「これだけ荷物の量が減ってくると、どうして生き延びていくことができるだろうか」。
ある運送会社の経営者の嘆きである。
経営ピンチに陥ればそれだけ足元、基本が確かであるかどうか問われてくる。言い換えれば、現場の最前線を担っているドライバーの物流品質力のレベル、人材力である。
「余裕がない」、「どうして教育していいかわからない」、が中小運送会社の現状である。果たしてこのままでいいのか。1人のドライバーが引き起こすクレームやトラブルによって、たちまち荷主から取引縮小、ひどい時には中止にすら追い込まれてしまう。ドライバーの人材育成に取組む余裕がないといって済まされることではない。トップが決意して、基本からドライバーの人材育成を継続的にやり抜かねばならない。不況が深化すればするほど原点に立脚=ドライバーの人材育成することである。
A社は現場でのマンツーマンの人材育成を展開している。指導者は60歳で、定年を迎えたドライバーの中から社長が任命している。指導者の中には70歳になっても任を全うしている者もいる。「宿老みたいなものですよ」。トップの言である。宿老とは仕事の主みたいな人で、元々は大手鉄鉱会社で100歳近くまで仕事をした人に付けられた名前である。「我社でも超ベテラン指導係に任命し、《宿老》として頑張ってもらっています」(社長の言)。
ドライバー人材育成計画表(表1参照:PDF29KB)に基づいてマンツーマン教育している。項目は8項目ある。
A社のドライバー育成は、1ヶ年(通常)かけてプロドライバー育成にチャレンジし実行している。配車担当者の個人面談から第2回の添乗教育までの期間は6ヶ月(通常)である。重点指導項目表(表2参照)を活用している。事例を紹介する。
A社ドライバーは燃費が悪い。そこで燃費改善を重点テーマとする。省エネ運転のポイントが[A]重点指導項目である。アイドリングストップを指導する。運転日報からアイドリングストップ時間を集計してデータをとる。その上で「アイドリングストップ宣言」をする。運転席の見やすい所に貼り出している。様々な指導内容については[B]指導記録をつける。「作業中にエンジンをかけっぱなしにしていないか」。等、指導している。月1回は指導係が覆面パトロールを実施している。
[C]観察事象記録―覆面パトロールを実施した際の観察記録である。
[D]環境条件―天候の状態、ドライバーの体調、健康面についても記入している。
[E]適正―第2回の添乗テストに合格するレベルかどうか判定している。
[F]指導係のコメント―重点指導を行っての指導係のコメント欄である。
運送業は労働集約産業である。「人」が中心であり核心である。運送業の経営は人材育成が生残り成長していく上でのキーワードである。取組むにあたっては行き当たりばったりではよくない。人材育成計画を立てる。指導係とのマンツーマンによって現場の実態にふまえて展開する。具体的なポイントは添乗教育の実施である。第2回の添乗教育に合格させることである。
ドライバーを宝にすることである。人罪にしてはならない。人財=宝にすることが経営者の使命である。
以上