A社で重大トラブルが発生した。荷主様(配送先)から「いつになったら荷物が着くのか」と問い合わせがきた。このコースは15件の配達件数があり、次々と「まだ荷物がこない」と矢の催促となる。重大な延着事故である。配車担当者は、担当ドライバーの携帯電話を鳴らす。応答なし。無線連絡をしても応答なし。何回しても反応なし。A社の車庫は事務所から別のところにある。通常であれば、担当ドライバーは朝4:00に出庫する。早朝なので点呼はしていない。配車担当者は、ドライバーは配達しているものとばかり思い込んでいた。「ひょっとして無断欠勤か?」と配車担当者はハタと思い当たる。車庫まで走る。なんと配達車両が、宵い積みした荷物を載せたまま止まっている!
「安心して任せているのに何ということか」
「こんなことは常識外だ」
「荷物が届かなくてお得意様の経営(売上)に打撃をうけている」
「これで運送屋といえるか」
次々と激しい罵声を荷主から浴びせられる。A社は非常事態と認識する。15件の配達先に連絡する。急遽、赤帽の運送会社を手配する。それでも足りないので残っている事務員、管理職まで動員して配達する。それでも足りないので社長までハンドルを握って配達する。配達完了時間は夜9:00となる。
今回の重大トラブルはA社にとって衝撃をもたらした。運送業でありながら運べないとは、死を意味する。一人のドライバーの重大なミス(無断欠勤)がもたらしたものは大きい。荷主からの信用失墜。ペナルティ金額の発生。
ドライバー運行チェック表の実態
新人ドライバーを「忙しくて教育できない」ということはあってはならない。そこでドライバー運行チェック表(表1参照:PDFファイル32KB )を実施することとする。新人のみならず全ドライバーが対象である。運転日報に基づいて全ドライバーが日々記入チェックする。出庫と帰庫の時間を記入し、労働時間を把握する。走行距離数も記入する。車の点検チェックをする。スピードについてもチェックする。燃費効率も把握する。その上で日々一口コメントを記入する。1ヶ月に1回、ドライバー運行チェック表に基づいて配車担当者は個人面談する。労働時間が長ければ健康状態を確かめる。生活状況もヒアリングする。あわせて燃費、スピードについてチェックする。個人面談時間は各30分。
目で見える管理の実施 ― ドライブレコーダーの導入
地理についてドライバー任せにしない。エリア地図を貼り出し、納品先を表示した配送マップを公開する。軒先(配達先)の情報も貼り出す。その上でドライブレコーダーを導入することとした。
運行前点呼の完全実施
運行前点呼表(表2参照:PDFファイル95KB )を活用する。社長も含めてローテーションを組んで、早朝点呼(対面点呼)を完全実施することとする。運行前点呼事項は次の通りである。健康状態(顔色、血圧、飲酒)・服装・検査証・ドライブレコーダーの装着確認・地図・消火器・保険証・免許証などである。「本日も無事故でいこうよ」必ず点呼者はドライバーに声をかける。今までは一人で出発していたドライバーも、張りが出てくる。顔が輝いてくる。
職場小集団(班)の編成による職場ミーティングの実施
職場ミーティングはショートミーティング(15分~30分)とし、週1回実施することとする。その上で月1回60分程度の職場ミーティングを班単位で実施する。月1回のミーティングでは、ドライバー運行チェック表に基づいて行うこととしている。“雨降って地固まる”とはよく言ったものである。
A社は重大トラブルの発生による信用失墜というピンチ(大雨)に直面したが、日々チェックの強化(地固まる)によって、抜本対策を実施することができた。
逆境こそ、企業とドライバーを鍛えていく。正に“ピンチはチャンスなり”である。
以上