「人を活かす、経営に活かす」第08回

A物流センターには悩みがある。パート、アルバイトが主力でセンター運営を行っている。ザルで水をすくうがごとく定着しない。パート、アルバイトの主力は女性である。定着しない理由はどこにあるか。「時間給が安い」「仕事がハードである」「人間関係が悪い」・・・はたしてこれだけの理由であろうか。A物流センターのリーダーは悩む。

A物流センターでの職場改善事例

(1)職場風土の分析

リーダーとパート、アルバイトさんとの信頼関係がない。リーダーはいつも内心「どうせパート、アルバイト、求人すれば集まってくる」とタカをくくっていた。必要な情報は伝えず、指示、命令中心の管理でやってきた。いわゆる全員参画型でミーティングによって知恵を出し合っていくやり方ではない。「言われたことを言われた通りにせよ」のスタイルのみ。その上、リーダーはよく出来るパート、アルバイトに何かと声をかけて可愛がる。よく出来るパート、アルバイトがぬし主みたいになってくる。
いじめみたいなことも起こる。うわさやヒソヒソ話が蔓延している。気に入らないパート、アルバイトには挨拶すらしない。職場が暗い。古い話であるが日露戦争の203高地の戦いみたいなものである。当時のロシア軍が攻めて死守している203高地を日本軍が攻めていく。日本軍のシカバネは累々たる惨状である。やっとのこと日本軍は203高地を攻め落とす。そこに至るまで死者はすさまじいものがあった。A物流センターにおいてもザルで水をすくうが如くパート、アルバイトがやめていく。定着が悪い。当然の事ながら収益も赤字、物流品質トラブルも多発している。

(2)物流品質向上パーソナルシートの活用

全員参画型の職場に改革していくこととする。職場ミーティングを週1回定例化(各30分)していく。この職場ミーティングの実践の中で「物流品質向上シート」( 表1:PDFファイル39KB )がうまれ活用されることとなった。リーダーのお気に入りのパート、アルバイトの重用ではなく、物流品質向上等級を設定することとした。6ヶ月間で事故ゼロ、クレームゼロで1級、3件で2級、5件で3級とする。6ヶ月ごとに等級を見直す。その上で物流品質向上へ向けての具体的行動を全員の前で発表する。1週間に1回のミーティングの場でチェックする。よく出来た○、悪かったで×とする。○で10点とする。ミーティングの場で×の原因について意見を出しあう。どうすれば×ではなく○になるか知恵を出しあう訳である。人間とは面白いところがある。指示、命令のみでは意見も出てこないが、3人寄れば文殊の知恵というように、いろいろとアイデアが湧いてくる。リーダーの姿勢も変わってくる。誰でも出来るような仕事のやり方を心掛けていくようになる。全員が仕事の主人公である。6ヶ月で1級の人はMVPということで表彰するリーダーが推薦文を書いて社長に報告し金一封と表彰状を交付してもらう。表彰状は職場の掲示板にはり出してみんなに公表していく。

(3)身だしなみ点検表の活用

心の乱れはどこからくるか。身だしなみからである。職場ミーティングの中から朝礼で身だしなみを点検をすることとし、点検表( 表2:PDFファイル124KB )を活用することとした。点検個所は14項目(①帽子②頭髪③ヒゲ④スマイル⑤アクセサリー⑥シャツ⑦ボタン⑧名札⑨ボールペン⑩ベルト⑪ズボン⑫爪⑬作業手袋⑭くつ)である。よく出来ているで○、出来ていないで×とし本人申告と同僚チェックで行う。毎日チェックは行う。「どうしてこんなことをするのか」との反発する声もあったが、毎日毎日実践していくと不思議なことが起こってきた。職場の空気が明るくなってきた。気持ちのいい挨拶が出来るようになってきた。それにつれて事故、クレームが徐々に減りだした。バラバラの気持ちが一つになってくる。小さなことからの改善の積み重ねである。

(4)ヤル気が出てくる

「時間さえ過ぎれば時間給がもらえる。心の中ではイヤイヤでも時間さえ過ぎればそれで良し」との風潮が薄れてくる。日々の仕事、ひとつひとつの作業について改善意欲が出てくる。全員参画体制の効果である。1人の100歩より100人の1歩である。みんなで心を一つにしていく効果は大きい。リーダーは反省する。「パート、アルバイトはいくらでもいる。チラシさえまけばそれでよい。もし集まりが悪ければ時間給を上げればいい」と単なるコストとしてしか捉えていなかったことを反省する。それに職場の中にエコヒイキを発生させて変な序列を作ってきたこともまずかった。職場の中が暗く陰湿になってくる。・・・・職場改善は始まったばかりである。“継続は力なり”である。一日一日続けていこう。一つ一つ確実にやっていこう。職場の改善は設備を充実するだけでは十分ではない。いくら建物が立派でもそれだけでいい職場とはいえない。職場の改善はリーダーの働く心の姿勢を変えていくことが大事となる。

以上