「人を活かす、経営に活かす」第05回

(1)労務トラブルの多発

物流業の現場では様々な労務トラブルが発生する。労務トラブルの多発は物流品質を低下、劣化させるもととなる。

入社して6ヶ月で、A君は会社を退職してそのまま労働基準監督署にかけこんだ。A君の職種はドライバー。会社はA君がこの6ヶ月で3件も物流品質トラブル(破損1件、荷主クレーム1件、積み忘れ1件)を発生させたので、「クビ」と言い渡した。ところがA君は「クビとは何だ」とばかりに監督署に駆け込んだ訳である。監督署の指導は1ヶ月分の解雇予告手当を払うことと、6ヶ月分の時間外手当の未払いを払うように通知してきた。採用するにあたって口約束で給与条件を決めている。A君の場合1日(通常12時間の拘束となっている)で10,000円としていた。「これでは時間外手当が未払いである。1日の残業時間数は12時間-8時間=4時間、1ヶ月では4時間×22日=88時間である。時間外手当の計算は10,000円÷8時間×1.25×88時間×6ヶ月=825,000円となる。」労働基準監督署の指導である。会社の社長はびっくりした。「6ヶ月で3件も物流品質トラブルを発生させたものをクビにして何故悪い。その上、時間外手当の未払いが825,000円、解雇予告手当1ヶ月で220,000円、合計1,045,00円払えとは何たることだ。これでは会社がつぶれる」

(2)有期雇用契約書を活用する

このような労務トラブルを防ぎ、物流品質向上を成し遂げていく手法として有期雇用契約書( 事例1:PDFファイル14KB )の活用がある-先述のケースでは口約束で6ヶ月は試用期間とする。かつ残業込みで1日10,000円とする。物流品質トラブルを6ヶ月間で2件以上発生させたら正社員への登用はしないとしてきた。そこで口約束ではなく有期雇用契約( 事例1:PDFファイル14KB )を締結する。先述のA君の仕事では、拘束は通常12時間であるが、途中待機時間が2時間程度あるので、合計休憩時間は2時間とし、待機時間は労働時間に算入しないことで合意した。ポイントの一つは「業務遂行途中においては、健康と作業の安全を考慮し各自適時、適切に休憩をすること」という文言である。ポイントの2は残業含んで10,000円ではなく基本給として1日6,000円と設定し、業積時間外手当として1日4,000円と設定することである。すると先のケースでは6,000円÷8時間×1.25×88時間×6ヶ月=495,000円(法所定の時間外手当)となり、4,000円×22日×6ヶ月=528,000円(業績時間外手当)に含まれているので残業代の未払いはナシとなる。更にポイントの3は服務規定と事故査定である。服務規程とは「本要件違反は給与等の労働条件引き下げ処分のほか解雇等制裁処分の対象」と明記し、事故査定についても「給与のうち10%は無事故勤務分とし、事故発生の場合は損害の程度と過失の程度を考慮して給与の範囲で一定期間減額」と明記している。先のケースでは、物流品質トラブル3件は服務規定に抵触し退職勧告のケースであり、正社員の登用は出来ないこととなる。「試用期間中2件以上の物流品質トラブルは退職を勧告する」とあるからである。

(3)個人面談シートを活用する

労働基準監督署に駆け込んだりする真因はどこにあるか。たしかに給与の額もあるが、もっと深いところではコミュニケーションの不足、職場の風通しの悪さがある。そこで個人面談シート(事例2:PDFファイル8KB )を活用する。給与内容、仕事内容、生活状況の3項目について上司が面談する。面談時間は原則として30分としている。上司は聴き役(ヒヤリング)にまわり説教とか押し付けはしない。その為にはタイミングよく質問を行い相手の心を開かせ、相手を受け入れ(受容)ていく。こうした面談プロセスで被面談者(ドライバー)の気付きを深めて仕事へのやる気を向上させていく。給与内容については個人収支のところで燃費効率と有料代、修繕費等のコストを公開していく。コストの低減が給与アップになることを知らせていく。売上(運賃)についても知らせて、如何にして売上を上げていくか考えさせていく。仕事内容については、配車への要望とか荷主情報について聞き出していく。生活状況については借金の状況や体調のことを聞き出していく。こうした面談プロセスを1ヶ月に1回、各30分継続することで、自然と心が通い合ってくる。労務トラブルの多発という状況は改善されてくる。面談者(上司)は被面談者が仕事のプロであることを認める。その為、個人面談ではコーチ役を務める。給与を上げていく力は本人にあることを気付かせていく。売上を上げて経費を節約すれば給与は上がる。物流品質トラブルゼロを続けていけばプロとしての評価が高まっていく。職場の様々な問題、とりわけ物流品質トラブルの解決は外部にはない。会社内部の力、働く一人一人の可能性の発揮によって成し遂げられていく。
「自分は一人ではない。自分のことを受け入れて聞いてくれる。個人面談で何を話そうか、いつもドキドキする。個人面談が終わると、よし来月も頑張るぞ!無事故ノートラブルでいこう!とフツフツとやる気が出てくるよ」(個人面談を受けたあるドライバーの言より)

以上