「人を活かす、経営に活かす」第41回
~成果配分ルールの確立によってやる気を向上~

A社に労働基準監督署の調査が入った。その結果A社の給与支給ルールについて時間外手当の未払いを指摘された。A社のトップは頭を抱える。「このままだと会社が潰れる。」

(1)A社のドライバー給与体系の問題点

A社のドライバー給与は契約社員として設定している。時間給900円、1,000円、1,100円、1,200円と4ランクである。入社して試用期間中(おおむね3ヶ月)は900円、その後経験年数と勤務評価によってランクが上がる。試用期間中(入社して3ヶ月)のドライバーが労働基準監督署に駆け込んだ。名前を呼んでも「はい」と返事ができず、挨拶も満足にできない。しかもクレーム、トラブルを多発させる。そこで社長は「君はクビ!」と宣告する。クビを宣告されたドライバー(A君)は労働基準監督署に相談する。A君の1ヶ月の稼働時間は300時間である。給料は300時間×900円=270,000円。ここが問題である。法律(労基法)では、所定内労働時間を超えると時間外手当を支払うこととなっている。一律900円では法に抵触する。正確には173時間(月間の所定労働時間)×900円+900円×1、25(割増率)×127時間(残業時間)=298,575円となる。298,575円-270,000円=28,575円が時間外手当の未払いとなる。A社長は頭を抱える。「こういうことになると、他の契約社員にも時間外手当の未払いが発生する。2年間もさかのぼって支払うことになると会社が潰れる」。

(2)給与体系改革の第一段階

一律900円ではなく、所定内の時間給×所定内労働時間+固定残業分として変更する。所定内の時間給800円×173時間=138,400円+固定残業分(131,600円)=270,000円とする。固定残業分には法所定の時間外手当は含んでいるとする。残業時間が長時間(127時間)という問題はあるが、時間外手当の未払いはなくなる。時間外手当の未払いを防ぐには、基準内賃金を低くするほかない。ところがこれでも以下の様な問題がある。

  1. 今まで時間計算をベースとして支給しているので、要領よく仕事を短時間で行うドライバーの給料が低くなっている。給料を多く稼ぐには時間でしかないので、必然的に長時間労働になりやすい。
  2. ドライバーの意識として今までの900円が800円と言われると、頭では分かったような気がしても、賃金ダウンしたような想いを強く持つ。
  3. 労働基準監督署としては、長時間労働は抑制するようにと行政指導がくる。抑制すると給料が減る。

(3)給与体系改革の第二段階

ドライバー個人をバラバラのままにしてはいけない。小集団グループを編成して、リーダーを中心軸とする給与体系にする。(表1:PDF12.8KB)の給与体系に変更する。時給制は日給月給制とする。日給月給として3ランク設定する。試用期間を経て正式なドライバーとなり3年位までを1級(6,000円)、中堅ドライバーを2級(7,000円)、ドライバーのリーダーを3級(8,000円)とする。従来の一律を廃止するねらいの一つに、ドライバーの人材育成がある。ランクが上がるということは、ドライバーの励みになるからである。基準外賃金として固定残業手当を支給する。今までのドライバーは定着が悪い。ひどい例では1週間ももたずに、ある日突然プッツリと消えるドライバーもいる。そこで小集団グループ制を採用して、リーダー育成に取組むこととする。以前の契約社員の賞与は、言い方は悪いが“スズメの涙”であった。1人10,000円~30,000円程度である。賞与日になると何人かが黙って退職していくパターンが続いていた。社長にしてみれば“スズメの涙”であろうと、少しでも報いたいとして精一杯の気持ちである。ドライバーには社長の想いは伝わっていない。社長は「この際、家族手当と住宅手当を支給する。自分の報酬は削ってでもやろう」と決断する。ドライバーには独身者が多く、家庭が不安定な者もいる。家についても持家は少ない。せめて「気持ちだけでも支給しよう」。

(4)給与体系改革の第3段階=成果配分ルールの確立

(表2:PDF38.7KB)のグループ単位での成果配分ルールを確立する。(表2:PDF38.7KB)のルールによってグループ営業利益を算出する。算出したグループ営業利益の30%を業績賞与として支給する。按分については第一次査定はリーダーが行う。第二次はグループリーダーと社長が出席して査定会議を行い、最終決定することとする。按分にあたって(表2:PDF38.7KB)の通り評価制度によって実施する。第一次査定のリーダーによるバラツキを是正する為に、査定会議を設けている。グループリーダーは月1回職場ミーティングにて成果配分の数字の状況を説明する。経営数字の公開である。契約社員で時給制であったドライバーの意識が変わってくる。一日の売上をどうしたら上げていくことができるか。燃費効率をアップするにはどうするか・・・。全員経営参画体制の実現である。単にハンドルを握るドライバーから、考働ドライバーへの変革である。小集団グループによる給与改革はコミュニケーションを円滑にする。「今日の売上はどうだったか?」「今日はスムーズに走れたか?」「荷主さんから新しい仕事をもらったよ。」会話のキャッチボールが飛び交う。職場風土が活性化してくる。こうした日々の積み重ねでリーダーが育成され、物流品質レベルの高いドライバーが輩出してくる。

以上