「人を活かす、経営に活かす」第13回

“千里の道も一歩から”ということもある。ドライバー育成にどう取組むか。A社ではドライバー育成への取組みを生活面の改善と5Sチェックから第一歩を踏み出すこととする。

(1)ドライバーの生活面の改善

A社では独身者が多い。約60%が独身ドライバーである。そのせいか食事が不規則である。来る日も来る日もコンビニ専門でおにぎりや弁当で済ましている。勤務中は時間に追われているので車内で済ましている。『食事なんかゆっくり食べたことがないよ。飯抜きで働く日も珍しくないよ。おにぎりを口にくわえてハンドルを握ることもしばしばですよ。』その上、たまの休日の過ごし方はどうか。パチンコにはまってしまうものもいる。健全な休日の過ごし方とはいい難い。日頃は睡眠時間1日5~6時間、ときには寝ずに走ることもある。仕事と次の仕事の間の時間が8時間ないことも珍しくない。ハードな状況である。現実はその日暮らしの連続で貯金ゼロのものが50%(2人に1人)いる。もし病気になったらどうするか。5年後、10年後はどうしているのか。『病気になったりすることなんか考えていませんよ。先のことも考えられませんよ。その日、その日生きていけばいいんですよ。』あるドライバーの言である。そこでA社では人生の姿勢を前向きにするために、生活日記( 表1参照:PDFファイル15KB )をつけることとした。健康面のチェックもある。来る日も来る日もコンビニでおにぎりや弁当の連続で体にいいわけがない。アルコールも飲みすぎは禁物である。特に仕事と次の仕事の間が8時間もないような日に、アルコールを一杯飲んだりして、ちょっと気を緩めると酒気帯び運転となる。『ハンドルを握り締めているので、いざ寝ようとしても緊張してなかなか寝付かれないよ。アルコールでも口にしないと車内で寝れるものではないですよ。』と嘯(うそぶ)くドライバーもいる。そこで日々生活日記をつけることで生活の質をチェックすることとする。指導者(チェック者)は配車係とする。運転日報を提出する時にいっしょに生活日記も提出する。1ヶ月終了すると、社長がコメントするようにしている。3度ずつ食事を摂るという基本がいかにおろそかにされているか、社長は直面する。睡眠時間も8時間は望むべくもない。ハード、ハードの連続である。少しずつ少しずつ生活改善に取組むことがドライバー育成の第一歩である。

(2)5S活動チェックシートの活用

5S活動とは整理、整頓、清潔、清掃、しつけのことである。しつけの基本は挨拶である。呼ばれたら『はい』と返事をする。スマイルを大切にする。ドライバーの中には暗い顔をしているものもいる。挨拶もロクにできないものもいる。そこでチェック担当者(配車係)が率先して挨拶し、一人一人と握手をすることとしている。その際、服装、髪の毛とかの身だしなみもチェックする。清掃については車内、車外をピカピカにすることが基本である。愛車主義と名付けている。休憩室についても清掃当番を決めて行うこととする。お菓子を食べちらかしたりしない。事務所のトイレ掃除も順番に行っている。当初は反発するものもいた。『どうしてオレ達にトイレの掃除をやらせるのか。』しかし、社長自ら率先することで反発を封じ込めてきた。社長曰く『トイレを掃除することは心を磨くことだよ。』

整理については、工具類の整理として置き場を決めて行うこととした。いるものといらないものを明確にして探す時間の無駄を省くこととする。

整頓についてもタイヤの保管場所を管理することとしている。

以上のチェックポイントを折り込んで5S活動チェックシート( 表2参照:PDFファイル24KB )を活用している。チェック担当者が1ヶ月に1回のチェック日を決めて実施している。コメントを記入してドライバー本人と個人面談している。従来は集合研修のみで人材育成に取組んできた。しかし、なかなか効果が上がらない。ドライバーの出席率も100%とはいかない。必ず仕事の都合とかで欠席者も全体で30%はいる。ドライバーに肉迫するには、1対1の個人面談が有効である。集合研修と個人面談を組合わせることとしている。個人面談をするスペースをつくって行っている。事務所から丸見えのところではなく、個室をつくって行っている。話やすい雰囲気作りに努めている。

ドライバー人材育成の取組みには、奇手はない。“千里の道も一歩から”の精神で粘り強さと継続する力がいる。凡事徹底である。当たり前のことを当たり前に貫き通すことである。当たり前のこととして、5Sの徹底がある。A社では生活日記と5S活動チェックシートの活用によって単にハンドルを握って走る専門のドライバーではなく、5Sドライバーの集団づくりを目指している。5Sドライバーは荷主に顔を向けているドライバーである。

『ドライバー一人一人は自ら伸びようとする力があるよ。私の仕事はそれを引き出すことにあるよ。』A社社長の言である。

以上