「人を活かす、経営に活かす」第32回
― 「小を積んで大を成す」生活日誌と月次報告書の活用 ―

A社長はドライバーのやる気のなさに直面している。そのためクレーム・トラブルの多発に頭を抱えている。やる気のなさとは、目標を持っていないということである。その日暮しである。貯金もない。貯金もゼロどころか、サラ金等で借金を抱えているドライバーもいる。独身者も多く、食事も不規則で生活態度もしまりがない。「ドライバー稼業は、夢も希望もない」とうそぶくドライバーもいる。クレーム・トラブルゼロを目指して口酸っぱく言っても心に届いていない。右の耳から左の耳へ通り過ぎるだけである。A社長はつくづく嫌になる。「運送業とは何と空しいものか。荷主には文句ばかり言われて、しかも運賃は一向に上がらない。そのうえ夢も希望もないドライバーと付き合っていかなくてはならない」と内心ガックリきている。「どうしたらいいものか。」A社長の切羽詰った想いである。

(1)個人面談の実施 - 生活日誌の活用

ドライバーと向き合うことが大切である。「ドライバーと付き合ってもどうせ辞めていく。中には前借してそのままドロンする者もいる」とA社長は空しさを抱えていた。そこで生活日誌(表1参照 PDFファイル134KB)の活用である。

スローガンは「小を積んで大を成す」。この目的で生活日誌を活用している。起床時間と就寝時間、食事内容、日々の現金出納、日々の走行km、一口コメント等を記入する。1ヶ月分の生活日誌を基に、A社長はドライバーと個人面談をしていく。日々の生活レベルを上げていくことでやる気を高めていこうとする狙いがある。あるドライバーは、睡眠時間が1日5時間ぐらいしかない。確かめてみると、夜更かしである。更によく聞くとネットカフェで寝泊りしている。アパートを借りる金もない。これではハンドルを握っても居眠り事故につながる危険も高まる。別のドライバーの食事内容もわびしい。コンビニで生命を支えている。おにぎりやから揚げ、カップラーメン等である。しかも一日2回、朝食は抜いている。健康面の不安がある。「こんな食事はわびしいよ」A社長は思わずつぶやく。あるドライバーはその他欄に毎日、ワンカップ2本と記入している。これではアル中ではないか。地場の仕事を担当しているドライバーであるが、毎日ワンカップ2本は多い。せめて週2回は休肝日にできないか。その他欄にはタバコの喫煙本数も記入させている。吸い過ぎには注意をうながしていく。

「あまり国税局に奉仕するな。税金を吸っているのと同じだよ。」現金出納欄は金銭感覚を培うためである。前借りばかりするドライバーは、金銭感覚がない。そもそも自分の通帳に貯金がない者もいる。「貯金残高ゼロか。これでは人生残高ゼロになるよ。せめて100万円貯金してよ」とアドバイスする。100万円貯金するには、3年続ければ1日1,000円のプールで達成する。1日1,000円を雨の日も風の日もプールすれば100万円貯金できる。走行km欄は仕事の記録である。走行kmを記入して、自ら燃費効率を計算するようにしている。そして本日のコメントである。今日1日感じたことを記入する。そのうえで本人の月間コメントを記入する。そして社長との個人面談である。「個人情報保護等と言って、1人1人のことを何も知らず、どんな想いでハンドルを握っているかもわからずして、どうしてドライバーのやる気を高めていけるのか。」A社長の想いである。ドライバー1人1人の生活深部にまで踏み込んでいくことで、心の底からのやる気を高めていきたいとの想いが、A社長にはある。夢も希望もないドライバーから、せめて3年で100万円貯金できるドライバーへとの想いがある。

(2)月間コメントの充実 - 月次報告書の活用

生活日誌をスタートして、今では本人の月間コメントは月次報告書(表2参照 PDFファイル44KB)となっている。荷主状況欄は、自分の担当する荷主の動向を記入する。新規荷主の情報があれば記入する。既存荷主のフォローアップとは、社長が顔を出してほしい場合、記入する。新人ドライバー教育欄は、入社後6ヶ月間は新人ドライバーとして先輩ドライバーがアドバイスする欄である。「○○君の運転技術は○○なので、こうするべきだ。」「○○君の制服着用は、だらしがない。」「○○君はスピードを出し過ぎている。」等々、単なる批判ではなく相互に注意しあうことで仲間として、チームとしての一体感を形成していく。物流品質欄はクレーム・トラブルが発生した場合の報告欄である。特記事項は1ヶ月の貯金残高等、その他の感想を記入する。こうした月間コメントの充実によって、徐々にドライバーのやる気が向上してきている。「小を積んで大を成す」は、正にドライバー稼業の真髄である。小とは走行1kmのことである。あるいは一つ一つの荷物のことである。こうした積み重ねが「大」を成していく。「大」とはクレーム・トラブルゼロのことでもあり、夢も希望もあるドライバー育成のことでもある。「ドライバー育成は、人生勝負である。自らの生き方を賭けて、ドライバーと向き合っていくことだ。」A社長の言である。

以上