「人を活かす、経営に活かす」第37回
~班活動の実践による職場活性化取組み事例~

燃料費のアップはとどまることを知らない。優に1リットル当たり100円は突破している。ほんの2~3年前は1リットル当たり65円前後であったので、およそ150%のアップ率である。その上、車両価格もここ数年で大幅に高くなっている。運送原価の重圧は計り知れない。しかも、コンプライアンス (法令 遵守 ( じゅんしゅ ) )ということでプレッシャーがかかっている。社会保険も全員加入が法の定めである。コンプライアンスについては、バブルが崩壊した頃、大不況に運送業が直面した時と今とは状況が異なる。

あの頃は「経営が苦しい」といえば、社会保険も辞めることが可能であった。「経営が好転したら又入って下さい」と行政が指導すらしていたが、現在はそんなことはできない。しかも、あの頃は荷主からの運賃値下げの要求が、くる日もくる日もとどまることを知らず押し寄せてきた。そこでドライバーの賃金をダウンさせてきた。

ところが、現在「経営が苦しい」といってドライバーの賃金を下げることはできない。ドライバー不足が深刻化しているからだ。ドライバーの人件費を切下げると、ドライバーは辞めていく。それどころか労働基準法第37条違反が続出している。

労働基準法第37条とは、時間外手当の未払い問題のことである。物流業界では、労働時間は長いのが当たり前である。1日12時間~13時間の労働時間はザラである。長距離ドライバーともなると、仕事と仕事の間で8時間の休憩すらとれずに、少ない睡眠時間で眠い目をこすってハンドルを握っているのが現実である。法律によると、時間外手当の未払いは、過去2年間にさかのぼって請求される。

コンプライアンスの大波は、運送業を直撃している。それでは運賃は上がっているのか。希望通りに運賃値上げを勝ち取っている所は、まだ少数派である。言葉はきついかもしれないが、荷主からのお涙金、スズメの涙程度でお茶を濁されているケースの方が多い。

更に銀行の姿勢も変化している。金融庁の監査マニュアルによって、銀行業務もがんじがらめである。「危い企業」と監査マニュアルに沿って判定されれば、ピタッと融資はしない。銀行担当者の個人的想いでは、何とか中小企業の経営者の資金繰りを助けたいと思っても、マニュアルの査定によって、ダメとなるとダメである。「このままでは経営ができない。我々の業界には明るい未来がない」と絶望している経営者が後を経たない状況となっている。

― 班活動の実践による職場活性化取組み事例 ―

A社は全員参画の経営体制を確立している。ドライバーを班別にグループ化して、班の目標管理シート (表1参照)に基づいて業務を遂行している。

「大不況の現実に負けない。逆風こそむしろ企業とドライバーを育成する」とのトップ方針のもと、班活動を展開している。基本項目とCS活動、業務協力度、班目標が班活動の目標管理シートの中身である。実施結果は配分点によって査定している。事例では200点が満点である。基本項目とCS活動の査定は、数字が明確に算出される。デジタコを活用しているので一目瞭然である。業務協力度は、配車担当者が配車日記によって査定する。班目標は、班メンバーによって実施結果をチェックしている (表2参照)。表2-1は班目標として、愛車清掃点検カードの活用事例である。整備担当者任せではなく、ドライバーが行うこととしている。表2-2は班目標として、コミュニケーションカードの活用を取上げている。班長は、ドライバーと月1回個人面談することとしている。コミュニケーションカードの内容は、日々の仕事の中で気づいたことや、感じたことについて質問する。「何故を5回繰り返していくこと」が、班長に求められている。

こうした面談プロセスで「改善提案件数」の内容充実に努めている。あるいは、客先に着いて直接いわれたことや、様子についても確認している。

班活動は目標管理シートによって進めているわけである。

いくら配車担当者がやかましくいっても、職場の意識改革は一向に進まないケースも多い。現場と配車とのギャップによるからだ。そこで、班活動を展開する。現場からの改革である。職場の意識改革は、トップや管理者の上からの押えつけでは進まない。いくらトップが「経営が苦しい」と叫んでも、現場には届かない。働く一人一人のドライバーの意識、心の中から変えていくことである。そこに現場のドライバーをグループ化する班活動の狙いがある。職場を改革していくエネルギーはどこにあるか。外部にはない。やはり内部である。

A社の班活動は、年2回の発表大会を節目として展開している。6ヶ月ごとに班活動発表大会を開催している。一泊二日の日程である。トップ、管理者、ドライバーは夕食をともにしている。「以前はドライバーと一緒に酒を飲むと、ドライバーのケンカをよく目にしたものです。班活動を実践することで、そういうことはピタリとなくなりましたよ。」A社の社長の言である。年2回の班活動発表大会は懇親会の性格も有している。優秀な班については社長賞として、金一封と表彰状を手渡している。

「経営の苦しさを嘆く前に、することがある」A社長の決意に基づく実践事例である。

以上