「人を活かす、経営に活かす」第40回
~配車担当者の人材育成ケーススタディ~

 物流業活性化は現場力である。現場力の中核にあるものは、コミュニケーション力である。今回は配車担当者が、ドライバー1人1人と個人面談を積み重ねて、職場活性化にチャレンジした事例を紹介する。

(1)配車担当者の課題

A君は配車担当として、3ヶ月前にドライバーからあがってきた。A君はドライバー時代は売上もよく稼ぎ、事故もなく体を張ってハンドルを握ってきた。そこを経営者に見込まれて配車担当に任命された。経営者の願いは、A君に経営のわかる配車係になってほしいということである。そこで経営者はA君と個人面談する。

経営者:
「ドライバーから配車担当になって3ヶ月ですが、どのような状況ですか。少しは慣れましたか。」
A君:
「荷主からの配車に対する要望に振り回されています。とても余裕がない日々です。」
経営者:
「余裕をつくって、一段と高い立場から配車をできるようにしないといけませんね。」
A君:
「配車2名体制が必要ですね。その為にはドライバーからもう1人引上げなくてはいけません。」
経営者:
「そうですね。その方向で進めていきましょう。ところで目下の配車の課題は日々の売上をつかむ為の配車日報の作成が急務です。経営のわかる配車担当者になる為の第一歩ですからね。」
A君:
「今の状態では目一杯です。とても配車日報までは手が回りません。」
経営者:
「配車日報の、どのような部分が具体的に難しいのですか。」
A君:
「車両毎の売上を日々集計する時間がありません。毎日一番早く出社して、一番遅くまで働いています。さぼっているわけではなく精一杯やっています。」
経営者:
「A君の言うことはよくわかりますが、まず経営配車の確立に向けてできるところから始めましょう。日々の各人の出勤時間、稼動台数、クレームの発生の有無等々を配車日報に記入して下さい。」
A君:
「わかりました。」
経営者:
「更にドライバー1人1人の状況を把握する為に、個人面談シート(表1参照:PDF57KB)と職場改善カード(表2参照:PDF26KB)を活用して下さい。ドライバーとの個人面談は2ヶ月に1回、各30分は仕事の隙間を活用して行って下さい。職場改善カードは、2ヶ月に1回はドライバーに提出させて下さい。」
A君:
「配車日報を作成し、ドライバーとは個人面談を行い、職場改善カードを提出させることですね。」

(2)配車担当者の職場活性化へのチャレンジ行動事例

配車は単に荷物と車の手配、段取りを行うのみではない。ドライバーの状態、性格、能力を適切に把握することである。個人面談シート(表1参照:PDF57KB)の活用である。配車、給料、健康、悩み等々の項目について親身に聞く事である。要望についてはすぐできることと時間をかけることに区別し、無理なことははっきりさせていくことである。個人面談の目的は配車担当者とドライバーのコミュニケーションをよくして、信頼関係を構築することにある。日々の配車業務の多忙の中、隙間の時間を見つけてコツコツ取組んできた。A君云く、「ドライバー1人1人の生きる姿がよく見えてくるようになりましたよ。昼食は弁当持参、それもコンビニ弁当が大半です。車の中で昼食をかきこんで働いている姿が目に映じますよ。」
A君自身もドライバー出身であるだけに、ドライバーの気持ちがよく理解できる。「ドライバーは必死で働いているよ。その上、改善提案を提出しろといっても無理があるよ。」A君の悩みでもある。職場改善シート(表2参照)のねらいは次の通りである。
職場改善項目として燃料費、有料代、タイヤ、修繕費、売上、5Sとする。項目について全て記入する必要はない。少なくとも1項目について、仕事の中でひらめいたことや気付いたことについて記入し提出する。2ヶ月に1回は提出する。職場改善の種は現場にある。ドライバーに考えさせる、気付かせることが職場改善シートのねらいである。
A君の職場活性化へのチャレンジは、まだ道なかばである。せっかく個人面談を予定していても、仕事の都合でキャンセルせざるえないこともある。職場改善シートも、いくら言っても一向に提出しないドライバーもいる。A君にとっては粘り強く諦めない事の大切さを学ぶ日々である。職場改善シートの項目での職場改善内容で、すぐできることはすぐ行うこととしている。すぐ行うことについては、月1回のドライバーとの職場ミーティングにて決定している。
配車日報の作成、個人面談シートによる個人面談の実施、職場改善シートを提出させること、こうしたプロセスによって、A君は経営のわかる配車担当者として成長していく。机上では配車担当者は育たない。正に今まで述べてきた如く、実践で鍛えられていく。1人1人のドライバーの事をよく知ること、そして交流を深めることである。交流とはふれあいのことである。ふれあいは心の交流を基本とし、コミュニケーションの実践によって深まっていく。

以上