「人を活かす、経営に活かす」第12回
― 業務員人材育成への取組み ―

「荷主から見て我社は信頼に値する会社か。」

物流企業トップの内省である。ここのところクレ-ム、トラブルが目立って増えている。入社してくるドライバーの中には働く意欲そのものが感じられない者もいる。きつく叱るとプィッとそのままいなくなったりする者や、人生に対するガッツが感じられない者がいる。デモシカドライバー、とりあえずドライバーの出現である。「ドライバーにデモなるか。ドライバーシカできないよ。他にすることないしなあ。」「先行きのことはわからないけれど、とりあえずドライバーでもするか。」こうした事態に直面して従業員意識調査を実施することとした。

(1)従業員意識調査の活用

従業員意識調査の目的は、荷主からみて信頼される運送会社の従業員の条件について気付きを促すことにある。その上で現状とのギャップを分析し、弱みと強みについても明らかにしていく。組織風土の改善行動へと連動させていく。従業員調査表(表1参照:PDFファイル136KB )は、ホスピタリティサービス度合いについて質問する。ホスピタリティサービスは、

A 良い印象の挨拶
B 親切で丁寧な話し方
C キチンとした受け答え
D 「声掛け」
E 明るく爽やかな接し方
F 温かみのある態度
G 清潔感のある身だしなみ
H キビキビとした仕事への取組み
I おもてなしの気持ち
J 仕事中の私語
K マナー向上への学習意欲
で構成している。
別の見方で言えば、ホスピタリティサービスは心の再生、ソフト面について質問している。質問は本人(従業員)と管理者について実施し、ギャップを明らかにしていく。A~Kの中で低い点に注目する。あるいは、A~Kの中で管理職と本人との点数が逆転している項目に注目する。強みと弱みについても分析する。分析後は、従業員へフィードバックし、改善行動へと連動させていく。

(2)従業員意識調査表-A社の事例

A社の項目ごとの集計は( 表2参照:PDFファイル115KB )の通りである。A~Kの平均は、2.49(本人)、2.33(管理職)となっている。運送業の評価レベルは

S-4.5以上5未満
A-3.5以上4.5未満
B-3以上3.5未満
C-3未満

である。従ってA社はCとなりレベルは低い。項目別に見ると仕事中の私語1.9、声かけ2.0、親切で丁寧な話し方2.4がワースト上位となっている。本人と管理者とのギャップが大きいのはキチンとした受け答え(ギャップ0.8)おもてなしの気持ち(ギャップ0.6)が目立っている。「トータル平均2.49でCの評価のままであるならどうなるか。ますます荷主の信頼を損なっていくばかりではないか。このままでは同業他社に遅れをとって取り残されてしまう。」A社のトップは従業員意識調査の結果を分析して愕然とした。「これではクレーム、トラブルが後を絶たないのは当たり前の話だ。モラールが低すぎる。」

(3)A社トップの実践行動

トップは全社員に周知する為に各職場に模造紙を使って、自ら作成した”組織風土の変革方針10ヶ条”を発表した。

まず( 1 )自社の好ましくない職場風土として次のように指摘した。「従業員意識調査表から伺われるのは暗い職場ということだ。仕事への取組みも私語が多くダラダラしている面がある。声かけを始めとする挨拶ができていない。車中に食べ残しの弁当や飲みかけの飲み物缶が放置されている。清潔さが足りない。管理者も見て見ぬフリをしている。これでは我社はピンチ」そこで( 2 )自社の好ましい組織風土として次のように変革方針10カ条を発表した。

変革方針10ヶ条
1. 挨拶は明るく大きくはっきりとしよう。
2. 見て見ぬフリはやめよう。
3. 制服はキチンと着用しよう。
4. 呼ばれたら「ハイ」と返事をしよう。
5. 身だしなみ(髪、爪の色)は爽やかにしよう。
6. ミス、クレームは隠さず原因分析しよう。
7. 毎日の清掃はキチンとしよう。
8. 社速(車のスピード)はしっかり守ろう。
9. 感謝の気持ちを持って働こう。
10. 会社の代表は自分であることを自覚しよう。

必ず実行できる変革方針10ヶ条である。頭でわかっていてもイザとなると実行に結びつかない事もある。だからこそ模造紙に書いて自らの熱意を伝えていく。「必ずできる」

ゆでガエル会社になってはならない。ゆでガエル会社とは生ヌルイお湯に浸かっていつまでも行動を起こさず、ついにはお湯の中でゆでガエルになってしまう会社のことである。ピンチをピンチとも思わない。危機感がない。正にゆでガエルである。運送会社の経営は心の再生がポイントである。諦めムードがある。いくら言ってもダメだ。どうしようもない。こうした意識を変革してプラス発想へと転換する。トップ自ら率先して行う。プラス発想とは職場風土それ自体の中に改革のエネルギーがあることを確信することである。改革エネルギーに蓋をしたり、閉じ込めたりしているのは何か。それはトップ自体の心にある。A社トップは変革方針10ヶ条の実践によって会社全体の活性化にチャレンジし成果を上げている。

以上