「人を活かす、経営に活かす」第03回
― サブタイトル ―

「千里の道も一歩ずつ歩みて至る。山も作るも一トすのこ簀の土よりなる事を明らかに、わきま弁えてれい励せい精小なる事を勤めば大なる事必ずなるべし」(二宮尊徳「夜話」より)二宮尊徳の言である。よく勤めるということは小事をおろそかにしないことである。荒廃した村々を立て直す為に小事を大事にした。小事とは日掛・縄ないの奨励である。物流業の人材育成にとって日掛・縄ないとはどのようなことか。小事を積んで大をなす道はどのような道か。それは物流品質向上の取組みである。

(1)職務等級基準書(乗務員職用)の作成・活用

図表1:PDFファイル46KB)の通り職務等級基準書を作成して物流品質向上に取組んでいる。乗務員を1~3等級にランク分けする。1等級は新人を想定している。1等級に求められるものは規律=しつけである。百ぺん主義である。百ぺん主義とは繰り返し繰り返し体に染みこむまでに、規律=しつけを徹底することである。入社にあたって大きな声で挨拶する訓練を行っている。この段階でイヤ気がさす新人乗務員もいる。「びっくりするよ。オレは挨拶するのが一番イヤだ。何でハンドル握るのに挨拶しなければならないのか。」と言って去っていくものもいる。2等級がいわば普通の乗務員である。運転業務の処理についての基本を提示している。運転日報の記入、業務処理能力、安全への取組みなどである。習得すべき能力は記述能力、注意力、勤勉性、専門知識、責任感、正確性などである。2等級の基準を満たしているかどうか、判定している。判定方法は日々チェックして1ヶ月で集計し、6ヶ月単位で2等級に適しているか判定会議を開いて決定する。判定会議のメンバーは社長、担当役員、配車課長で構成している。1ヶ月ごとの集計表を基にして行う。判定結果については該当乗務員の弁明の機会がある。不適となれば1等級に格下げされるからである。「どうして格下げですか。」と食ってかかるものもいる。そこで判定会議のメンバーは集計結果、データに基づいてキチンと説明し納得させていく。重大クレーム、重大交通事故を起こしたものはいうまでもなく格下げされる。それに反して格上げされるものが3等級となる。模範乗務員=3等級である。2等級レベルより一段と高い業務処理能力、コスト管理、安全管理の実績が求められる。何故判定を6ヶ月としているのか。1年でもいいではないかとの声もあった。ところが社長云く。「一年では長い。日々が勝負だ。スピードが求められている。良いか悪いかの判定は6ヶ月にしよう。6ヶ月ごとにケジメをつけよう。」1等級から2等級に格上げされるのは、通常入社して6ヶ月もあれば十分であるとの考えがある。6ヶ月しても2等級になれないものは、プロの乗務員の資質がない。こうした厳しい考えで職務等級基準書は貫かれている。

(2)物流品質月報の作成・活用

判定会義において乗務員をランク付けするからには部門長の責任も重い。そこで物流品質月報(図表2:PDFファイル30KB)を作成し活用している。作成者は部門長である。物流品質向上の取組み項目として安全活動、5S活動、無事故活動、報告・連絡・相談、人材育成がある。それぞれの項目についてチェックリスト内容がある。チェックリスト内容に基づいて当月分析し、次月の重点課題を明らかにする。物流品質月報に基づいて部門長も又6ヶ月単位で評価される。不適となれば降格する。評価方法は役員会にて行う。本人の弁明機会はある。不適の烙印を押されて乗務員に逆戻りした部門長もいる。どうしてこのような厳しいことがあるのか。社長云く「やり直しのチャンスを与えている。敗者復活である。」

物流品質向上への取組みキーワードはメリハリである。やってもやらなくても差がつかない。このようなことではメリハリがない。今回の事例は職務等級基準書と物流品質月報を作成して活用することでメリハリをつけている。ランクが上がる、あるいは下がることで職場に緊張感が漲ってくる。しかもランクが何故上がったのか、下がったのかの基準が明確である。物流品質向上の目的で貫かれている。言うまでもなく年功序列ではない。勤続年数が長いからといって、ただそれだけでランクが上がることはない。あくまで実績である。しかも判定期間は6ヶ月、スピード経営の事例である。それは人材育成への熱い想いがあるからである。人の能力はやる気になればその人、その人の持ち味に応じて伸びてくる。伸びる可能性は計り知れない。今回の事例はやる気を上げていく方法として評価システム(職務等級基準書、物流品質月報)の確立を取り上げている。「今回ランクが2等級から1等級に下がってナニクソ、これではダメだ。次の6ヶ月こそ復活してみせると固く誓いましたよ。」(ある乗務員の言)評価するということは褒めて育てる(昇格)、叱って育てる(降格)の実践である。人材育成の取組みによる成果は物流品質の向上となって花開く。

以上