「人を活かす、経営に活かす」第17回
― ドライバー人材育成取組み事例5 ―

乗務員気質の特長は何か。チームプレーよりも個人プレーである。集団で和をもって仕事進めるというよりも、個人主義という特長がある。それに加えてコミュニケーションの取り方が不充分である。いわゆる口下手、無愛想タイプが多い。「人前でネクタイ締めて、ぺらぺらしゃべったりすることが苦にならなければ、ドライバーの仕事はやっていませんよ。」ある乗務員の言である。物流サービス業といわれてもピンとこない。「オレ達は荷物を運んでやっている。」と思い込んでいるタイプも見受けれられる。サービス業の本質は、相手の立場になって尽くすことである。それがドライバー気質と合わない。ドライバーの口癖は、“取りあえず”である。先行きの展望はない。“取り合えず”その場をしのいでいく。その上「オレは頭が悪いから、そんな難しいこと言われてもなぁ。」とうそぶく者もいる。乗務員研修でのことである。研修テーマは「5Sの徹底」である。決して難しいことではないが、ドライバーの中には研修を拒否する者がいる。一方、働く環境はますます厳しくなっている。労働時間も長い。早朝、深夜の仕事も増えている。社長や配車担当者と顔を合わせるチャンスもめったにない。個人で黙々と働くのみである。しかも賃金はアップしない。「先行きのユメをどうして持てるんですか。オレはしがないドライバーでもするしかないよ。」モチベーションも下がっている。デモシカドライバーである。生活もわびしい。独身でいつもコンビニのおにぎりで済ます。家族の団欒とは縁遠い。このような乗務員気質と立ち向かっていくにはどうするか。

5Sチェック表の活用事例

A社では、職場5Sチェック表(【図表1】参照:PDFファイル46KB)と個人5Sチェック表(【図表2】参照:PDFファイル94KB)を乗務員研修に活用している。5Sチェック員を小集団(グループ)ごとに1名選出している。職場5Sチェック表に基づいて、月1回職場巡回している。1年間を通じて極めて優秀(S)と評価した場合、“5S模範職場”として表彰している。表彰内容は、表彰状とメンバー全員に金一封(1万円)を渡している。

A社の5S職場巡回は、徹底している。隅から隅までチェックする。ゴミひとつ、チリ ひとつも見逃されないほどである。“5S模範職場”はビデオに撮って、全職場に回覧している。荷主にも見てもらっている。噂を呼んで、同業他社からの見学者も来るほどである。働く一人一人がプライドを持つようになる。悪貨が良貨を駆逐するという言葉がある。悪いものが良いものを押しのけていくことである。“5S模範職場”はその反対である。良貨が悪貨を駆逐する。別の角度からいえば、ベンチマークのことである。ベンチマークに学べということで、他の職場を活性化させていく。 個人5Sチェック表(【図表2】参照:PDFファイル94KB)は、乗務員それぞれが活用している。毎日自主チェック する。自己申告である。5段階評価する。その上で小集団グループのリーダーがそれぞれの項目についてチェックする。本人とリーダーのチェックにギャップが生じる。リーダーとドライバーとの間で個人面談をする。個人5Sチェック表は、6ヶ月で集計して5段階評価する。Sと評価した者には個人表彰する。表彰内容は、“5S模範人”と刻印したバッチの授与と金一封である。額は一人6万円である。従来の無事故手当を廃止して、6か月分まとめて源資としている。当初はドライバーからも異論が出た。「バッチを貰ってもなぁ。かえってプレッシャーになるよ。」とか「無事故手当がなくなって困るなぁ。」など続出した。A社長は必死になって説得する。「『5S模範人』はどこの職場に行っても通じるよ。」実際荷主に引き抜かれた“5S模範人”もいる。A社とその引き抜いた荷主との結びつきは、かえって深まったほどである。「無事故手当は結果の評価である。それに対して個人5Sチェック表による評価はプロセス、取組み姿勢も含んでの評価である。ここのところをよく理解してよ。」とA社長は個人面談をして、納得させていった。

A社の5Sチェック表の活用ポイントは、コミュニケーションにある。5S職場巡回員 による職場ミーティングは、月1回を定例化している。個人5Sチェック表はリーダーと乗務員が個人面談している。月末で締めて、5日以内に個人面談を行なうようにしている。更に問題のあるドライバーは、社長が直接個人面談をしている。

乗務員研修のやり方は様々である。集合研修もある。テーマについても運転技術力の向上など様々である。エコドライブ研修もある。

乗務員研修の基本は5Sの徹底にある。日々の仕事を通じてコミュニケーションの円滑さをベースとして行なっていく。

A社の5Sチェック表の活用による乗務員研修の実践は、確実に成果が上がっている。 荷主からの高い評価も得ている。何よりも乗務員気質に立ち向かっている、A社長の勇気が光っている。デモシカドライバーから5Sドライバーへの変革である。当たり前のことの積み重ねであるが、いざ実践するとなると勇気がいる。“よしやるぞ”との発揮がものをいうわけである。

以上