「人を活かす、経営に活かす」第26回
― 個人面談の実施のよるドライバー育成事例 ―

物流現場は戦場である。A社のドライバーの一日の拘束時間は14~15時間で、月にすると優に300時間は超える。なにしろ荷主の都合で待ち時間が長い。3時間待ちもざらである。食事も車の中で済ます。来る日も来る日もコンビニで調達する。A社の社長はこうしたドライバーの勤務実態にふまえて、独特のドライバー人材育成方法を実施している。それは個人面談の活用による人材育成方法である。

(1)個人面談の活用による人材育成方法

ドライバー全員を一度に集めて行う集合研修は難しい。そこでA社長は月1回、各30分程度の個人面談を活用する。目的は安全第一を実現するドライバーの育成である。その為に以下の3点について個人面談項目としている。

【1】健康状態
労働基準監督署の監査指導で長時間労働について指摘されている。ドライバーの過労実態について問題となっている。A社長としては、何も好き好んでA社の事情で過労実態になっているわけではない。荷主の事情による。「待ち時間を減らしてほしい」といくら要望しても一向に改善しない。そこでA社長の努力としては、ドライバーの健康状態を把握して対処するしかない。備え付けの血圧計で血圧を測定する。体重を確認する。食事内容を確認する。疲れている程度が大きければ病院へ行かせたりする。腰痛があれば、仕事のローテーションが可能かどうか検討する。

【2】生活状態
結婚していれば奥さんとの仲はうまくいっているか。子どもがいれば子どもは元気か。一人者であれば貯金はしているか。…こうした生活状態をチェックする。生活状態が不安定だと、事故やクレームの発生に繋がりやすい。

【3】仕事状態
燃費データを示して省エネ運転に努めているかどうか確認する。荷主に対して改善提案があるか。配車担当者への要望はあるか。給料の中身についても説明する。

こうした3点の項目について個人面談する。個人面談の進め方(表1参照)に基づいて行っている。(表1参照:PDFファイル17KB )の通り座り方にも配慮している。

(2)個人面談チェックリスト表の活用

A社長は個人面談がうまくいったかどうかの判定として、個人面談チェックリスト表(表2参照)を活用している。ドライバーに説教していないか。叱ってばかりいないか。自己反省するために個人面談チェックリスト表(表2参照:PDFファイル44KB)がある。ドライバー一人一人に個性がある。長所(美点)もあれば、欠点もある。長所を見出して、ドライバー自らが気づきを発揮していくために個人面談を行う。安全第一のドライバーはどうあるべきか、という気づきである。その為にはA社長は一人一人のドライバーに願いをかけることとしている。願いとは期待のことである。願うことをなくしては、ドライバーは育たない。ダメだと決め付けていては、その気持ちがドライバーに伝わっていく。個人面談チェック項目は以下の通りである。

  1. 給与明細書とデジタコ評価は、準備資料である。ドライバーの仕事の状態を表現しているからである。
  2. 客観的事実は、運転日報に基づいている。車のスピードが社速の通りかどうかチェックする。社速とは高速道路で80km以下、一般道で60km以下である。
  3. 事故・クレームについては、事故・クレーム報告書に基づいて行う。事故・クレームを発生させた背景についてチェックする。
  4. 前回の個人面談で質問されたことについてキチンと答える。聞きっぱなしにはしない。
  5. ドライバーからの質問で、配車に対する考え方については、配車担当者に確認して答える。
  6. 耳を傾ける姿勢でドライバーと向き合うこととしている。頭から否定してかからない。こうすることでドライバーの心を開かせる。
  7. 個人面談内容は記録する。記録することで前回、今回と連続させていく。
  8. 会社の経営理念、社訓を理解させる。どうしてこのような経営理念・社訓か懇切丁寧に説明する。
  9. 個人面談は屈服させる為にするのではない。ドライバーの気づき力を高めていくことにある。
  10. ドライバーの成長を願い、期待していることをわからせていく。

こうした10項目のチェックによってA社長は、個人面談の場をマンツーマンの研修道場としている。通り一遍のドライバー育成マニュアルや心のこもらない注意でドライバーが育つとは思えない。A社長は真剣勝負で個人面談に立ち向かう。「こうした実践によって私自身が経営者として鍛えられ、成長したような気がします。ドライバーを育てるということは、自分が育てられるということですね」(A社長の言)。

長時間の労働という物流現場にあって、A社長の実践から何を学ぶべきであろうか。それは情熱である。熱い想いの力強さである。さらに言えば、トップのリーダーシップ力である。こうしたトップの実践によってドライバー一人一人が、安全第一を実現するドライバーへと育成する。

以上