「人を活かす、経営に活かす」第35回
クレーム・トラブルゼロへの取組み事例

A物流企業の現場は、ハードな長時間体制が続いている。配車担当者の月間総労働時間は、300時間を超えている。ドライバーについても、1日平均12~13時間の勤務体制である。ヘトヘトの日々が続いている。
かくしてクレーム・トラブルが多発している。延着、誤配の多発である。配車係は、荷主に頭を下げない日はない程である。「すみません。」「わかりました。すぐ対応します。」ドライバーが引き起こすクレーム・トラブルに振り回されている。「このままどこかに消えてなくなりたいよ。」配車担当者の偽らざる本音である。どうしたらクレーム・トラブルの多発に歯止めをかけることができるだろうか。

(1)疲労蓄積度自己診断チェックリストの活用

職場の実態はどうなっているか。働いている者の状況はどうか。疲労蓄積度自己診断チェックリスト(表1参照:PDFファイル 119KB)を活用することとする。きっかけは、1人の配車担当者のダウンにある。ダウンとは、ある日家を出てそのまま消えて居なくなったことである。幸いにも消えて居なくなったのは3日間程で、フラリと家に帰り着いた。3日間は、家族は夜も眠らず(眠りたくても心配で寝れないせいでもあるが)ホトホト心配した。「ひょっとして、ひょっとしているのでは?(どこかの川にでも、身を投げていないか?)」。会社もトップをはじめとして、上を下をの騒ぎである。「どこかのビルから飛び降りていないか?」幸いにもフラリと配車係は戻ってきたが、「どうしてこうなったのか」反省の末、職場の実態・働いている者の状況調査をしようとしたのが、疲労蓄積度自己診断チェックリストの活用である。疲労を蓄積することで、クレーム・トラブル多発にもつながっている。1ヶ月間の自覚症状をチェックする。ほとんどない(0点)、時々ある(1点)、よくある(3点)で、合計21点以上になるとレッドカードである。すぐさま医師のカウンセリングを受ける、休養を取る等の対応をする。自己診断に基づいて、上司が個人面談をする。仕事内容、家庭状況、経済状況についてヒアリングをする。長時間労働という肉体の疲れが、心の疲れになっていないか。ストレスを抱え込みすぎていないか。

クレーム・トラブルの問題の根っこは、深いものがある。引き起こす者の性格のみに起因するのではない。肉体の疲れが、心の疲れへと連動することで引き起こされる。ダウンした配車担当者の、消えて居なくなる前の1ヶ月の状況はどうであったか。ドライバーを指導する立場でありながら、何もできていない。社長からの指示事項も、何一つ中途半端で手付かずの状況、進退極まっていた。夜は不眠が続き、時々ボーとしてしまう。意欲がなくなり、物覚えも悪くなる。他人と目を合わせるのも億劫となる。これは正に心の疲労である。同様のことが、ドライバーに起こると大変なことになる。大事故につながっていく。そこで個人面談することで、大事に至る前の対策をとる。あるドライバーのクレーム・トラブルを引き起こした原因は、妻との不和にあった。仕事への出かけに妻とけんかして、それが尾を引いてクレーム・トラブルにつながった。別のドライバーは、前日にパチンコに大負けして、サラ金で借りてしまったことが気分を落ち込ませていた。心の疲れを加速させていた訳である。

(2)挨拶実践の取組み

疲労蓄積度自己診断チェックリストを実施することで、職場での取組み課題が明確となってきた。「職場を明るく、元気にするにはどうするか」。

長時間労働体制の是正もあるが、それも限界がある。荷主の求める物流サービスは、1年365日24時間の物流体制である。日曜・祭日、それこそ正月も車は稼動させないといけない。ローテーション(交代制)にも限界がある。「どうするか?」そこで、徹底した挨拶を実践することで元気を職場に巻き起こすこととする。挨拶実践のポイント(表2参照:PDFファイル 47KB)を、大きな模造紙に表現して、現場に貼り出す。仕事の出発時、ドライバーは大きな声で「おはようございます、只今から行ってまいります」と挨拶する。車に向かって発生し、屈体の礼で行うこととする。挨拶は、気づきを深めていく。気づきとは、相手の存在を認めることで、相手を敬うことである。車に向かって屈体の礼をすることで、無事故・ノートラブル・ノークレームを誓うことである。

A物流企業の挨拶実践は、心の疲れを吹き飛ばすことを狙いとしている。現実から逃げることなく立ち向かっていく勇気を奮い起こすことである。挨拶は形で示すことが重要であり、心の形を示す。「我社の現場改善の取組みは、挨拶にあります。きちんと継続的に行うことで、職場が元気になりましたよ。凡事徹底です」A物流企業の社長の言である。凡事徹底とは、当たり前のことを当たり前に、確実に徹底して行うことである。自分が変われば周りが変わる。自分を変えるきっかけは、挨拶の完全実施にある。クレーム・トラブルゼロへの取組みは、挨拶の完全実施からである。

以上