中で、育まれていく。

(2)セールスドライバー研修の実施
1泊2日のセールスドライバー研修(表2参照)を実施する。個人面談シートの活用による職場の現状の問題点として、以下の点が明確となる。

(3)働くことの目的、意義、プライドが不明確であること。
単にお金=給料のみで働かされていると思い込んでいるドライバーが多い。そこで原点に帰って、経営理念の意味をグループディスカッションで確認する。その上で、セールスドライバーの役割について研修する。セールスドライバーの原点は挨拶、基本動作である。実際に、繰り返し繰り返し挨拶訓練をする。基本動作についても集配業務のイロハから叩き込む。その上で、売上アップの為にお客様に対する接客、交渉のポイントを教え込む。別の角度では、セールスドライバー研修(1泊2日)の流れの中での大きな柱は個人目標を設定することにある。個人目標の大きな柱は3つある。1つは家庭、人生、健康である。家庭を大切にする。とりわけ両親への感謝の念を表す。目標の具体例としては、両親(父と母)の命日には必ず手を合わせて、感謝の念を表すとかである。人生については、貯金目標である。3年後には、○万円の貯金をするとかである。健康については、1日30分のウォーキングをするとかである。2つ目は、コミニュケーションである。気持ちのいい大きな声で挨拶をする。上司に1日5分、その日にあったことについて、会話のキャッチボールをするとかである。3つ目は、5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)である。制服の完全着用、車を綺麗にする。ゴミの分別をするとかである。個人目標の設定によって、セールスドライバーとしてのプライドを高めていく。プライドとは、働く目的の自覚によって使命感に目覚めることである。世の中のお役に立っていることを認識することである。

ドライバーの人材育成の取組みは、継続していくことである。「継続は力なり」である。

以上