「人を活かす、経営に活かす」第19回
― ドライバー人材育成取組み事例7 ―

軽油価格のプレッシャーが重くのしかかっている。A社は対前年比で燃料費が25%アップし、その分前年の黒字分を食い潰してしまった。今期の決算見通しは赤字転落となっている。

(1)「燃費効率」表彰規定の実施

表1( 参照:PDFファイル54KB )の通り「燃費効率」表彰規定を作成している。背景は言うまでもなく赤字転落である。A社は食品分野を担当する運送会社である。拠点は5ヶ所、車両台数は100台ばかりである。年間の運送収入は約9億で、燃料費率は10%である。燃料費は年間9,000万である。これが25%アップしたので約2,300万弱が利益を食い潰した。2,300万は9億の年商に対して2.5%に達する。赤字転落もやむなしである。A社社長は非常事態宣言を発表する。5拠点の長(所長)を集めた所長会議の席である。「このままでは我社は首を締められる」

そこでドライバー一人一人に目標燃費効率を設定して、燃費効率削減に取組むこととした。燃費効率削減のねらいと平行して無事故を実現するドライバーの育成がある。一石二鳥である。燃費効率はスピードの抑制がポイントである。スピードを抑制することは安全運転で仕事をしなければならない。更に急発進、急ブレーキといった急のつく運転をやめることは燃費効率に繋がる。運送業に対して社会の目は厳しさを増やしている。安全面のプレッシャーである。飲酒運転とか過労運転についてはドライバーだけが罰則を受けるだけでなく、事業主にも責任が追求される。国土交通省によると即刻営業停止処分を課すとしている。「このままでは運送業はやってられないよ。荷主の運賃もこちらの思うようには上がらないし、いじめにあっているようなもんだよ。こちらだって好き好んで過労運転しているわけじゃないよ。そうしないと食っていけなから、やっているだけなのになあ。」と嘆いてばかりいても始まらない。無事故を実現するドライバーの育成は必須の課題である。一石二鳥として燃費効率をアップして、赤字から脱出する。まったなしとなっている。

A社長の危機感は深い。大号令の下、所長は必死になって取組んだ。添乗指導して模範ドライバーの省エネ運転をビデオに撮った。社内ビデオの作成である。外部の省エネ運転のビデオではなく、自社ビデオの作成である。目標燃費効率を達成するドライバーの割合も増えてきた。営業所全体の燃費効率目標についても達成する拠点が5拠点の内、3拠点までになった。あともう一息である。

(2)月報の活用

表2( 参照:PDFファイル12KB )の月報を活用する。A社での所長会議は、これまで社長の一方通行、叱咤が中心の会議であった。会議とは名ばかりである。そこでドライバー育成と平行して所長のマネジメント力を向上するために月報を活用する。所長といってもドライバーに欠員が生じれば、自らハンドルを握る。朝から深夜まで身を粉にする毎日である。ところが報告、連絡、相談が今ひとつである。しかも、書くことが苦手ときている。全員ドライバー出身の所長であるので、現場には強いがマネジメント力には欠ける。そこで月報を通じてマネジメント力をつけることとする。月報では配送関係、労務関係、車両関係について報告する。配送関係とは、配送コースの増減、問題点(クレーム状況)あるいは、新規荷主について記す。労務関係とは人員の状況、勤怠、ドライバーの健康状況を記す。車両関係で燃費効率アップに取組んでいる状況と稼動率について記す。所長自ら記入することで営業所の実態を把握することをねらいとしている。日々の仕事に追われて人員状況すら把握できていない現状を足元から見直していく。事故関係についても報告する。交通事故と商品事故である。車検による休車日数を減らすため、車検予定もつかんでおく。修繕費についても車検+一般修理+事故修理を合計して走行1㎞当たりの修繕費をつかむ。

月報は月末で占めて、3日以内に作成することとしている。「自分で月報を記入することで何をやらねばならないか、よくわかるようになりましたよ。」ある所長の言である。所長会議はこれまでと違って月報に基づいて所長が発表し、それに基づいて社長がアドバイスをする。営業所の問題点については、他の所長も参加して全員で討議して衆知を集めて解決策を出していく。

ドライバーの育成はドライバーだけで成し遂げられるものではない。ドライバーをまとめていく管理職の成長なくしては、ドライバーの育成は成し遂げられない。「うちのドライバーは質が悪い。」と言っているのは、合わせ鏡で自分のことを言っているに等しい。

A社での危機突破策ははじまったばかりである。取り巻く経営環境は好転する兆しはない。ドライバーの不足も深刻化している。これからはドライバーを育成して定着させることのできる運送会社が生き残っていく。ドライバーの育成、定着にはやりがいの持てる職場文化を創造していかねばなるまい。ドライバー一人一人が目標を持って働く。目標達成者は表彰する。そしてドライバーを支援していく幹部がやりがいを持って働いている。このような職場文化の物流会社が人を育てていく会社である。

以上