「人を活かす、経営に活かす」第20回
― ドライバー人材育成取組み事例8 ―

職場風土の改善は乗務員育成にあたって必須である。とりわけ職場のコミュニケーション力はキメ手となる。

コミュニケーション力の自己診断の活用

「目に見えるものが、目に見えないものによって動かされる。」(C.Iバーナードの言) C.Iバーナードは高名な経営学者である。目に見えないものとは何か。それはコミュニケーション力である。表1( 参照:PDFファイル34KB )はコミュニケーション力自己診断表である。YES・NOと自己診断によって行う。とりわけNO.1.2.5.6は、必須項目である。

コミュニケーション力の必須項目について

  1. 会社の経営ビジョン - 経営者の価値観の表明である。何の為に経営をするか。自社の目指すべきものがはっきりしているか。単なる言葉の羅列ではなく、魂を込めたものとして経営ビジョンを明らかにしているか。A社の経営者は車両一台から身を起こし、そこそこの規模にまで会社を成長発展させてきた。ところが悩みに直面している。「人が育たない。」のである。そこでA社の経営者は「どうしたらいいか。」と、日夜頭を悩ましていた。ある時松下幸之助氏の伝記を読んで、はっとひらめいたという。松下幸之助氏は創業時代のガムシャラを乗り越えてこれからという時、経営ビジョンの大切さを悟る。「これだ!私に無いものは経営ビジョンだ!」

  2. 経営ビジョンを周知徹底する - A社の経営者は年1回、経営方針発表会を行っている。全社員を集めるのにいろいろ労力を費している。何しろ日々が忙しい。会社は1年365日稼動している。そこで2回に分けて経営方針発表会を行っている。形式的にスローガンを発表するのではなく、中味を持って直接語り掛けることとしている。目に見えないものを信じる力こそ、企業と人を成長させると固く確信しているからである。「経営ビジョンでは、メシを食えないよ。」とうそぶく社員もいる。決してそうではないことを直接語りかけることで実践している。

  3. 職場の決定事項を社員に知らせる仕組み - A社では朝礼と点呼を活用している。朝礼は毎日行っている。毎日5~10分手順に従って進行している。乗務員は朝礼に出れないので、点呼を完全実施している。そのために点呼者は交代制をとって1日24時間体制である。「点呼を1日24時間対応にすることによって、事故は大幅に減少しましたよ。」(A社長の言)

  4. 職場ミーティング - A社は班長制度を確立している。班長とは乗務員6~7名のリーダーのことである。班長会議は月1回行っている。表2( 参照:PDFファイル46KB )の班長会議月報に基づいて実施している。班長会議月報のフォームについて説明する。
    経営実績は公開している。班全体の営業利益がわかるようにしている。あらかじめ経理部門で作成した班別収支表に基づいて班長自らが記入している。1台あたりの運送収入は班員それぞれが目標を持っている。目標と実績との差について当月分析コメント欄に班長が記入している。燃費効率についても実績チェックしている。修繕費率、人件費率についても同様にチェックしている。「ドライバーに、どうしてそこまで経営実績を教えるのか。」それに対してA社長曰く、「“アルバイトでも1人1人に経営を考えさせるお店は成功する。”こうした新聞での広告を見て、そうだ!ドライバー1人1人に経営を考えさせる運送会社は成功する。」と確信したという。現実にA社では乗務員のなかから班長がうまれ、班長の中から管理職が出ている。現場からのタタキ上げの管理職であるのが、A社の強みとなっている。更に班長会議月報は、次のようになっている。

    1. 安全活動
    2. 5S活動
    3. 無事故活動
    4. 班内勤怠
    5. 報告、連絡、相談
    6. 人材育成
    7. 業務改善
    8. 職場内ミーティング

    と項目を設定している。表2( 参照:PDFファイル46KB )の通り、それぞれの項目にチェックリストがある。班長は班長会議月報を持って、班長会議に望むこととなる。こうしたプロセスでA社はコミュニケーション力=目に見えない力を充実することに取組んでいる。とりわけ2)安全活動と3)5S活動は特にチェックを重視している。班長は自らもハンドルを握っている。そうであるだけに班長会議月報の作成は重荷ですらある。投げ出したくなる班長も出てくる。ここで踏み止まる。重荷に耐えることで鍛えられてくる。逃げずに踏み止まることで班長は成長する。A社長の信念は現場の中からリーダーを創ることが、経営活性化のキーポイントということにある。現場が暗く、やる気がなく言われたことしかしない。(時には言われたことすらできない。)これでは、人材は育たない。現場の中にこそ宝がある。この宝を磨いていくことである。この宝が班長制度の確立ということである。

乗務員を取り巻く現場環境は厳しいものがある。長時間の勤務(深夜、早朝の勤務)かつ荷主の物流品質向上への圧力、その上社会的規制の強化である。こうした状況を乗り切るにはどうするか。A社の取組みは直接の設備投資ではない。謂わば目に見えないものへの取組みといえよう。この取組みこそこうした状況を乗り切ることになる。A社の班長曰く、「班長になって最初は大変でイヤだと思いましたが、自分だけのことではなく、班員のことや周りのことにもも心を配るようになって、世界というか心が広がりましたよ。」

以上