「人を活かす、経営に活かす」第28回
― 数字に強いドライバーを育成する事例 ―

運賃は、思うようには上がらない。更にコストはアップしている。どうすればいいだろうか。A社の経営者の悩みは深い。そこで、数字に強いドライバーを育成することで活路を見出していくこととする。

(1)数字に強いドライバー育成=燃費手帳の活用事例

A社は、荷主から要請を受けている。荷主は環境問題に取り組む一環として、次の施策を掲げている。物流拠点を半減し、トラックを3割削減するとしている。温暖化ガス削減として、物流を見直す方針である。荷主は、約400台使用しているトラックを120台減らし、配送ルートを効率化する方針である。A社にとっては、減車はそのまま売上減に直結する。「どうするか」。そこでA社長はドライバーの力に賭けることとする。ドライバーの力とは、やる気の向上のことである。その為に、燃費手帳(表1参照:PDFファイル97KB )を活用することとする。ドライバーに燃費手帳を、毎日肌身離さず携行させる。必要事項を日々記録する。その上で、月間の燃費効率をドライバーが計算する。月間走行距離÷月間給油量合計の計算方式である。どうしてドライバーに計算させるのか。

ドライバーは、自らの燃費効率目標値を設定している。自らの省エネドライブ活動の実績データと比較する。目標と実績の差をチェックする。自分の運転を振り返る。「ゆっくり発進して、ゆっくり止まる」ことが燃費効率向上の決め手であると、気付きを深めていく。ドライバー自らが燃費効率を計算することで、やる気が沸いてくる。「事故をおこしたくない、その為に燃費効率に取り組んでいるのだ」と自ら納得することで、やる気が出てくる。このことこそ、A社長がドライバーの力に賭けているということの内実である。A社では、燃費効率が10%アップすることで、営業利益率5%を確保できる。燃費効率が良くなる→交通事故が激減する→車の保険料の割引が拡大する→車の修繕費も削減する。これらの善循環によって、営業利益率5%は確保できる。その上、数字以外の大きな成果が出てくる。荷主からの、A社に対する物流品質力の評価が高まることである。物流品質力とは、ドライバーレベルの向上である。ミス、クレーム、事故ゼロを実現するドライバーが、荷主に貢献していく。荷主から大きな評価を頂くことで、ドライバーのやる気に更に火がついてくる。A社長は述懐する。「運送業の経営者は、現実を悲観していては何も始まりませんね。ドライバーを宝として、ドライバーのやる気に火をつけていくことができるかどうかが、経営力の分かれ目ですね。」燃費手帳はドライバーだけのものではなく、管理者(配車担当者)、社長にとってもコミュニケーションツールの大きな武器となる。数字に強いドライバー育成は、コミュニケーションの改善によって成し遂げられていく。

(2)数字に強いドライバー育成=コスト原単位表の活用事例

コスト原単位表として燃料費、車両修繕費、タイヤ・チューブ費を公開している(表2参照:PDFファイル112KB )。コスト原単位表は、自社の標準値を公開している。このデータに基づいて小集団活動を展開する。小集団の班編成は、6~7人とする。ドライバーからリーダーを選任する。目標を設定する(燃費効率10%向上)。月1回定例ミーティングを行い、燃費効率はドライバーが計算する。その上で6ヵ月後、小集団活動発表会を実施する。車両修繕費については、基準走行kmに基づいて、走行1km当たりのコストを公開している。その上で、ドライバー全員がいつでも閲覧できるところに、車歴台帳を配置している。車歴台帳には修繕内容、金額が記入してある。ドライバーは自らの車の生涯修繕費がわかる。車両管理の上でも、生涯修繕費をつかむことで新車代替(配車のタイミング)の時期がわかる。A社では事故費と保険料は、運送収入の3%以内を標準値としている。タイヤ・チューブ費については、タイヤ耐用走行kmを設定して、1km当たりのコストの標準値を公開している。チェックマンとして、小集団活動のリーダーが任命されている。机の上でコストチェックするのではなく、小集団活動という物流現場で行う。このことで物流現場力を鍛えていく。

A社のコスト管理原則は、次の通りである。

  1. 定期的に相見積もりを取る
    - 1~2ヶ月の単位でコスト項目ごとに相見積もりを取り、その内容を小集団活動の中でリーダーを通じて公開している。
  2. 購入条件、支払方法を有利な様にする
    - 現金主義をとることで、金利分を減らしている。
  3. 給油場所をドライバーに周知させる
    - 場所だけでなく、当たりの価格も周知している。
  4. タイヤ耐用走行km、タイヤの溝の基準を決める
    - 燃費効率向上といった視点から設定している。
  5. 修繕費については、生涯修繕費を算出する
    - 愛車主義の実践によって生涯修繕費は、寿命が延びる。愛車主義とは、車を大切に扱う、無事故の実現のことである。

A社での数字に強いドライバー育成から、何を学ぶことができるか。トップの強い決意である。ドライバーのやる気をパワーアップする上で、数字とコミュニケーションの力が必須である。ドライバー1人1人には、宝がある。宝を自覚する力が、ドライバー1人1人にあることを経営者は気付かねばならない。

以上