vol.21

2000年9月27日に86歳で亡くなった母親の7回忌を今年の夏、8月に大阪で行なった。兄弟(姉・弟)とそれぞれの連れ合いが出席した。母親の想い出がいろいろと蘇った。私は2000年9月27日に母死すの一報を大阪で聞いたが、そのまま東京へ出張した。通夜は9月28日、葬式は翌29日に決まった。母親の通夜には、夜遅く12時頃に駆けつけた。9月28日に東京で物流経営セミナーがあり、講師を務めていたからである。喪主(私)が不在のまま、通夜の式がとり行われた。「経営コンサルタントの仕事はヤクザみたいなもんだな。親の死に目にも会わず、通夜の式にも間に合わないなんて刑務所でも入っていたのか」とクライアントの経営者にやゆ揶揄された。確かに因果な仕事である。「物流経営セミナーの講師を辞めることができて、代わりの人に急遽頼めたか。経営指導の訪問日のスケジュールは代えることはできる。しかし、講演となると50人余りの参加予定者に迷惑が掛かる。やむ得ない。通夜の式は出られない。」以上が当時の私の判断である。今にして思えば、それで良かったのかという反省もある。母は70歳を超えてから入退院を繰り返し、晩年の10年は病院暮らしであった。病院といっても老人保健施設である。徐々にボケでしまい、亡くなる2~3年前は見舞いに行っても私の顔を忘れるほどであった。(しかし自分には依邦(私の名前)という息子がいたことは記憶していたと思う。)月の内、1回以上は必ず見舞いに行っていた。見舞いに行く度、半分は覚悟し、いつ死んでも驚かない心持ちであった。にも関わらず、母死すの一報にふれたとき悲しみが溢れた。物流経営セミナーが終わって東京から広島への新幹線の車中で涙が溢れて止まらなかったことを想い出す。それにしても通夜の式にも間に合わない仕事とは何たることか。「やはり講師はやめて、別の日にすることが正しかったのか」。7回忌にあたって繰り返し、反芻(はんすう)した。しかし結局はあれで良かったのだ。それが経営コンサルタントの仕事であると改めて確認した母の7回忌であった。

vol.22

経営コンサルタントの資質は何か。今回からこのテーマで連続していく。前提としてファームとか大組織に属する経営コンサルタントに求められる資質ではなく、一匹狼型の経営コンサルタントとする。(私も後者タイプである。)

◆ 運の大切さ ◆

運というものがある。省りみて私が経営コンサルタントとして生きてこられたのは、運の力が大きい。考え抜いて現在があるのではなく、行きあたりばったりというか、出会いの連続で今日まできている。物流業界に特化しているだけで、あとは自然体である。例えば東奔西走、全国各地を飛び回っている。このことも計算してそうなったのではない。きっかけの一つは全国各地のトラック協会とか中小企業大学校等で講演したことである。この経験をもとに自らの会社((株)シーエムオー)で「全国セミナー」と称して全国行脚するようになった。このプロセスで様々の物流企業の経営者、経営幹部と出会い経営指導を展開するようになった。「全国セミナー」の会場参加者は最少で1人ということもある。5年前に北海道の旭川で講演したセミナーの参加者は、1人であった。事情の許す限り、1人でも行う。すると心境の変化がある。たくさんの受講者が参加して頂くことを願いとするが、例え1人でも参加して頂くことは、ありがたいことだと思うわけである。こうした感謝の気持ちで行わないと1人の参加者のセミナーは出来るものではない。そしてこの1人が後々いろいろなつながりに発展する。目先の収支で言えば、会場費はおろか交通費も出ないこともある。それでもやるときはやることで、繋がりが出てきた。正に運の力ではなかろうか。運を大事にすること、長持ちさせるにはどうすればいいのだろうか。私にはわからない。ただ諦めず努力し続けていくことである。人生は一回限りである。生きているうちが花、活動しているうちが花と思って続けていく。

vol.23

継続は力なり

経営コンサルタントの資質の一つとして、“継続は力なり”ということがある。 全国各地を駆け巡る日々でのことである。

東北地方で75歳の現役の大工さんにお会いした。「私は60年ずっと大工をしてきましたよ」。聞けば、息子さんは四国の新居浜で大手製造メーカーに勤務(42歳)しているとのこと。孫も二人いる。年に2~3回は孫の顔を見に行くという。「息子は東大を卒業しました。親の背中を見て育つとは、よく言ったものですね」。75歳の大工さんは、酒もやらず煙草もやらず黙々と働き抜いてきた。そうした父親の背中を見て育ったことが大きい。「更に母親の子育ても大きいですね」。70歳までは、4~5人の大工のメンバーのリーダー(棟梁)を務め、今は一人大工でやっている。「今では同じ大工仲間の相場より、二分の一の値段でやっています。雪の降り積もる1月と2月は休みますが、年中一日も休まず働いていますよ」。楽しみは近くの温泉場に朝5時に起きて朝風呂に入ることだとのこと。「この年になると金に困らないこと、健康であること、この2つが一番大事ですよ」。75歳の大工さんは、2つとも備えている。その秘訣は、どこにあるのか。それは60年間、一筋の道を歩き続けてきた“継続する力”にある。良い日もあれば曇る日、雨の日、時には嵐の日もある。75歳の大工さんによると、継続する秘訣について次の様に言われる。「良いことは悪いことの始まり。悪いことは良いことの始まりですよ。とにかく一歩一歩、一日一日心がけを良くしていくことですよ」。

物流業を取り巻く経営環境は、決して明るいものではない。前門の虎、後門の狼である。前門の虎とは、運賃が思うように上がらない、後門の狼とは軽油価格を始めとするコストアップのことである。このときに当たり、一筋の道を歩き続けていくことが生き残る道である。継続するという心の姿勢がパワーを産み、強くしていく。経営コンサルタントの活動姿勢にとっても継続が大切である。

vol.24

映画「フラガール」を2回見た。常盤炭鉱の跡地を利用して夢のハワイを出現しようと作られたスパリゾートハワイアンズのフラガール(踊り子)の物語である。実は私は最初に出版した「企業活性化経営」(1990年:家具産業出版社 発行)の中でスパリゾートハワイアンズの踊り子の活躍を紹介している。小集団活動の記録である。スパリゾートハワイアンズは小集団活動で1988年10月デミング賞の栄誉に輝いている。フラガール(踊り子)の小集団活動のテーマは「化粧の合理化」である。化粧の手順を調べて現状分析する。化粧代は月に20,000円かかる人もいれば、7,000円ですむ人もいる。どこにこうした差が出ているのか。問題点の分析である。その為、眉、目の周り、唇などの顔の7ヶ所を決める。その上で、お互いに見栄えを良い、普通、悪いの3段階で評価し合う。その結果、見栄えの悪いのは目の周りに集中し、新人ほど見栄えが悪いのが目の周りと判明する。対策として、化粧法の研修を新人を対象として行い、相互啓発して見栄えを向上させていった。こうした小集団活動のストーリーを紹介したわけである。こうした伏線があったので2006年秋に公開された「フラガール」は是非ともといった感じて見にいった。炭鉱の娘がやったこともないフラダンスに必死に取組み見事にやりきっていくストーリーは感動させられる。「ここの人は、一度地獄を見てるから。炭鉱がだめになって、みんな東京だ、千葉だってばらばらになって。会社が傾くとどうなるか、いやと言うほど見たから」。(スパリゾートハワイアンズの従業員の言葉)フラの心は分かち合いの心、愛の心である。仲間で助け合うという一番大切なことを小集団活動で実践したわけである。「フラガール」の中でのワンシーンが心に残る。一際、大柄な女の子(南海キャンディーズのしずちゃん)が不器用でありつつも、一人前となり、いよいよというところで、父親が炭鉱事故で死亡する。舞台は中止して帰ろうとなったとき、当の父親を亡くした本人が「舞台に立つ」と宣言したシーンである。プロの心構えを深々と感じさせてくれた。

vol.25

「年末年始も仕事をしないといけません。1月1日の元旦も仕事です。こうなると荷主に特別料金を請求してもいいでしょうか」とある運送会社の経営者からの質問である。当然、請求する権利はある。大晦日や正月に働くドライバーを確保しようとすると大変である。人情としては、大晦日はゆっくりさせてあげたい。ところが除夜の鐘を聞きながら仕事をせざるを得ないという。そうすると給料も年末年始の上乗せでもしないといけない。そこで、荷主への特別給料ということになる。請求はできても実際はどうか。特殊ケースは別として普通は、荷主の答えはノーである。厳しい。荷主と運送会社の力関係の成せる業である。物流サービス業の現実である。そうすると物流サービス業で働く者にとっては苦しいことばかりか。確かに他人様が寝ているときや休みの時に働くのは辛い。ここで立ち止まると苦痛しかない。物流サービス業の喜びを発見し、深めていくことである。

お金(給料)のみが好きということになると物流サービス業はおもしろくない。自分が働くことで喜ぶ人や会社がいる。他人様「ありがとう」と言ってくれる。こうした他人様の喜びが生きがいとなる。「この仕事が天職です。この仕事が好きです」といった社員が何人いるか。あるいは、経営者自身はどうか。こうした他人様に尽くすという意識変革は物流サービス業にとって大事なことである。

平成19年は、私にとって経営コンサルタントとしての原点に立脚する年としたい。物流経営講座を大阪でスタートし、平成19年度は20年の節目となる。節目にあたり、物流経営研究会の会員企業は1社3名までは物流経営講座の受講料を無料としている。1名でも多くの人に出会い、交流を深めていきたく念じている。経営コンサルタントとしての原点は他人様の喜びを糧にできること。他人様に尽くすという貢献への情熱のことである。そして、経営コンサルタントとの仕事を天職とし、もっともっと好きになることである。