「人を活かす、経営に活かす」第36回
人手不足に抗する職場風土の改革事例~身だしなみの確立~

「ここのところ、いくら求人してもパタッとあたりが悪くなりましたよ。」「せっかく入っても、すぐ辞めていくドライバーが増えましたよ。」A物流会社の経営者の悩みの声である。

A社では、ここのところ正社員ドライバーは採用していない。正社員ドライバーだと社会保険料の負担、賞与の支払い等なにかと人件費が重圧となっている。運送収入に占める正社員ドライバーの人件費率は、年々アップするばかりである。そこで契約社員ドライバーの採用に力を入れている。契約社員で入社して「このドライバーは質が高く、よく働く」と評価できれば、正社員に登用している。正社員登用の判定期間は、 1年後としている。ところがここ1年ばかりは正社員に登用していない。ひとえにA社を取り巻く経営環境の悪化のせいである。こうした現場の状況であるので、ドライバーの質の低下が目立ってきている。

「入社して 1週間も経たないのに、前払いを申し込んできたよ。」聞くところによると、前払いを申し込んできたドライバーはサラ金苦とのことである。あるいは「1ヶ月もしないのに腰が痛い」と訴えて労災適用を求めてきたドライバーもいる。確かに契約社員の人件費は、正社員と比してコストメリットは大きい。ところがドライバーの質となると、ドライバーを使う側からすると悩みが深い。そこで何から手をつけていくか。それが身だしなみの確立である。

(1)身だしなみ点検シートの活用

身だしなみ点検シート(PDF:244K)は、1人1人のドライバーが毎日活用している。仕事に取りかかる前に、自己チェックとして行っている。背景としてあたり前のことをあたり前に遂行できるドライバー育成の必要性ということである。仕事の報酬として金銭のみに求めない。仕事そのものの中に求める。あたり前のことをあたり前に行うことで、荷主に評価されほめられる。評価されてほめられると嬉しいものである。この嬉しさという精神的報酬を獲得していくことがドライバーの誇りとなる。ドライバーとしてプライドをもって働くということである。

身だしなみ点検シートの大項目は、携行品チェックと身だしなみチェックである。携行品として免許証、車検証、許可証(着地)、デジタコカード、備品である。身だしなみチェックはヘルメット、帽子、頭髪、ひげ、アクセサリー、作業服、ズボン、名札、ベルト、爪、作業手袋、靴である。確実にキチンと行うこととしている。自己チェックだけでは不充分なので、職場ミーティングにて徹底している。

(2)職場ミーティングの実践

業務の都合で、全ドライバーを一同に集めて職場ミーティングを行うことがA社ではできない。そこで3~4人ずつグループ化して行っている。A社のある営業所では、ドライバーは正社員と契約社員含めて 20人ばかりである。職場ミーティングは月1回として7回ぐらいしないと全ドライバーに周知できないわけである。所長と配車担当者は7回出席することとなる。1回の職場ミーティングはおよそ60分程度、開催時間帯はまちまちで早朝・深夜に行っている。

「我々の業界では、職場ミーティングすらなかなか難しい」所長の言である。「ふんどしを締めるというか、大決意して行っていますよ」所長の想いである。

ミーティングの進め方として、A社では“見える化”ということをキーワードとしている。“見える化”とは、できるだけビジュアルに具体化することである。例えば身だしなみシート(PDF:56K)の活用である。身だしなみシートをドライバーに交付して、正しい服装の着用ポイントをはっきりさせていく。帽子はまっすぐかぶっているか。髪の長さはどうか。顔の表情はどうか。爪は切っているか。シャツは色シャツではないか。ボタンはきちんととめているか。ズボンは汚れていないか。靴はかかとを踏んでいないか等々と、職場ミーティングにて1人1人が確認チェックしていく。その上で正しい服装は、サービス業の基本(PDF:56K)としてまとめていく。

職場ミーティングの実践効果はどこにあるか。それはドライバーの定着が進み、物流品質トラブルが大幅に減っていくということがある。すぐ辞めるというようなことはなくなる。職場風土が明るく、メリハリの効いたものとなる。そうすると不思議なことに、ドライバーが集まってくる。

色々と要因はあるが、職場風土がきちんとすると自然にドライバーは集まってくるものである。確かに、いまだより深くドライバー不足の状況が続いている。とはいっても、ドライバー不足を解消する奇手妙手はない。悪戯に賃金を上げることのみでは、解決しない。たとえ賃金を高くしてドライバーが充足しても、経営状況は更に悪化するばかりである。報酬は仕事の中にある。金銭的報酬と精神的報酬とのバランスである。精神的報酬は、あたり前のことをあたり前に行うことで荷主に評価され、ほめられる。こうしたことが喜びとなってドライバーに跳ね返ってくる。職場風土が、明るく活性化していくことになる。

以上