「人を活かす、経営に活かす」第49回
~ 一人一日1,000円節約運動による経営コスト削減事例 ~

「ここまで不況となると、どうするのか。全員総力戦体制で、費用の節約に取組むしかない」。A社長の悲痛な決意(さけび)である。

A社の一日1,000円(一人当たり)節約運動推進活動について

A社の社員は100名いる。一日一人ひとりが1,000円の節約を実行すれば、一日で10万円、一ヶ月で250万円(25日稼働とする)、一年間で3,000万円節約となる。ちりも積もれば山となる。過去のバブル崩壊の時(1990年頃)は、一日100円の節約運動を展開した。今回は100円では済まない。発想の大転換がいる。ギリギリの瀬戸際まで経営は追い詰められている。社長一人の号令で、事態が好転するとは思えない。それこそ全員総力戦体制で取組むしかない。取組むべき節約項目は、一人ひとりの経営コストに関する意識変革がいる。

  1. 「いらない経費計算シート」の活用

    いらない経費を計算して、どうしたら減らすことができるか。その為に「いらない経費計算シート」(表1参照:PDF106KB)を全社員一人ひとりに提出を求める。事例では、一つの死亡事故についていらない経費を計算している。一つの死亡事故で、どれだけの経費がかかるか。

    a)事故対応による人件費
    事故トラブル処理時間にどれだけかかったか。被害者への入院お見舞い、お通夜、損保代理店等の交渉時間、事故現場での立会時間等を人件費に換算する。
    b)事例では死亡事故なので、香典がいる
    c)損害保険料のコストは間違いなくアップする。割引率は減少して、次回の更新時には10%アップは避けられない。
    d)車両の修理代がかかる。車両保険に入っていないので、全額会社負担となる。
    e)荷主からのペナルティがある。物流品質レベルの低下ということで、一ヵ年で3台の減車を言い渡される。
    f)行政からの対応もきつくなる。営業車両停止処分を受ける。

    あれやこれやで、少なく見積もっても、事例では2,510万円の損失となっている。全社員に対して事故にかかるコストの恐ろしさを叩き込むことで、意識改革を迫っていくことである。一日1,000円の節約運動の根本は、事故ゼロの実現にある。有料代についても、1区間乗ることを我慢して節約する。あるいは、割引時間帯に使用し、割引料金で行く。有料代を節約することで、ドライバーの肉体的負担は増えていく。下道を走ることで、その分走行時間が長くなるからである。寝る時間が少なくなるわけである。「いらない経費計算シート」の有料代を作成する。今までと同じ考えや、働き方では一日1,000円は達成しない。ここは会社が追い込まれてアウトになる(倒産する)かどうかである。「社員一人ひとりにできる限りの無理を強いるしかない」、A社長の想いである。事務部門についても、「いらない経費計算シート」を作成する。電気・水道はこまめに使用する。コピーは裏紙を使用する。ボールペンは替え芯を使う等、どこまでいらない経費を節約することができるか。ギリギリまで考え抜いて実行していく。
    「いらない経費計算シート」は、社内の掲示板に貼っている。見える化である。

  2. 燃費効率向上運動の展開

    一人一日1,000円節約運動のもう一つの大きな柱は、燃費効率向上運動の展開である。ひと頃のバカ高い燃費価格は、沈静化しているとはいうものの、燃費効率を向上するということは事故の削減にもつながってくる。そこでA社ではデジタコ導入による「月次評価表」(表2参照:PDF82KB)を活用している。A社の車両は2t、4tが主力で、80台である。月間の一台当たりの平均走行kmは5,000kmである。 例に、平均の燃費効率がℓ当たり6kmとすると一ヶ月で5,000km÷6km=833ℓ×80台≒67,000ℓ使う。ℓ当たりの軽油価格を90円とすると、月間で6,030,000円である。燃費効率向上運動によって、ℓ当たり6kmの燃費が6.5kmになるとどうなるか。5,000km÷6.5km=769ℓ×80台×90円=5,536,800円となる。6,030,000円-5,536,800円=493,200円の節約となる。年間では、493,200円×12ヶ月=5,918,400円となる。ℓ当たりの燃費を6kmから6.5km(約8%アップ)に延ばすことでの節約効果である。 A社ではデジタコ導入による月次評価表を活用することで燃費効率向上運動に取組んでいる。月次評価表で毎月100点満点を六ヶ月続けたドライバーには、社長表彰として金一封を授与している。月次評価表の項目は、交通事故ゼロ、ノークレーム・ノートラブル、社則遵守による走行である。それぞれの大項目ごとに数値によって、具体的目標を設定し、達成度合に応じて評価している。

    「いらない経費計算シート」の全社的展開と「燃費効率向上運動」を車の両輪として一人一日1,000円の節約運動を展開している。働く仕組みを大胆に発想転換してムリ・ムダ・ムラは無いか、ギリギリに追い詰められたところで考え抜いていく。「最大のピンチは裏を返せば最大のチャンス」、A社長の旗振りでの言葉である。この度の不況はどこまで深まっていくか、予測がつかない。どこに依拠して生き抜いていくか、なんとかなるではどうにもならない。全員総力戦体制という働く一人一人のやる気に依拠していくしかない。その具体的表れが一人一日1,000円節約運動である。

以上