「人を活かす、経営に活かす」第15回
― ドライバー人材育成取組み事例3 ―

乗務員人材育成の取組みとして、A社の事例を紹介する。A社は乗務員の質の低下に直面していた。入社してくる乗務員は覇気が感じられない。しかも続かない。『しんどい』と言ってすぐ辞めていく。その上プライドもない。『どうせこんな仕事しかできないさ。』と運送の仕事を見下している。A社長は悩む。どこから手をつけていけばいいのだろうか。そこでA社では乗務員ランク表を作成し、乗務員本人による自己評価表を活用することとした。

(1)務員ランク表の活用(表1参照 PDFファイル:47KB

どうして乗務員にランクをつけるのか。『同じようにハンドルを握っているのに、ランクがつくのか。』との疑問の声をあげる幹部もいた。A社長の考えは違う。ランクをつけることで上へ行こうとする向上心が生まれてくるはずだ。同じようにハンドルを握っていても技術力、経験、体力、積荷扱い能力には差が出てくる。何よりも学習力が生まれてくる。

学習力とは学ぶ力のことである。ランクを上げようとして学ぶ姿勢が出てくる。そうすることで働くうえでのプライドが出てくる。プロ根性が鍛えられてくる。乗務員ランク表は査定点数、車両乗務員能力(技能)、コース乗務能力(距離・体力)、積荷扱い能力(量・重さ・複雑さ)、経験年数でランク付けする。

査定点数とは、自己評価表(表2参照 PDFファイル:41KB)に基づいて査定会議で決定している。査定会議はA社長を中心として経営幹部、配車担当者で構成している。本人評価をうのみにすることなく査定している。査定結果は本人評価とのギャップを分析したうえで、個人面談でフィードバックしている。フィードバックを必ず行うことが大切である。1ヵ年の成績、行動を評価するのでランクの昇格ばかりではない。降格もある。

乗務員ランク表は給与体系に連動している。A社ではランク手当として金額を決めている。1等級から6等級まである。1等級は1万円としランクが上がるたびに1万円を加算し、6等級は6万円としている。『ランクが給与に直結しているので、乗務員の目の色が違うよ。』A社長の言である。それこそ年間12万(1等級)が年間72万(6等級)の違いである。

A社は賞与制度がない。ランク手当が賞与の代わりをつとめている。もちろん評価する側も大変である。評価基準の設定、フィードバックによる納得性の確保、あるいは会社に対する信頼感、これらのレベルを上げていくことが評価制度を活かす。その中心となっているのが、査定会議(月1回開催)である。こうした手間はA社にとって負担ではある。『ただでさえ忙しいのに、この上査定会議とは本当に大変だ。』と当初は経営幹部からの反発も招いたものである。

経験年数として勤務年数を評価項目のひとつとしている。年齢ではなく勤務である。A社長の考えでは続くこと、辞めることもひとつの評価要素である。車両乗務能力のアップに向けて大型免許取得の奨励制度もある。免許取得に関わる費用の50%を補助している。コース乗務能力のアップのためには、添乗指導のカリキュラムがある。添乗指導の指導員は6級ドライバー(24点以上)が担当している。積荷扱い能力については乗務マニュアルを作成している。こうした支えをしっかりして評価制度を運用している。

(2)自己評価表の活用(表2参照 PDFファイル:41KB

自己評価は10項目ある。満点で100点である。査定会議の資料として活用する。本人とのギャップが個人面談で明らかにされる。自分がいいと思ってもギャップがあることに気付かせていく。評価基準を明確にしている。

1. 挨拶 挨拶訓練を行い、そこでチェックしている。月1回行っている。声の大きさ姿勢をチェックしている。
2. 言葉使い 荷主クレームがあるかどうかで、判定している。配車とのやり取りについてもチェックする。
3. 態度 荷主クレーム件数で判定する。特に待機時間についてチェックする。車内でハンドルの上に足を投げ出したりするのは、もってのほかである。
4. 制服制帽 点呼時にチェックする
5. シートベルト 荷主巡回パトロールのときに、チェックする。
6. スピード デジタコで判定する。高速道では80キロ以下を守っているかどうかでチェックする。
7. ヘルメット 荷主巡回パトロールのときチェックする。
8. 配車協力 気持ち良く配車に協力しているか。配車拒否はしていないか。
9. 書類提出 運転日報はきちんと書いているか。提出遅れはないか。
10. 車両管理 愛車チェックリストに基づいて行っている。

それぞれの項目ごとに評価基準を明確にしている。業務日誌で記録するようにしている。

乗務員ランク表と自己評価表の活用はA社にとっては、乗務員人材育成の取組みで大きな成果をあげている。A社長云く『プライドを持って働くようになったことが大きい。乗務員が生き生きしてきたよ。』

以上