「人を活かす、経営に活かす」第39回
~凡事徹底の実践こそドライバー人材育成のキメ手~

「凡事徹底」という言葉がある。当たり前のこと、平凡なことをトコトンやりきることで経営改革を成し遂げる。物流業にとっての「凡事徹底」とは何か。

A社の「凡事徹底」事例

A社は車両台数50台ばかりの中小運送業である。ご多分にもれずドライバーの不足に直面している。せっかく入社しても長続きしない。社長の苦悩は深い。荷主からの運賃は思うように上がらない。長年のクセというか、荷主に対してしっかりとモノを言う体質ではない。荷主の言いなりである。心の中で「苦しい、苦しい」と嘆くのみ。その上軽油価格やタイヤ代等、コストアップもひっきりなしである。「どうすればいいのか」。基本はドライバーの人材育成の取組みである。

(1)配車業務日報の活用

ドライバーの人材育成は現場からである。現場の中心軸は配車担当者である。配車担当者のリーダーシップ力、コミュニケーション能力の質がドライバー人材育成のキメ手である。どうすればリーダーシップ力や、コミュニケーション能力が鍛えられていくか。配車業務日報(表1参照:PDF48KB)の活用である。一日一日の積み重ねの具体的表現が、配車業務日報である。配車業務日報のコンセプトは日々の売上管理、クレーム、トラブル、事故管理、コミュニケーション管理で構成されている。

売上管理

日々の売上を把握し、目標とのギャップを認識して、どうしたら売上がアップするか。運行効率の向上対策、ドライバーの勤怠管理をキチンと行うことである。配車担当者はドライバーの給与に大きく関わっている。売上を上げる努力を行うことでドライバーの給料は反映されてアップする。こうした一日一日の売上管理によって考働するドライバーを育成していく。考働とは、考えて働くドライバーのことである。

クレーム、トラブル、事故管理

クレーム、トラブル、事故は物流業にとって避けて通ることはできない。直視してスピードをもって対策をとることである。クレーム、トラブルは荷主からもたらされる。延着、破損、欠品等々カラスの鳴かない日はあってもクレーム、トラブル、事故はついてくるのが実情である。その日の内に直ちに対処していくのが、配車業務日報のコンセプトである。

コミュニケーション管理

如何にして一人一人のドライバーに直面していくか。
コミュニケーションの改革が大きな経営課題となる。個人面談は1ヶ月に1回、各ドライバーと配車担当者が行う。面談時間は各30分以内としている。運行状況、悩み事、家庭や健康の状況について把握する。給料について分からないことや、要望を確認する。ドライバーにとってみれば給料は、生命線である。1円でも多くが当たり前である。配車担当者はどうしたら給料が上がるか、具体的に説明できなければならない。給料の源泉は荷主である。如何にして売上を上げるかである。さらにコストの削減である。コスト削減、例えば省エネ運転による燃料費の削減や車を大事に扱うことで、修繕費削減をする等である。それによって産出された利益が給料の源泉である。配車業務日報による一日一日の積み重ねによってドライバーの人材育成を成し遂げていく。

(2)点呼の活用

点呼は運送業にとって必須の労務管理、運行管理の基本中の基本である。「なかなか点呼者がいなくてできないよ。時間もないしね。」A社長の呟きである。ドライバーの人材育成の「凡事徹底」実践は、一日一日の点呼にある。多忙を理由にしてはそれこそ「貧乏ヒマなし」の悪循環に陥る。
点呼記録簿(表2参照:PDF123KB)を活用する。乗務前点呼として健康状態、飲酒状況をチェックする。その為に血圧計や飲酒の有無を確認するチェッカーを用意している。確実に日常点検を行う。中間点呼は乗務途中においても1回、電話等の方法で行う。乗務後点呼はその日一日の状況について確認する。運転日報の提出時に行う。個人面談を行う場合は点呼記録簿に基づいて行う。
点呼は分かっているけど、ついつい手を抜くといった状況がある。安全を徹底する為には点呼の実践は避けて通ることはできない。“事のなるのは困苦の時”ということわざがある。事とは仕事の達成で、困って苦しいことがあって成し遂げられるということである。多忙を理由にして「貧乏ヒマなし」になっていないか。「凡事徹底」の実践こそ困苦を打ち破っていく。
A社の実践の成果はどうであったか。1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と続けていくことで、除々に効果があらわれてきた。職場が明るくなった。大きな声で気持ちのいい挨拶ができるようになる。何よりも車とドライバーの稼動率が上がって売上がアップする。燃費効率も向上していく。更にドライバーの給料も上がっていく。
「運送業の経営成功のキメ手は、ドライバーの人材育成にありますね。奇手妙手ではなく、当たり前のことを当たり前に行うことですね。『凡事徹底』の実践は、『継続は力なり』ですね」(A社長の言)。

以上