「人を活かす、経営に活かす」第47回
~日々管理の実践事例~

物流業はメーカーと違って在庫がない。その日その日の積み重ねである。“小を積んで大を成す”との言葉がある。正に物流業はサービス業として1日1日を積み重ねていく。日々管理は物流業の基本である。

(1)日々管理の実践事例

 A社は物流センター業務を行っている。受注して入荷検品し、ピッキングをして出荷作業を行っている。作業スタッフは、人材派遣とパート社員を活用している。正社員は所長1人と管理スタッフ2名で運営している。パート人員は繁閑によって波動するが、通常は30名~40名を活用している。パートの勤務時間は通常8時間、時間給は800円~1,00円である。時給に差があるのは能力査定による。人材派遣の単価は1時間当たり1,400円~1,700円である。パート社員は社会保険に加入している。以前は社会保険に未加入であったが、現在では全員が加入している。その為、人件費の負担が重くなっている。戦力的には人材派遣よりもパート社員の方が頼りになる。にも関わらず、1時間当たりの単価は人材派遣が割高となっている。繁閑の波動性が大きく、とりわけ月末の集中出荷があるせいである。A社の物流センターの経営課題は、如何にしてパート社員と人材派遣を効率よく動かすかにある。

  1. 所長業務日誌の活用

    物流センターの運営効率を把握し、向上する為に所長業務日誌(表1参照:PDF85KB)を活用している。ポイントは社員人件費、派遣人件費、委託費、荷主に支払うセンターフィ、パート人件費を総人件費として、1日の売上高に占める比率(総人件費率)の把握である。総人件費率の目標は85%で日々目標と対比して、対策を立案し実行している。所長と管理スタッフ2名は、毎日15分間のミーティングを行っている。「何故目標に届かなかったのか」。「どうすれば目標を達成できるか」。15分間のミーティングの内容は報告事項欄に記入する。その上で、問題点をえぐり出して施策を決める。施策は毎日考えていく。明日ゆっくりと考えるというのではなく、その日にする。所長業務日誌欄の項目にある問題点と施策に記入する。担当を決めて期限を明記するようにしている。更に稼動人員と稼動時間を日々集計し、1時間当たりの総人件費、1時間当たりの売上高を算出している。原単位管理の徹底である。更に加えて勤怠チェックを重視している。人員稼動表を1週間単位で作成している。予定通りに人員が当てはまらないと、所長業務に支障が出る。所長自ら現場作業人員となるからである。とりわけ、人材派遣会社には厳しく勤怠チェックをしている。急に出勤しない派遣スタッフや、出勤してもいつの間にか姿を消す者もいるからである。人員稼動表に穴をあける。すっぽかすスタッフがいると、人材派遣会社にペナルティを課すこととしている。ペナルティの内容は、程度によって取引中止から罰金まで設定している。所長業務日誌は作業終了後、直ちに本社の社長宛にメール送信している。社長は翌日の朝1番にコメントをつけて返信している。1日1日の積重ねの表現が、所長業務日誌である。

  2. 作業日誌の活用

    現場作業スタッフは作業日誌(表2参照:PDF112KB)を日々記入している。受注、入荷検品、入庫、在庫、ピッキング、出荷検品・梱包、仕分け・積込み、発注、流通加工、返品、補充、その他の物流作業、物流活動外時間と一連の合計作業時間を記入する。時間効率を上げていくことが作業日誌の活用目的である。例えば、ピッキング時間を集計して1単位当たりのピッキング時間を算出する。1分でも短縮することができないか、知恵を絞っていく。A社の物流センターでは人材派遣スタッフ、パートスタッフ全員で小集団活動に取組んでいる。小集団活動のテーマとして、例えば「ピッキング時間の短縮」を取上げる。月2回、昼休みの15分間を活用して小集団活動を行っている。現状把握としてピッキング時間を集計する為に作業日誌が活用される。ピッキング時間は作業単位ごとに把握して、短縮の為の目標が設定される。現状より10%削減といった目標である。10%削減すると人件費はどうなるのか、はっきりと数字で出す。その上で担当を決めて対策案を立案し実行する。例えば歩き方(動線)の効率化、ロケーション管理のあり方、ピッキング作業がしやすい工夫等である。こうした現場改善の積み重ねの基本データとなるのが、作業日誌である。 日々管理は待ったなしである。A社の物流センターの日々管理のツールは、所長業務日誌と作業日誌である。「体が疲れてヘトヘトになっても、業務日誌は必ず記入して社長にメール送信しています。翌日、朝1番の社長からの返信メールでやる気を出しています」、所長の言である。千里の道も業務日誌と作業日誌からはじまる。千里の道=物流センター運営の効率向上=現場スタッフの現場改善力の向上=物流品質レベルの向上は、はじめの一歩がなければ辿り着けない。初めの一歩が日々管理の実践である。

以上