「人を活かす、経営に活かす」第52回
~ ドライバー人材育成計画表による人材育成事例 ~

「これだけ荷物の量が減ってくると、どうして生き延びていくことができるだろうか」。

ある運送会社の経営者の嘆きである。

経営ピンチに陥ればそれだけ足元、基本が確かであるかどうか問われてくる。言い換えれば、現場の最前線を担っているドライバーの物流品質力のレベル、人材力である。

「余裕がない」、「どうして教育していいかわからない」、が中小運送会社の現状である。果たしてこのままでいいのか。1人のドライバーが引き起こすクレームやトラブルによって、たちまち荷主から取引縮小、ひどい時には中止にすら追い込まれてしまう。ドライバーの人材育成に取組む余裕がないといって済まされることではない。トップが決意して、基本からドライバーの人材育成を継続的にやり抜かねばならない。不況が深化すればするほど原点に立脚=ドライバーの人材育成することである。

(1)A社のドライバー人材育成事例

A社は現場でのマンツーマンの人材育成を展開している。指導者は60歳で、定年を迎えたドライバーの中から社長が任命している。指導者の中には70歳になっても任を全うしている者もいる。「宿老みたいなものですよ」。トップの言である。宿老とは仕事の主みたいな人で、元々は大手鉄鉱会社で100歳近くまで仕事をした人に付けられた名前である。「我社でも超ベテラン指導係に任命し、《宿老》として頑張ってもらっています」(社長の言)。

ドライバー人材育成計画表(表1参照:PDF29KB)に基づいてマンツーマン教育している。項目は8項目ある。

  1. コース教育―時間は正確であるかどうか。コースの特長を熟知しているか。エコドライブ運転をしているかどうか等チェックしていく。
  2. 顧客マナー教育―挨拶はキチンとしているか。制服は清潔であるか等マナーチェックリスト表に基づいて行っている。
  3. 適正検査―定期的に適正検査を受けさせている。6ヶ月に1回実施している。1回目より改善しているかどうかみていく。
  4. 車両整備・点検教育―タイヤの空気圧のチェックやオイル交換を点検マニュアル通りに行っているか等、確認していく。さらに洗車も決められた手順で行っているか等。指導係は手取り足取り体に染み込ませている。
  5. 添乗教育(第1回)―A社では(1)~(4)と(6)の現場教育を行って添乗教育(第1回)のテストを行っている。その結果(7)の配車担当者個人面談を行って重点指導項目を明確化している。重点指導項目表(表2参照:PDF16KB)を活用している。通常は入社してから6ヶ月以内に第1回の添乗テストを行う。第2回の添乗教育は第1回が終了して6ヶ月後に行うこととしている。第2回で指導係が合格と判定すれば問題ないが、不合格となると一からドライバー人材育成計画表をやり直すこととしている。時には不合格と判定して会社を去ってもらうこともある。
  6. 机上教育―安全運転教育と積込み・荷卸し作業について行っている。机上教育の担当は《宿老》ではなく、配車担当者が行っている。(1)~(4)の現場教育と平行して行っている。
  7. 配車担当者個人面談―個人面談シートに基づいて行っている。重点指導項目を明確化していく。
  8. 添乗教育(第2回)―プロドライバーとしてやっていけるかどうかのテストである。

A社のドライバー育成は、1ヶ年(通常)かけてプロドライバー育成にチャレンジし実行している。配車担当者の個人面談から第2回の添乗教育までの期間は6ヶ月(通常)である。重点指導項目表(表2参照)を活用している。事例を紹介する。

A社ドライバーは燃費が悪い。そこで燃費改善を重点テーマとする。省エネ運転のポイントが[A]重点指導項目である。アイドリングストップを指導する。運転日報からアイドリングストップ時間を集計してデータをとる。その上で「アイドリングストップ宣言」をする。運転席の見やすい所に貼り出している。様々な指導内容については[B]指導記録をつける。「作業中にエンジンをかけっぱなしにしていないか」。等、指導している。月1回は指導係が覆面パトロールを実施している。

[C]観察事象記録―覆面パトロールを実施した際の観察記録である。
[D]環境条件―天候の状態、ドライバーの体調、健康面についても記入している。
[E]適正―第2回の添乗テストに合格するレベルかどうか判定している。
[F]指導係のコメント―重点指導を行っての指導係のコメント欄である。

運送業は労働集約産業である。「人」が中心であり核心である。運送業の経営は人材育成が生残り成長していく上でのキーワードである。取組むにあたっては行き当たりばったりではよくない。人材育成計画を立てる。指導係とのマンツーマンによって現場の実態にふまえて展開する。具体的なポイントは添乗教育の実施である。第2回の添乗教育に合格させることである。

ドライバーを宝にすることである。人罪にしてはならない。人財=宝にすることが経営者の使命である。

以上