「人を活かす、経営に活かす」第29回
― 経営活性化原則その1・荷主別採算表とグループの提案 ―

「毎日毎日、一生懸命働いているのにどうして赤字なのか。」深いため息をつくA経営者。A経営者によると、自社の問題点は次の通りである。

(1)自社の問題点

  1. 荷主ごとの採算を把握していない。A社は運送業として自車両約50台、メイン荷主3社で売上の80%を占めている。メイン荷主との付き合いは、かれこれ約20年に及ぶ。ここのところピーク時と比して、運賃は約20%ダウンしている。運賃はダウンしても、物流サービスの要求は増すばかりである。時間指定有り、受注時間も年々遅くなり、今では夕方5時、6時に入ってくる。従ってそこから配車を組むので、配車担当者はやりくりに一苦労する。なかなかドライバーも続かない。「仕事がしんどい」と言ってすぐ辞める。そうした状況の中、メイン荷主の1社から更なる10%の値引き要求が来る。A経営者は頭を抱える。ドライバーが不足気味なので、A経営者自らハンドルを握っている。「経営者でありながらドライバーをせざるを得ません。とても荷主別採算表を算出する程の、余裕が無いのが現実ですよ」(A経営者の言)。

  2. 職場でのコミュニケーションの仕組みがうまくいっていない。以前はドライバーをグループ分けして職場ミーティングを月1回実施していたが、いつのまにかウヤムヤになってしまった。長続きしないのである。原因は色々「メンバーが集まらない」「テーマがいつも一緒でマンネリ化する」「社長の独演会になっている」・・・職場メンバーの気持ちがバラバラになっている。A経営者のあせりは深まり、赤字から黒字にしたいとの想いも空回りしている。「どうしたら現場メンバーのやる気を向上させることができるか。バラバラの気持ちを、どうしたら一つにすることができるか」(A経営者の言)。

(2)経営改善活動の実施

  1. 荷主別採算表の活用
    荷主別採算表(表1参照:PDFファイル30KB )を作成することとする。10%の運賃値引の通告を受けて、果たしてやっていけるのか。メイン荷主の3社について、荷主別採算表を活用して算出する。A経営者もハンドルを握るばかりではなく、ねじりハチマキをしめて立ち向かう。売上高は簡単にわかるが、経費の算出に苦労する。変動費(燃料代、修繕費、有料代)として、ドライバーの運転日報から算出する。A社では、車を乗りかえるので、燃料費については使用車両の走行kmを基に計算する。使用車両の燃費効率(1リットル当たりの走行km)に基づく。修繕費については、使用車両の年間の修繕費(定期車検代+一般修理費)を基に算出する。タイヤについては、耐用走行kmに基づく。有料代は、実費である。

    投入人件費については、ドライバーの運転日報から荷主ごとの稼働時間を集計する。稼働時間にドライバーの時間単価を乗じて、直接の投入人件費を割り出す。間接人件費として配車担当者分として、売上高×5%とする。固定費(車両費、施設費)については、1ヵ年のデータに基づいて1日当たりの固定費を算出する。かくして売上高-変動費-投入人件費-固定費-一般管理費=営業利益となる。こうして計算した荷主別採算表を、全ドライバーに公表することとする。以前実施していた小集団活動を蘇らせて、ドライバーをグループ分けすることとする。

  2. 「グループの提案活動」の実施
    グループの提案(表2参照:PDFファイル68KB )カードを作成する。小集団活動のテーマとして「荷主別採算の向上」を掲げる。提案区分として待ち時間対策がある。待ち時間のデータを集計して現実をつかむ。どうしたら待ち時間を減らすことができるか。次いでコスト削減対策がある。変動費を減らすにはどうするか。燃料費、タイヤ代、修繕費、有料代をどうするか。更に運行効率向上対策がある。待ち時間を減らすことができれば回転率が向上する。帰荷効率をどのようにしてアップさせるるか。

    ・・・こうした提案区分に基づいてそれぞれの小集団グループが現状を把握し、改善点を明確にしていく。小集団活動は3ヶ月毎に成果を判断し、審査基準表にて採点する。こうした小集団活動によって職場のコミュニケーションをよくし、バラバラの気持ちを一つにしていく。審査結果は、会社の掲示板に発表し、1位から3位までは表彰する。審査期間は3ヶ月なので、スピード感がある。こうした内部の涙ぐましい努力をもってしても荷主別採算が向上しない。相変わらず赤字のままとすると、どうするか。「それは荷主に対して、価格交渉するしかありません。腹をくくってやるしかありません」(A経営者の言)。3ヶ月の審査ペースで1ヵ年続けることをA経営者は腹を決めている。その上でも尚且つ赤字となると「荷主との取引を辞めるしかない」と悲壮な決意である。数字を把握し、コミュニケーションをよくしていくという両輪で、A経営者は進むしかない。正に“死中に活”を見出そうとしている。

以上