「人を活かす、経営に活かす」第55回
職場風土の改革-個人面談シートと物流品質評価表の活用

A物流会社は物流品質レベルの低下に直面している。商品事故(破損)や配送トラブル(欠品、延着)の発生件数が対前年比20%も増加している。カラスの鳴かない日があっても、クレーム・トラブルに振り回される日がないほどである。「どうしたものか」A社長は頭を抱えている。

【1】A社の職場風土の現状

ドライバーの中に働く姿勢やモラルが低い者がいる。寝坊をしたりする者もいる。商品を積込みの時に足で蹴飛ばす者もいる。その日になって急に欠勤する者がいる。しかも欠勤の連絡はメールである。配車担当者はあたふたする。5Sについては徹底していない。制服をキチンと着用できない者もいる。挨拶すらまともにできない者もいる。車をキレイにせっせと洗車できない者もいる。運転日報も必要事項について記載洩れがある。「どうしたらドライバーの物流品質のレベルが上がるか」A社長の頭痛の種である。別の角度からいえば、配車担当者とドライバーとの交流がない。日々のキメ細やかな指示や業務指導がドライバーまで行き届いていない。燃費効率を如何にしてアップするか。車をもっと大切に扱うにはどうするか。―配車担当者とドライバーの交流=コミュニケーションがない。

【2】A社の職場風土の改革―個人面談シートの活用

月1回各30分程度、ドライバーと配車担当者が個人面談する仕組みを定着させることとする。個人面談シートの活用(表1参照:PDF10KB)である。1対1で向き合って交流することは、信頼関係を作っていく上で有効である。「話すことなんか何もないよ」とうそぶくドライバーもいる。そこで個人面談にあたってはデータ、資料を準備してのぞむ。ドライバー個人の売上実績やコスト実績(燃料費、修繕費等)のことである。配車担当者の一方的な押し付けにならないようにする。傾聴の姿勢、聞く耳を配車担当者は発揮する。的確な質問をぶつける事でドライバーが話しやすくしていく。配車担当者は聞き役に回ることである。個人面談シートの事例では(1)売上アップの為に配車状況で改善、改革するところはどこか(2)荷主の動向、営業状況はどうか(3)競合企業の動向はどうか(4)燃料費削減の為に取組むことについては何か(5)車の修繕費削減の為についてはどうかとヒアリングしている。質問することでドライバーに考えていく力を育てていく。「何にも考えずにただハンドルだけ握っている」ドライバーであってほしくない。考働するドライバーであってほしい願いから、ヒアリングを積み重ねていく。一方的に頭ごなしに叱りつけるばかりでは、ドライバーの反発を招くこともあるからである。現場の第一線で働くドライバーは生きた情報を掴んでいる。個人面談によって生きた情報を引っ張り出していく。「話しを聞いてくれた」というだけでスッキリするドライバーもいる。交流=コミュニケーションの積み重ねは、心の通い合いを充実させていく。そのことが信頼関係を強めていくことになる。

【3】A社の職場風土の改革―物流品質評価表の活用

個人面談シートの活用によって物流品質レベルを上げていく。その上で物流品質評価表(表2参照:PDF9KB)を活用していく。配車協力姿勢や5S、会社協力姿勢、事故・クレーム、コスト(燃費・修繕)について評価していく。本人がまず評価する。続いて現場リーダー、配車担当者、統括責任者が評価していく。評価理由を記入して社長に提出し、社長が最終評価する。本人とのギャップについては、フィードバックしていく。フィードバックの場として個人面談を活用していく。100点満点である。下位者については、社長自らが個人面談することとしている。物流品質評価表の査定期間は1ヶ月単位である。6ヶ月を累計して、上位者は公表し社長賞として表彰していく。主観的な評価にならないように、できるだけ客観的に具体的数値に基づいて行うようにする。配車協力姿勢については、配車指示に従っているか(配車日誌で確認する)、当日欠勤の有無はどうか等キッチリとチェックしていく。5Sについてはトイレ清掃の回収や5Sチェックシートの点数によって評価する。会社協力姿勢は安全会議やバーベキュー大会(BQ大会)の出席有無によって判定している。事故・クレームは件数と内容について評価している。コストは対前年値、対目標値との比較によって行っている。物流品質評価表を職場風土に根付かせていくことである。単に形式的なものであってはならない。そこで風通しを良くしていく上で、個人面談シートを活用する。しっかり頑張っているかどうか、努力しているかどうか。―物流品質評価表を活用していく。

職場風土の改革は、社長の号令だけで成し遂げられるものではない。現場の力を引きずり出していくことである。やる気を高めていくには、職場風土が明るく、生き生きとしていなくてはならない。現状変えていこうとするエネルギーを発揮していくことである。個人面談と物流品質評価表は、職場を変えていくエネルギーの源泉であり、物流品質向上のキメ手である。

以上