「人を活かす、経営に活かす」第14回
― ドライバー人材育成取組み事例2 ―

ドライバー人材育成取組事例として、今回は個人面談を取り上げる。個人面談は説教の場ではなく上司とドライバーとの1対1の面談プロセスでドライバーに気付きを促していくものである。気付きによってドライバーの内発性を高めていく。個人面談の前提には、ドライバーとの信頼関係を築くということがある。押さえつけや強権は無用である。その為にはドライバーのいいところ=美点を見出していく。「ダメなやつ」と見下していては、ドライバーとの信頼関係は築けない。面談プロセスでの留意点は次の通りである。

(1)ドライバーの意見を頭ごなしに否定・拒絶しない。

-ドライバーが何か意見を出したとする。「そうじゃないだろう。」とか「君の意見など聞くだけ無駄だ。」と拒絶しない。「そういう考え方もあるね。なるほどね。」と承認していく態度で接する。

(2)いいところを褒める。

-具体的事実・行動を取り上げていく。いいことを褒めるには、常日頃からドライバーへの興味と関心を持つことである。観察力が求められる。結果のみに焦点をあてるのではなく、何故こうなっているか原因を探り出す。結果には必ず原因があるからだ。褒めるにはタイミングも必要である。具体的事実・行動を取り上げて正確に褒めることである。

(3)質問によって考え気付かせる。

-上司はドライバーから多くの答えを引き出す質問をする。悪い質問「スピードの出し過ぎは燃料代がかかるとわかっていますか。」 良い質問「スピードの出し過ぎによって、どういうことが起こりますか。」前者の悪い質問では、「はい、すみません。」と謝るぐらいしかドライバーにはできない。良い質問では、より多くの答えをドライバーから引き出すことが可能となる。悪い質問「どうしてそれをやらなかったんだ!」 良い質問「それをやるには、どうすればいいですか?」悪い質問例では質問というより注意して叱っている。ドライバーの答えを期待していない。質問力は大切である。考えたことを行動させる質問をする。

「どの点から取りかかると燃料効率がアップしますか?」「いつから始めますか。」「いつまでに完了しますか。」「何%ぐらい達成出来そうですか。」「何かサポート出来ることありますか。」

(4)ドライバーの話をしっかりと聴く。

-「賢者は聞き、愚者は語る。」「話し上手は聞き上手」いづれも傾聴の大切を表現している。傾聴のポイントは次の通りである。

  1. 最後まで否定せずに話しを聞く
  2. 同じ言葉を繰り返す
  3. 聴く態度-身を乗り出して聴く。決して難しそうな顔をして腕組や足組みをして聴かない。相手の表情に合わせることもポイントのひとつ。相手の方を見て適切なタイミングで頷く。頷くことばかりやり過ぎるとかえってよくない。あくまで適切・適量な頷きが大切である。ドライバーの名前を呼ぶことである。声の調子にも配慮する。相手のトーンに合わせること。

こうした個人面談の留意点をしっかりと頭に叩き込むことである。

表1(PDFファイル:27KB)は個人面談の悪い事例である。営業所長とドライバーの個人面談の事例である。まずこれからしっかりと個人面談をするという了解が両者にはない。個人面談の目的そのものを理解していない。燃費効率を向上して、デジタコランクをあげるというのが、個人面談の目的である。ドライバー本人に考えさせようとしていない。気付きを促していない。営業所長の質問のやり方は質問になっていない。叱っている。これではドライバー本人の心に届いて「そうか。こうしたらもっとデジタコランクが上がるな。」と気付かせることにはならない。

表2(PDFファイル:29KB)は個人面談がうまくいっている事例である。ドライバーと配車係の個人面談である。仕事をしながらではなく、面談時間をしっかり取っている。聞く姿勢、個人面談をするぞとの姿勢がある。ドライバーにとっては「自分の話を大事にしてくれている。」と感じる。ドライバー本人のアイデアは否定していない。まず承認から入っていっている。その上で質問力を発揮している。褒めるところは褒めている。ドライバー本人の考えをじっくりと聞く姿勢を取っている。「もう少し内容を煮詰めてみようか。簡単なものでいいから企画書が作れないか。」とドライバーの内発力に働きかけている。更に「いつまでにできるだろうか。」と具体的行動を促している。

個人面談は悪い事例と良い事例を比較するとコミュニケーションスキルであることがよくわかる。コミュニケーションスキルとしてコーチングがある。コーチングは相手の自発的な行動を促進させるコミュニケーションスキルである。個人面談技術はコーチング手法を取り入れていくことが大事である。職場風土として上司が心を聞いて傾聴する姿勢を堅持することが活性化に繋がる。「心の余裕がない。時間がない。」と嘆く前に、1日10分(あるいは5分でも)ドライバーの言に耳を傾けよう。心を傾けよう。このことがドライバー育成に役立つことは間違いないことである。

以上