「人を活かす、経営に活かす」第34回
荷主交渉力取組み事例

 A社は車両台数100台ばかりの中堅運送業である。ここのところ燃費アップがじわじわと経営に重圧となっている。利益率の低下に直面している。荷主は食品関連で、1年365日の体制でコンビニ店・スーパー等に配送している。4tの冷凍車が中心である。A社が直面している経営課題は何か。

(1)A社の悩み - ドライバー不足

「なかなかドライバーが集まりません。求人広告費もかさむばかりですよ」A社長の言である。A社では、実際の給与支給方法と労働基準監督署へ届け出ている給与規定にギャップがある。そのため職安での求人がしにくい。職安での求人では労働時間、休日を法律に従って記入するようになっている。A社の実態は、1ヶ月25日稼動が標準で、ドライバーによっては28日とか29日稼動してほとんど休みナシの者もいる。月間の労働時間は、300時間を超えているドライバーがザラである。「これでは職安の求人はできにくいですよ」。実際の給与支給方法は、コースごとにいくらと単価が設定されている。コース手当(運行手当)の中に残業代も含んでいるとしている。4tドライバーの月額賃金は30万円が標準で、1時間当たりにすると1,000円が時給である。「必死に頑張っているのですが、経営は苦しいです」。

A社タイプの中堅運送業は、経営悪化に直面している。ここのところ昇給はナシである。賞与も寸志程度で10万円も支給できればいい方である。運送業界は、経営面では二極化しつつある。車両台数10台未満の、個人事業主タイプの会社は生き抜いている。経営効率がいいからである。社長がハンドルを握り、事務もこなし、ドライバーの管理もする。ほとんど間接費がかからない。そのうえ法的にもあまりとやかく言われない。重大事故を起こせば別であるが、そうでなければとやかく言われない。10人未満であれば、就業規則も労働基準監督署へ届け出る必要はない。ひたすら走って走って、走りまくって収益を確保している。一方運送業の大手は、物流組織業として確実に収益を確保している。大手とは年商で20億円以上(運送会社60,000社の中の約1%=600社程度)。物流組織業としてアウトソーシング比率を高めている。

現場は、自社の社員ではなくアウトソーシング人員(広義では契約社員を含む)が、全体の50%を超えているのが通常である。そのうえ単に運送だけではなく物流センター運営、構内作業、人材派遣業等々運送にプラスアルファ、サムシングを付け加えている。ところがA社クラスとなると、アウトソーシング率もそれほど高くない。そのうえ間接人員も必要とする。法的プレッシャーもある。「どうしたらいいのでしょうか」深刻な悩みである。その悩みの具体的表現として「ドライバーが集まらない」ということに直面している。

(2)A社の荷主交渉力取組み実践

ドライバーが集まらない重大原因はどこにあるか。月間300時間に及ぶ労働時間、時給1,000円の賃金実態、いわゆる長時間労働と賃金実態にある。こうした状況を解決する道はどこにあるか。ひとつの答えは、荷主交渉力にある。

  1. 荷主別採算表の活用
    荷主別採算表(表1参照:PDFファイル 71KB)の活用ポイントは、荷主交渉に当たって経営数字を把握することにある。そのうえで適正利益を確保する。赤字であれば対策を荷主に要請することとなる。赤字だからといってドライバーの人件費のみに着目しない。なにしろA社では、ギリギリでやっている。時給1,000円は最低賃金にわずかにプラスしているのが実態である。社会保険料の負担や福利厚生費用は、どこから賄(まかな)うか。そこで荷主のパートナーとして経営数字に基づいて物流改善に取組むことになる。コースの見直し、稼働時間実態の把握による待ち時間対策、そのうえで適正運賃の収受を迫っていく。「運賃をあげて欲しいといっても聞く耳を持ってもらえませんよ」。そこで我慢をするか。我慢の限界に近づいている。ここを突破する道は、営業力の強化である。

  2. 営業実績・目標対比表の活用
    営業実績・目標対比表(表2参照:PDFファイル 82KB)の活用は、営業力の強化を目的とする。荷主別採算表で赤字となっても、ひたすら辛抱するだけでは能がない。粘り強い荷主交渉と平行して、営業力強化に打って出ることである。既存荷主と新規荷主の目標売上高を設定する。営業実績月報を作成して、目標と実績との差異を分析して、次月の行動目標へとつなげていく。

荷主交渉力によって、売上の中身を改善していく。このことが根本的なドライバー不足への対策となる。ドライバーの物流品質を向上させるためにも教育コストがかかる。言うべきことはきちんと荷主に交渉していく力によって、経営力は鍛えられ充実していく。ここのところで踏ん張らないと中堅運送業は消えていく運命を甘受しなければならない。縮小するしかないのである。「入るをはかって出ずるを制す」という経営原則を噛み締めて実行に移していくことが、荷主交渉力の向上へとつながっていく。

以上