「人を活かす、経営に活かす」第33回
物流品質向上取組み事例(1)~ 一瞬一瞬が妙薬となるー点呼の実施事例 ~

(1)ドライバー不足の現状

「ここのところドライバーを募集しても反応が悪いなぁ。」A物流会社の社長の嘆きである。背景は何か。ひとつには長引く運賃低迷や軽油価格のアップをはじめとするコストの重圧で、ドライバーの給料がパッとしないことにある(「物流会社の賃金実態表」表1参照 PDFファイル43KB)。2tドライバーで年収300万円に届かない者もいる。「物流会社の賃金実態表」は、筆者の経営コンサルティング活動の中から掴んだ数字である。稼動日数は25日とする。ところが地方へ行くと、この数字よりも10%位下方が標準である。稼働日数が22日とすると、月額20万円に届くかどうかの水準である。中小物流業の平均的実態が表1である。その上長時間である。例えば、集配ドライバーとなると1日13時間、繁忙期は1日15~16時間は当たり前である。そこで最近よく話しを聞くのが、50才台のドライバーの脳梗塞や心筋梗塞等によるダウンである。ドライバーの高齢化が、確実に進行している。賃金低迷や長時間労働のみが、ドライバー不足の背景ではない。もっといえば働く人の意識の変化がある。端的にいうと、物流業界に入ってくるドライバーの中にガッツとか、やる気の感じられない者が目立ってきている。入社しても1~2日ですぐに辞めるドライバー、挨拶一つ満足にできないドライバー、借金を抱えて自己破産寸前のドライバー、・・・全体の印象として元気がないのである。ドライバー職を天職として、喜びや働きがいを感じている者が少なくなってきている。「何となく」「とりあえず」の感覚でハンドルを握る意識の持主が、どうも目立ってきている。

(2)点呼実施・内容評価台帳の活用事例

A社ではドライバー不足に抗して育成し定着する為に、点呼実施・内容評価台帳(表2参照 PDFファイル127KB)を活用している。ドライバーとコミュニケーションを配車係がとろうとしてもなかなか難しい。A社の運行パターンは、早朝2:00からスタートする者から始まり、3:00、4:00、5:00、6:00、と続く。とてもドライバーと顔を合わせようとしても難しい。「果たしてこのままでいいのか。」A社長の悩みである。そこで点呼を完全実施することで、ドライバーと対面し、コミュニケーションを取っていくことで、ドライバーの人材育成に取組むこととする。中味としては次の通りである。
  1. 点呼実施=始業、中間、終業と確実に行うこととする。その為に点呼実施者は時差出勤する。例えば2:00出勤して、昼12:00に帰る者といった具合である。実際には交代制勤務できるほどの管理人員がいない。そこでドライバーの班長制度を確立して、班長が交代で実施することとする。
  2. 服装=「服装の乱れは心の乱れ」ということで徹底的に行う。制服、制帽、クツ、ヒゲとチェックする。ドライバーの中には朝が早いせいか、ヒゲボウボウの者もいる。不快感を与える。そこで電機カミソリを用意して、その場で剃らせるようにしている。靴についてもスリッパで登場するふとどき者もいる。すぐ履き替えられるように、予備の安全靴も用意して、履き替えさせている。予備の安全靴の寸法が、ドライバーの足と完全にフィットしていないケースもあるが、スリッパよりマシということで履き替えさせている。フィットしない安全靴を履く位なら、初めから安全靴を履けばよいと割りきって徹底して履き替えさせている。
  3. アルコ―ル=アルコールについてはチェッカーで判定している。アルコール反応が出れば、即運転中止している。どんなにドライバーが不足していても、徹底する。乗車するドライバーがいなければ、それこそ社長を代役に立てることもためらわない。
  4. 血圧=血圧計の測定で上が140以上、下が80以下あれば生活状況についてヒアリングする。一週間高血圧が続くと対処する。病院に行かせる。薬を服用させる。
  5. 体温=体温計にてチェックする。風邪気味等で体温が高ければ事情を聞いて、場合によっては病院へ直行させる。
  6. 睡眠=不眠が続くとよくない。不眠は万病の始まりである。特に悩み事(サラ金問題等)があるとよくない。場合によってはウツになる者もいる。睡眠時間を確認していく。
  7. 携行品=運転免許証はいうに及ばず、運行指示書等の必要書類の携行チェックを完全に行う。中には運転日報すら携行しないふとどき者もいるからである。
  8. 始業点検=点検と5Sチェックを確認する。 点呼実施・内容評価台帳はドライバー本人がチェックし、○で1点である。事例のドライバーは322点満点中で305点(100点満点でいうと94点と優秀)となっている。 物流品質向上への取組みはアッと驚くような秘策は無い。毎日毎日、確実に実践すること―それはチェックの徹底―こうした実践事例として点呼実施・内容評価台帳の活用である。A社長いわく「点呼者を、班長に行なってもらって正解でしたよ。その為に班長は運行管理者の資格を取っています」。 現場において、1対1のコミュニケーションをかけがえのないものとして大切にし、実行していく。日々の点呼は3~5分である。いわば一瞬である。一瞬、一瞬の積み重ねが、物流品質向上の妙薬である。

以上