vol.06

経営者にとって必要なのは情熱・熱意・執念である。心のパワーである。身ひとつからスタート、車一台から創業して30年。今では車両台数数百台の規模にまで成長・発展させてきた創業者がいる。会社設立30周年の記念式で彼は挨拶する。「みなさまのおかげをもちまして我社はここまで成長することができました。ますしゃにつぐますしゃの日々でした…。」会場の聞くものはハテと訝る。「ますしゃとは?」彼は他人が作成した原稿を棒読みしている。ますしゃとは増車(ぞうしゃ)のことである。彼は学歴は中卒、しかもまともに学校には行っていないヤンチャな青春を送り運送業界に飛び込んできた。正に情熱・熱意・執念を振り絞って駆け抜けてきた。「すぐやる!必ずやる!」をモットーとしている。彼のどこがすごいのか。それはドライバーのやる気をかき立てていくコミュニケーション術にある。声の掛け方からはじまって実にキメ細かく指導する。しかもユニークである。「オレ達はプロだ。プロは1円のお金でもありがとうございますと言えるのがプロだ。」小さな積み重ねの大切さが1円のありがたさということで悟す。筆者はあるとき、創業者が机の上で給与明細書を並べている光景に出くわしたことがある。あるドライバーの6か月分の給与明細書を眺めている。「何をされているんですか。」「6か月分の給与の変化を見て、ドライバーの働きぶりをチェックしているんだよ。」300人ぐらいまでは、創業者自ら毎月のドライバーの給与の最終チェックを行っていたという。記憶力がすごくて6ヶ月前の給与額まで頭に入っていて最終修正して給与額を決めるという。「オレが給与規定である。」との口ぐせで一人一人の顔と名前、日々の運行状況を全て把握して給与を決定する。その上で働きの芳しくないドライバーはすぐ呼んで直接面接する。究極の1対1のコミュニケーション術である。ぞうしゃ増車をますしゃと読み違えてもそんなものは、何の問題もない。

vol.07

全国各地を行脚している。給与・人事に関するセミナー、経営指導を主たるテーマとして行脚している。そのせいか、ほぼ全くの休みというものが無くなってきた。全くの休みがないというのは、他人からみるとどうなるか。「ストレスはないのか。体力はもつのか。」こう心配される。ところが本人はそうでもない。まだ仕事を心から楽しむという境地ではないが、仕事を続けていくことで癒されると感じることがある。ワーカーホリック(働き中毒)そのものとみられるかもしれないが、遊びも結構疲れる。昔、パチンコやマージャンに精を出していたときも、その時は楽しかったが終わってみると疲れていた。仕事の中で癒されるとは、どういうことか。一瞬すくわれたような感じになることがある。

90歳まで現役の大型ドライバーとして走っていた経営者がいる。90歳の声を聞いて息子に社長職を譲った。温泉のある地域の荷物があると、大型トラックに喜んで乗り、ハンドルを握って走った。帰りはゆっくりして温泉につかるのを楽しみにしていた。仕事そのものが人生そのものである。

こういう経営者に会うと我ながら内心癒される。「まだまだ自分如きはたいしたことない。90歳まで現役でいることすら想像つかない。」この経営者は92歳となった現在も、毎日会社に出社している。一応、会長である。

先日は、仕事の合間をぬってクライアントの経営者が津軽半島の竜飛岬を見せてくれた。“ごらん、あれが竜飛岬、北のハズレ”と自然と歌が口に出る。ここにも花が咲いている。ここにもカモメが舞っていると妙に心に染み入ったものである。

なかなか仕事を心から楽しむという達人の境地には程遠いが、仕事の中に人生があると感じいる。喜びがある。つらさがある。しかし、これが人生というものである。特に地方の風情というのは味がある。都会とは一味違う。そういうことを感じることは、経営コンサルタント冥利のひとつであろう。

vol.08

“毎日が一からの出発である。常に前を向いて後は振り返らない。過度にクヨクヨしない。後悔もしない。今日一日に全力を尽くす。目の前のことに集中する。”これらの姿勢をモットーとしている。なかなかモットー通りにはいかないことが多い。やはり後悔する。「あの時の経営アドバイスはあれでよかったか。」「ものの言い方がきつ過ぎなかったか。」「本当に働く人の心がわかっているのか。」・・・いろいろと思い惑うこともあるが、それはそれとして今日一日、これから再出発、再起、再チャレンジと気持ちをリセットしている。常に吸収してそれをアウトプットする。それの繰り返しである。

時々頭をかすめる詩として「雨にも負けず、風にも負けず」(宮沢賢次 作)がある。雨が降ろうが風が吹こうが自らの信念に基づいて、いわば人助けに西に東に飛び回る。無私、奉仕の実践である。かえりみて自分ははるかに及ばない。ちょっとでも肉迫するとすれば、活動力しかない。それこそ、西、東、必要とされる限り活動する力である。いつの日か勇気や希望を与えられる経営コンサルタントに成長したいものである。「雨にも負けず、風にも負けず」の詩の中では、勇気や希望を与えているさまが表現されている。飢饉とかの不幸を共有して励ます姿を浮かびあがらせている。それに比して自分は修業が足りない。少なくとも絶望をまき散らす経営コンサルタントであってはならないと固く自戒する。会うと落ち込む経営コンサルタントではなく「よし、がんばろう」「心のモヤモヤが晴れてスッキリしたよ。」とか言われるようになりたいものである。その為には単なる知識、情報を豊かにするだけであってはならない。単なる知識、情報はインターネットでも充分、それこそ膨大である。やはり足で稼いだ生きた知識、情報を武器とする。その上で人間力を鍛えていくことである。人間力とは修羅場に強く、困難から逃げない。チャレンジする姿勢を発揮する。・・・

一言で言い換えれば、強い心を磨いていくことである。さあ、今日一日“雨にも負けず、風にも負けず”で出発進行。

vol.09

最も著名な経営コンサルタントの1人としてピーター・F・ドラッカー氏がいる。彼は1909年生まれである。96歳の現役、かつ大学教授でもある。私も経営コンサルタントの端くれとして仰ぎ見る想いでドラッカー博士の著作を折に触れて読ませて頂いている。それにしても90歳を超えても活動しうるとはすごいことであると感心している。そこまで活躍できる秘訣はどこにあるのであろうか。『事業の目的として有効な定義は一つしかない。顧客の創造である。』(ドラッカーの言)やはり顧客の支持がなければ、活躍できない。運の力もすごいと思わざるを得ない。

「仕事は死ぬまで、寿命はあるまで」と題する本を読んだ。95歳現役ランナーの足跡、馬杉次郎作とある。87歳の時にカナダバンクーバーのハーフマラソン完走、引き継いて90歳代でもいろいろのマラソン大会に出ている。「継続は力なり」を胸に刻んで神仏に生かされている自己に感謝し「仕事は死ぬまで、寿命はあるまで」を座右の言葉としている。

95歳の現役ランナーの馬杉次郎氏云く「百まで元気で生きるには毎日運動を絶やさずに快食快便安眠し、明日はあれしてこれしてと目標を立てて暮らしましょう。くよくよせずに諦めて。どうせこの世はままならぬ。疑心暗鬼は体に毒よ。物事判断良い方へ、気分転換からだに薬。人生苦もありゃ楽もある。なるようにしかならないと思えば気も晴れる。」

ドラッカー教授と馬杉次郎氏の共通項は前向きに生きる。目標を持つ。持続する志といったところではあるまいか。心の持ち方の大切さを思い知る。さん三しん心ということがある。為に生きる心、思いやる心、諦めない心である。自己の為ではなく人の為、人を思いやる、持続する心とでもいえよう。私としても経営コンサルタントの一人としていささかであるが、「しん心でん田を耕す」ことに努めたい。自らの内にある大いなる宝を耕して三心を磨いて「仕事は死ぬまで、寿命はあるまで」で生きる。

vol.10

いつしか秋風が心地よく吹く季節となった。平成17年もいよいよ後半、言ってみれば第4コーナーに差し掛かっている。毎日々が精一杯といった心構えで活動している。とにかく今日一日全力を尽くすこと、このことが明日に繋がる。

「労働組合の結成通知がきました。どうしたらいいでしょうか。」ある経営者からの緊急連絡である。社員20名ばかりの運送会社である。要求の主なものは、年間休日105日を認めよ、時間外手当の未払賃金を2年間に遡って支払うこと。「私の会社は、入社するときに残業込みで30万ということを口頭で説明しています。休日は30万にプラスして休日手当を払っています。」経営者の言である。労働時間は運行コースごとに設定している。午前2時から11時が一般パターンである。ところが実際は1:00出勤、終了が12時になったりする。その分の時間外手当が未払いなので払えというのが労働組合の要求である。社長からしてみれば仕事の要領が良くて、早く帰ってくるものもいる。残業を払えば仕事の遅いドライバーに給料をたくさん払わないといけないという割り切れないことになる。まことに労働基準法は画一的で実態にそぐわない。ドライバーの賃金は休日出勤を含んで平均40万となっている。ドライバー賃金の同業他社比較でも決して安くない。ところが105日の休日を保証せよと言っている。「これでは運送会社は経営ができませんよ。105日に有給まで要求されると会社は成り立ちません。こうなったらハラをくくって会社をたたみますよ。」

ここからが経営コンサルタントの本領発揮となる。労働組合との対応のノウハウかつ抜本的な給与改革の提案をしていくこととなる。中小運送会社が直面している経営の現実、存続か否かを賭けて経営指導にのり出すこととなる。

「私1人ではとてもこうはいきませんでしたよ。ありがとうございました。」一段落済んでの経営者の感謝の言葉である。経営コンサルタントとして励まされる瞬間である。