「人を活かす、経営に活かす」第02回

日々行動チェックリスト表

物流サービスは在庫が出来ない。形がない。一瞬一瞬の積み重ねである。日々の積み重ねである。物流品質向上は日々の取組みで成果が出てくる。ジワジワと前進していく。A物流企業はドライバーの物流品質向上への取組みとして日々行動チェックリスト表( 図表1:PDFファイル 74KB )を作成して活用している。

(1)背景
どうしても事故が減らない。前年と比して件数は20%アップしている。その上、ついに重大事故(死亡事故)が発生した。40代の働き盛りのドライバーが早朝の農道で70才の老人を跳ね飛ばした。事故原因は前方不注意、一瞬の居眠りである。彼はすぐさま警察署に留置される。A社長は運行管理者と一緒に被害者宅に駆けつける。お詫びである。A社長は土下座してお詫びする。「つらい、苦しい。」どうしてこんなことになったのか。どうすればいいのか。
(2)A社長の決意
「何としても事故をなくしたい。」A社長の固い決意である。被害者宅でのつらさ、苦しさを二度と味わいたくない。事故は結果である。結果についてはどうすることもできない。事故を起こしたドライバーを叱り飛ばし責め立ててもそれで結果は覆らない。日々の積み重ね、一瞬一瞬の大切さを染み込ませていくことだ。そこで配車担当者、ベテランドライバーと個人面談して対策を相談することとする。その結果、日々の行動をドライバー本人にチェックさせる。その上で、ドライバー本人と上司(配車担当者、ときには社長)が月1回面談し、次月につなげていく。強制力でドライバーに「事故するな!」とプレッシャーをかけるだけでいいのだろうか。やはりドライバー本人がやる気になって自己の事故防止力を引きずり出していくこと、言い換えれば気づきを深めていくことだ。そこで日々行動チェックリスト表( 図表1:PDFファイル 74KB )を作成し活用することとする。
(3)日々行動チェックリスト表の活用
気づきを深めるには事故ゼロへ向けての目標を明確にする。( 1 )安全 ( 2 )物流品質 ( 3 )小集団活動を目標分野とする。目標分野から目標項目を設定する。目標項目に対して目標達成の為に何をするか具体的行動目標を決める。例えば、( 1 )安全(目標分野)の目標項目-交通事故を起こさない。具体的行動目標-回り込み乗車、後退時の下車確認の実施、スピード社速厳守、車間距離を取る、ながら運転をしない。配送時の狭い道では屋根・看板・テントに注意。具体的行動目標に対して選択番号がある。ドライバー本人が10の目標を選択する。ドライバー本人が毎日○でできている。×でできていないとチェックする。自己申告である。毎日の結果に対するひと言コメントを記入する。10の目標で毎日○が1ヶ月続いて10点(満点は10点×10=100点)。×が1回でもあるとマイナス10点となる。日々行動チェック表をドライバーがつけ終わると配車担当者が声をかけることとしている。「今日はよく頑張ったね。○○荷主さんからお褒めの言葉を頂いたよ。」(配車担当者の言)
(4)日々行動チェック表の月次報告書の活用
1ヶ月の区切りがつくと、3日以内に月次報告書( 図表2:PDFファイル 66KB )を作成する。今月に対するドライバー本人のコメントを記入させて上司と個人面談していく様式である。事故報告と燃費効率実績はドライバー本人が報告する。会社の方で燃費データを指し示すよりドライバー本人が計算して把握することに意義がある。目標燃費効率と実績燃費効率との差について本人自ら見つめ考えていく。そうすることで地に足のついた対策が出てくる。燃費を良くしていく行動は事故ゼロに繋がっていくからだ。スピードは出し過ぎない。急のつく乱暴な運転(急発進、急ブレーキ、急加速)はしない。車は大事に扱う。燃費向上へと繋がっていくからだ。上司(所属長)ドライバー本人と個人面談する。月次報告書( 図表2:PDFファイル 66KB )の所属長コメント欄である。個人指導では体調、生活面まで配慮していく。
(5)日々行動チェック表の効果
とりあえずハンドルを握る、とりあえず1日をやり過ごす・・・といったとりあえず感覚を打破していく。仕事をする上での具体的行動目標を持つことで、メリハリが出てくる。言い換えれば向上心、前へ向って進もうとする姿勢が育まれる。“ローマの道は1日にしてならず”のことわざがよく分かる。1日1日の大切さが身にしみてくる。その上職場の風通しが良くなる。上司とドライバーとの個人面談の効果である。日々行動チェック表はドライバー本人がチェックする。このことで自発性を生み出していく。やらされている感覚からの転換である。禅の言葉に『担雪埋井(たんせつまいせい)』という言葉がある。雪を担いで井戸を埋めていく努力、決してあきらめない努力、続けていく努力のことである。日々行動チェック表の実践は『担雪埋井(たんせつまいせい)』の精神が支えとなる。

以上