「人を活かす、経営に活かす」第21回
― ドライバー人材育成取組み事例9 ―

「燃料費のアップはじわじわと経営に響いてきますよ。これからどのようにして物流経営の舵取りをしたらいいのでしょうか。」ある経営者の嘆きである。燃料費がアップしても十分に運賃に転嫁できていない。「スズメの涙」ほどのアップである。運送収入に比して1%ぐらいのアップしか実現していない。「とても燃料費のアップを補っているとはいえませんよ。これからの運送業は成り立っていくのでしょうか。」

(1)コスト削減チェックリスト表の活用 表1( 参照:PDFファイル53KB

運賃が思うように上がらないとしたら、コストを抑制するしかない。“入るをはかって出ずるを制す”収入とコストのバランスを取るしかない。「コスト抑制といってもギリギリまで努力していて、最早コスト削減の余地はありませんよ。」果たしてそうか。なるほどギリギリまでの努力を続けている。ここのところは正社員は採用しない。契約社員という名のアルバイトドライバーで凌いでいる。給与は時間給で、社会保険は未加入である。「社会保険に加入できるほどの余裕もありませんよ。」
にも拘らず打つ手はある。全員経営参画体制の構築である。一人一人のドライバーを経営に参画させていくことである。・・考働ドライバーの育成である。考えて働くとはどういうことか。コスト削減チェックリスト表(表1 参照:PDFファイル53KB )の活用によって、コスト管理にコミットメントしていくことである。項目としてエコドライブ、車両費、経費削減の3項目である。エコドライブの項目ではアイドリンク、スピード、タイヤの空気圧、運転操作(等速運転)を取り上げている。毎日チェックする。一つの項目で10点とし、満点で100点である。実績はドライバー本人が行う。採点は、配車担当者が行う。コメント欄はドライバー、配車担当者それぞれが記入する。1ヶ月分を集計してデータに基づいてチェックする。目標燃費効率と実績データのチェックである。運転日報を提出する際に、コスト削減チェックリスト表(表1 参照:PDFファイル53KB )も合わせて提出する。「千里の道も一歩からですね。」一日一日の努力で燃費効率の向上という成果に結び付けていく。車両費の項目では愛車点検、車の履歴書管理、修繕費データを取り上げている。愛車点検とは、洗車と車両状態のことである。車の履歴書管理とは、車両台帳をドライバーに管理させている。車両管理は、整備担当者に丸投げすることはない。ドライバーごとに車の担当を決めてチェックしている。わずかな異状を見逃して後で大損することのないようにしている。修繕費データとはタイヤ一本の価格、部品代はいうまでもなく、車検費用の明細についてまでドライバーに知らせている。・・考働するドライバーとは、コストのわかるドライバーのことである。コスト管理のできるドライバーは、安全ドライバーでもある。スピードを法定速度にする(エコドライブの項目)。このこと一つでも、事故のリスクは大きく軽減するからである。経費削減では有料代、制服、携帯電話代を取り上げている。

コスト削減チェックリスト表(表1 参照:PDFファイル53KB )の取組みによって成果は確実に出ている。燃料使用量(営業所単位)データ(表2 参照:PDFファイル76KB )は、乗務員の休憩室に掲示している。燃料使用量の削減目標を決めている。対前年比10%減を目標としている。前年実績と本年実績と、月目標ラインを一目でわかるようにしている。こうすることで燃料費削減への意識付けとなる。見える化に取組んでいる。見える化は燃料費だけでなく、コスト削減チェックリスト表(表1 参照:PDFファイル53KB )10項目全てについて行っている。

(2)全員経営参画体制のポイントについて

1. 経営情報を公開すること 見える化によってコスト情報を公開することが、全社一丸の体制を確立することになる。自らの努力が数字に表れることで励みとなる。
2. コスト削減目標を明確にすること コスト削減チェックリスト表(表1参照:PDFファイル53KB )の活用によって、コスト削減目標を共有化することである。共有化とは、ベクトルを一つにすることである。
3. 日々チェックによって、
コミュニケーションをよくすること


毎日チェックすることに意味がある。継続することで職場の風通しが良くなる。コメント欄の 活用は大きく役立つ。

全員経営参画体制は、別の表現で言えば一人一人が職場の主人公となることである。「働かされている。」「お金(給料)が全て。」といった受身からの脱却である。仕事の中に喜びを見出していくこと、仕事の主人公になることである。その為には、経営情報の公開、目標の設定、コミュニケーションを良くすること=全員経営参画体制の構築=が必須である。経営の苦しさをいたずらに環境のせいにしたり、人不足とかに転嫁することでは光明は見出されない。今日の事例はコスト削減をテーマとして毎日、全員が取組んだ経営改善活動を紹介した。地味でコツコツと当たり前の取組み事例である。確実に成果は上がっている。こうしたプロセスの積み重ねで、人材育成は実を結んでくる。机上の学問だけでなく、現実の仕事の中から学んでいくプロセスである。全員経営参画体制構築のプロセスである。

以上